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文芸完結長編#職業#発破技士#爆薬#爆発

世界を加速させる爆薬

作者:森本 凛フォロワー 0
北陸の山間部、トンネル工事現場で働く発破技士・柊一成、三十五歳。十五年間、彼は毎朝四時半に起き、装薬し、結線し、発破する。〇・三秒の爆発だけが、彼にとって唯一の「現在」だった。それ以外の時間は、彼にとってすべて空白に過ぎない。同僚たちとの会話も、食事も、妻との結婚生活さえも、爆発の合間を埋める余白でしかなかった。 ある発破の日、装薬孔に紛れ込んだ動物の死骸の処理に手間取り、作業に遅れが生じる。急いだ結線の末、一本の雷管が不発となる。若手技士・田代とともに不発処理を終えた直後、田代は無断で切羽面に戻り、遅発した古い雷管と再点火された新しい雷管がほぼ同時に爆発、田代は右腕を失う。見舞いに訪れた病室で、田代は「爆発を近くで見たかった」「後悔していない」と語り、その目に一成自身と同じ渇望を見る。この出来事をきっかけに、一成の内側で眠っていた何かが目を覚ましてしまう。 以来、一成は装薬量を無断で増やし始める。一・五倍、二倍。切羽面に危険な亀裂が走り、会社から懲戒を受け、産業医のカウンセリングも拒み、ついに自ら退職する。折しも妻・聡子とは正式に離婚が成立し、彼を繋ぎ止めるものは何もなくなっていた。 次に流れ着いたのは、老朽化したダムの解体現場だった。そこで出会うのが、五十年のキャリアを持つベテラン発破技士・戸川。戸川もまた爆発に魅了された男であり、若い頃の事故で仲間三人を失った過去を語り、一成に「爆発に飲み込まれるな」と忠告する。だが一成は再び規則を破って装薬量を増やし、危うく死者を出しかけて解雇される。その直後、戸川は現場で心臓発作により急逝する。 人手不足から一成は再びダムに呼び戻され、ダム本体を完全に破壊する最終発破を任される。彼は密かに装薬量をさらに増やし、そして誰にも告げず、退避せずに爆心近くに留まるという自殺的な選択をする。目前で炸裂する一・六五トンの爆薬。爆発の中に「入りたい」という長年の渇望が、ついに現実のものとなる。 奇跡的に一成は生き延びるが、聴力を完全に失い、発破技士の免許も永久に剥奪される。すべてを失った彼は、二十年間帰らなかった故郷へと向かう。そこには、石工だった亡き父の朽ちた作業場が残されていた。ハンマーと楔で石を割る、爆発とは正反対の、時間のかかる緩やかな労働。父がかつて何を石に見出していたのか、その輪郭に触れながら、一成は少しずつ自分の内側と向き合っていく。父を知る民宿の老婆の言葉を通じて、寡黙だった父の人柄と、生前語っていた「石は生きている」という言葉を知る。 だが、時間をかけて石と向き合う経験を経てもなお、一成は瞬間の破壊への渇望を手放すことができない。父の道具を故郷の作業場に置いたまま、彼は海を渡ることを選ぶ。目指すのは東南アジアの鉱山――そこにもまた、彼を待つ爆発がある。音の届かない世界で、それでも彼はなお光を、轟音を、世界が変容する瞬間を探し続ける。
目次(6話)
最終更新:2026/9/11
装薬
2026/9/11 投稿
遅発
2026/9/11 投稿
起爆
2026/9/11 投稿
破砕
2026/9/11 投稿
殉爆
2026/9/11 投稿
残渣
2026/9/11 投稿
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