ホーム世界を加速させる爆薬起爆
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起爆

 十一月下旬、山は完全に冬の装いとなった。朝の気温はマイナス五度を下回り、坑内の壁には氷が張る。作業員たちは厚手の防寒着を着込み、吐く息は白い霧となって漂う。服装に変化はない。いつもと同じ作業服、いつもと同じ防寒着。寒さは、意識に届かない。
 田代の事故から二週間が経過した。現場は通常運転に戻り、発破は毎日行われている。田代の名前を口にする者は、もういない。事故は過去のものとなり、作業員たちの記憶から薄れ始めた。
 内面には、静かな、しかし決定的な変化が起きていた。それは、装薬量への執着だった。
 十一月二十五日、午前四時三十分。現場に到着した。いつもと同じ時刻。今日は、工具箱とは別に、もう一つの木箱を持っていた。ダイナマイトの予備の箱。通常は必要ない。今日は必要だった。
 切羽面に到達する。作業灯のスイッチを入れる。切羽面が白く照らされる。百二十八本の装薬孔が、規則正しく並んでいる。
 装薬を始める。最初の十本は、通常通りの装薬。一つの孔に二本のダイナマイト。六百グラム。十一本目の孔で、手を止めた。三本目のダイナマイトを手に取る。孔の深度を確認する。三メートル。ダイナマイト二本で孔の三分の二が埋まる。三本目を入れる余地は、ある。
 三本目のダイナマイトを孔に挿入する。装薬棒で押し込むと抵抗があるが、押し込める。三本のダイナマイトが孔に収まった。九百グラム。通常の一・五倍の装薬量。
 次の孔に移る。ここにも、三本のダイナマイトを装填する。切羽面の中央下部、五本の装薬孔に通常より多い装薬を施した。他の作業員が現場に到着する前に、作業を完了させる必要がある。
 午前六時三十分、五本の孔への過剰装薬が完了した。他の孔は通常通りの装薬を続ける。午前七時、神谷が現場に到着した。
「おはよう、柊」
 軽く会釈する。神谷は切羽面を見上げた。
「順調そうだな」
 装薬を続ける。神谷はしばらく作業を見ていたが、やがて事務所に向かった。午前九時、装薬が完了した。百二十八本の装薬孔すべてにダイナマイトが装填された。そのうち五本には、通常の一・五倍の装薬が施されている。
 雷管の装着を始める。慎重に、正確に。五本の過剰装薬孔も、他の孔と変わらない手順で雷管を装着する。午前十時三十分、結線が完了した。導通試験。正常。午前十一時四十五分。発破の時刻が近づいた。
 作業員たちが退避所に集まってくる。退避所に入った。神谷がカウントダウンを始める。
「十秒前」
 目を閉じる。意識を切羽面に向ける。百二十八本のダイナマイト。そのうち五本は、通常より多い。その五本の爆発がどうなるのか、想像する。より強い衝撃波。より大きな破砕。
「五、四、三、二、一」
「発破」
 神谷がレバーを倒す。電流が主線を駆け抜ける。
 爆発。
 瞬間、身体を通常より強い衝撃波が襲った。退避所の壁が激しく振動する。床が揺れる。天井から粉塵が落ちる。轟音が、通常より明らかに大きい。
 目を開ける。爆発は成功した。いや、成功以上だ。
「おい、今の爆発、いつもより大きくないか」
 作業員の一人が言った。
「地盤が緩んでるのかもな」
 別の作業員が答える。分かる。地盤ではない。装薬量だ。意図的に増やした装薬量が、爆発を強化した。神谷も異変に気づいていた。
「今日の発破は、確かにいつもと違うな」
 神谷は視線を向ける。応じない。
 換気が完了し、作業員たちが切羽面に向かう。腰を上げた。切羽面に到達した時、変化を確認した。切羽面の中央下部、装薬量を増やした部分の岩盤が、より細かく破砕されている。岩塊のサイズが、他の部分の半分ほどだ。そして、岩塊の量が多い。
 岩塊を拾い上げる。握り拳ほどのサイズ。表面は滑らかで、爆発の熱で部分的に溶けている。成功だ。装薬量を増やせば、破砕効率が向上する。これは仮説だったが、今日の発破で実証された。
 神谷が近づいてくる。
「柊、今日の発破は切羽面の進行が大きいな」
 神谷は巻尺で距離を測った。
「二十三メートル。予定より三メートル多い」
 神谷は満足そうに笑った。
「いい発破だ。この調子で行けば、工期の遅れを取り戻せる」
 応じない。神谷は切羽面の上部へ視線を向けた。
「上の方に、亀裂が入ってるな」
 見上げる。切羽面の上部、装薬していない部分に、細い亀裂が走っている。
「爆発の衝撃が、予定より広範囲に及んだのか」
 神谷は顎に手を当てた。
「まあ、大した問題じゃない。ロックボルトで補強すればいい」
 神谷は顔を向けた。
「柊、何かいつもと違うことをしたか」
 神谷の目を捉えた。数秒の静寂。
「いや」
 神谷は顔を見つめた。疑念の色がある。証拠はない。
「まあ、いい。結果が良ければそれでいい」
 神谷は重機置き場に向かった。一人、切羽面に残った。岩塊の山を眺める。この岩塊は、自分が作り出したものだ。通常より強い爆発で。奇妙な満足感を覚えた。爆発を変えた。爆発の質を変えた。そして次の実験を既に計画していた。
 その夜、アパートに戻って、ノートを開いた。今日の発破のデータを記録する。装薬量:通常比一・五倍(五本の孔)。結果:切羽面進行距離二十三メートル(通常比一・一五倍)。副作用:切羽面上部に亀裂。次の実験を計画する。装薬量を二倍にする。一つの孔に四本のダイナマイト。千二百グラム。孔の配置図を描く。中央部の十本の孔に、二倍の装薬を施す。どんな結果になるか。それを知りたかった。
 電話が鳴った。電話を手に取る。着信表示:聡子。妻。別居して五年になる妻。電話に出る。
「もしもし」
「一成? 私」
 聡子の声。この声を最後に聞いたのがいつだったか思い出せなかった。半年前か、一年前か。
「久しぶり。元気?」
 答えなかった。「元気」という概念が、理解できなかった。
「一成、聞いたわよ。現場で事故があったって」
 言葉が途切れる。
「田代さんって人が、腕を失ったって聞いた。本当なの?」
「本当だ」
「あなたは、無事なの? 怪我はしてない?」
「無事だ」
 聡子はため息をついた。
「良かった。ニュースで見て、心配したのよ」
 応じない。
「ねえ、一成。今度、会えないかしら」
 窓の外を眺める。暗闇。山の輪郭も見えない。
「なぜだ」
「話したいことがあるの。電話じゃなくて、直接会って話したい」
 聡子の声の調子から、その内容を推測した。
「離婚のことか」
 静寂。数秒の静寂。電話の向こうで、聡子が息を呑む音が聞こえた。
「そう。離婚のこと」
 予期していた。いや、別居した五年前から分かっていた。いつかこの日が来ることを。
「分かった。いつだ」
「今週の日曜日。あなたの町に行くわ。午後二時に、駅前の喫茶店で」
「分かった」
「じゃあ、日曜日に」
 聡子は電話を切ろうとして、言葉を継いだ。
「一成」
「何だ」
「あなた、気をつけてね。変なこと、考えないで」
 応じない。電話が切れた。電話を置いて、ビールを開ける。
 聡子。彼女のことを、ほとんど考えなくなっていた。別居して五年。その間、連絡は年に数回しかなかった。誕生日、正月。形式的な連絡。聡子は遠い存在になっていた。かつて同じ部屋で暮らした女性。今は、記憶の中の影に過ぎない。聡子との過去を思い出そうとした。
 出会いは十年前。発破技士になって五年目の二十五歳の時だった。聡子は建設会社の事務員だった。総務部で給与計算や資材発注を担当していた。本社に書類を提出しに行った時、窓口にいたのが聡子だった。
「発破日報ですね。こちらに提出してください」
 聡子は笑顔で言った。明るい笑顔。その笑顔の奥に、何かを感じた。空虚さだ。自分と同じ、空虚さ。
 それから、月に一度、本社に行くようになった。書類の提出。それは本来、現場監督の仕事だった。だが、自分で行くようになった。聡子と話すために。最初は業務的な会話だけだった。三ヶ月が経った頃、聡子が言った。
「柊さんって、いつも一人ですね」
 返事をしない。
「他の現場の人たちは、複数で来るのに。柊さんはいつも一人」
「一人の方が楽だ」
 聡子は笑った。
「私も、一人の方が楽です」
 それが、二人の共通点だった。六ヶ月後、聡子を食事に誘った。聡子は承諾した。レストランで、二人は向かい合って座った。
「柊さんって、どんな仕事をしてるんですか」
 聡子が尋ねた。
「発破技士。岩盤を爆破する仕事」
「爆破?」
 聡子は興味を示した。
「どんな感じなんですか」
 発破について話し始めた。装薬、結線、点火。そして爆発。話している間、饒舌になっていた。普段は寡黙だが、爆発の話をする時だけ、言葉が溢れてきた。聡子は、話を熱心に聞いた。
「すごいですね。爆発を起こすなんて」
「危険な仕事だ」
「でも、柊さん、楽しそうに話してますよ」
 我に返った。楽しい? 自分の感情を「楽しい」と認識したことがなかった。聡子の指摘は正しかった。爆発の話をする時、何かを感じていた。それを「楽しい」と呼ぶのかどうかは分からないが。
「柊さんって、爆発が好きなんですね」
 聡子は言った。答えなかった。「好き」という言葉も、理解できなかった。爆発に惹かれる。それは確かだった。
 それから、二人は何度か会うようになった。映画、食事、散歩。二人の会話は常に一方的だった。爆発の話をし、聡子がそれを聞く。聡子は自分のことをほとんど話さなかった。過去、家族、趣味。尋ねても、聡子は曖昧に答えるだけだった。
 一年後、聡子にプロポーズした。
「結婚してくれ」
 聡子は驚いた表情を見せた。
「なぜ、私なんですか」
「分からない。だが、お前と一緒にいると、楽だ」
 聡子は笑った。
「それって、プロポーズの言葉としては最悪ですね」
 聡子は承諾した。
「いいですよ。私も、柊さんと一緒にいると楽だから」
 二人は結婚した。式は挙げなかった。役所に婚姻届を出しただけだった。新居は、現場近くのアパート。2DK。狭いが、二人には十分だった。
 最初の一年は、穏やかだった。いや、「穏やか」というより「静か」だった。毎日、現場に行き、発破を行い、帰宅する。聡子は会社に行き、事務仕事をし、帰宅する。夜、二人は同じ部屋にいた。会話は少なかった。爆発の話をする時だけ、会話が生まれた。
「今日の発破は、切羽面が二十メートル進んだ」
「すごいですね」
「装薬量を微調整した結果だ」
 聡子は話を聞く。その目には次第に、何かが失われていった。三年目、聡子は言った。
「ねえ、一成。私たち、夫婦なのかしら」
 聡子へ視線を向ける。
「戸籍上は夫婦だ」
「そうじゃなくて」
 聡子は言葉を探した。
「私たち、お互いのこと、何も知らないわよね」
 応じない。
「あなたは爆発のことしか話さない。私のことは見てない」
「見ている」
「見てない」
 聡子は首を振った。
「あなたにとって、私は背景に過ぎない。あなたの世界は、爆発だけ」
 反論できなかった。
「私ね、最初はそれでいいと思ってたの。あなたの空虚さが、心地よかった」
 聡子は窓の外を眺めた。
「でも、違った。あなたは空虚なんじゃない。あなたは爆発で満たされてる」
 聡子は顔を向けた。
「あなたは爆発と結婚してるのよ」
 静寂が落ちる。それから、二人の会話は更に減った。五年目、聡子は別居を申し出た。
「別々に暮らしましょう」
「離婚するのか」
「まだ、分からない。でも、一緒にいるのは無理」
 聡子は荷物をまとめた。
「あなた、いつか爆発の中に入るんじゃないかって、怖いの」
 聡子は涙を流した。
「お願い。そんなこと、考えないで」
 聡子の言葉の意味が理解できなかった。聡子は出て行った。それが、五年前のことだった。
 ビールを飲み干す。聡子との記憶。その記憶は、まるで他人の記憶のように感じる。
 日曜日。町の喫茶店で聡子を待つ。「カフェ・ド・山」という名前の喫茶店。築四十年以上の木造建築。天井が低く、壁は煤けている。客は他にいない。午後二時。ドアのベルが鳴り、聡子が入ってきた。
 五年ぶりに見る聡子。三十三歳。髪を短く切っている。以前はロングヘアだった。服装も変わった。以前はカジュアルな服を好んだが、今は落ち着いた色のコートを着ている。
「一成」
 聡子は向かいの席に座った。
「久しぶりね」
 軽く会釈する。聡子は顔を数秒間、黙って見つめた。
「変わらないわね。いえ、変わってる。でも、変わってない」
 聡子は曖昧なことを言った。ちょうどその時、ウェイトレスが注文を取りに来る。聡子はコーヒーを頼んだ。首を振るだけで、何も頼まなかった。
 聡子はバッグに手を入れ、封筒を取り出した。
「離婚届。もう記入してあるわ。あなたのサインだけで完了する」
 封筒に視線を落とす。
「分かった」
 聡子は反応を待ったが、応じない。
「それだけ? 何も聞かないの?」
「何を聞けばいい」
 聡子は苦笑した。
「あなたらしいわね」
 コーヒーが運ばれてきた。聡子はカップを両手で包んだ。
「私ね、再婚する予定なの」
 聡子へ視線を向けた。
「相手は、同じ会社の人。営業部の課長。四十歳。優しい人よ」
「そうか」
「来年の春に、正式に」
 軽く会釈する。
「おめでとう」
 聡子は笑った。その笑顔は悲しげだった。
「ありがとう。でもね、一成」
 聡子はコーヒーを一口飲んだ。
「あなたのこと、今でも心配してるの」
「心配?」
「ええ。あなた、変わったわ。いえ、変わってないのかもしれない。でも、何かが加速してる」
 聡子へ視線を向けた。
「田代さんの事故のこと、聞いたわ。あなたが一緒にいた時に起きたって」
 応じない。
「あなた、その事故をどう思ってるの」
「事故だ。不幸な事故だ」
「本当に?」
 聡子は目を捉えた。
「あなた、田代さんを羨んでるんじゃない?」
 呼吸が止まった。
「あなたは最初からそうだった。爆発に魅了されてた」
 聡子は続けた。
「私たちが結婚した頃、あなたはまだ人間らしさがあった。少しだけど」
 聡子は自分のコーヒーに視線を落とした。
「でも、年を追うごとに、あなたは変わっていった。爆発の話しかしなくなった。家にいても、心はいつも現場にあった」
「すまない」
「謝らないで」
 聡子は首を振った。
「あなたは悪くない。あなたは、最初からそういう人だった。私が、それを受け入れられなかっただけ」
 聡子は手に視線を落とした。
「私ね、最初あなたに惹かれたのは、あなたの空虚さだったの」
 聡子へ顔を向けた。
「あなたには、何もなかった。欲望も、野心も、感情も。ただ、空っぽだった」
 聡子は微笑んだ。
「私も、そうだったから。私も空っぽだった。だから、あなたと一緒にいると楽だった」
「今は違うのか」
「ええ。私、気づいたの。あなたは空っぽじゃなかったって」
 聡子は目を捉えた。
「あなたは爆発で満たされてた。最初から。そして今は、爆発しかない」
 静寂が落ちる。
「一成」
 聡子は真剣な表情になった。
「あなた、いつか爆発の中に入るつもりでしょ」
 答えなかった。
「やめて。お願い。そんなこと、考えないで」
 聡子の目に、涙が浮かんだ。
「私、もうあなたの妻じゃなくなる。でも、あなたのことは心配してる」
「心配する必要はない」
「ある」
 聡子の声に強い響きがある。
「あなたは、自分を破壊しようとしてる。爆発を使って」
 聡子の言葉を否定しない。否定できない。聡子は立ち上がった。
「離婚届、お願いね。記入したら、郵送して」
 聡子はコートを着た。
「さようなら、一成。どうか、無事でいて」
 聡子は喫茶店を出て行った。ドアのベルが鳴る。一人、残された。封筒を開けると離婚届が目に入った。聡子の名前が、すでに記入されている。丸い、柔らかい字。ペンを取り出し、自分の名前を書く。柊一成。角ばった、硬い字。これで、終わりだ。離婚届を封筒に戻す。そして、ブラックコーヒーを注文した。コーヒーが運ばれてきて、一口飲む。苦い。その苦味さえも、遠い感覚だった。聡子との離婚は、すでに五年前に終わっていた。今日の手続きは、形式に過ぎない。
 喫茶店を出た。外は曇っていて、雪が降りそうな空をしていた。軽トラックに乗り込む。どこに行くべきか。アパートか。日曜日のアパートには何もない。現場に向かうことにした。
 現場に到着する。日曜日なので誰もいない。駐車場には軽トラックが一台だけ停まっている。
 坑口へ歩き、坑内に入る。暗闇が広がる。ヘッドライトを点け、切羽面へ向かう。四百二十三歩。数えるまでもなく、身体が覚えている距離だった。
 切羽面に到達する。作業灯のスイッチを入れる。白い光が壁を照らす。昨日の発破で露出した花崗岩が、結晶の面で光を跳ね返す。近づき、岩盤に触れる。冷たい。硬い。生きているようで、死んでいる。
 明日、この岩盤を破壊する。そして明日、また実験を行う。装薬量を、二倍に増やす。岩盤から手を離す。そして、自分の手を眺める。この手で、何千回と爆発を起こしてきた。そしてさらに多くの爆発を起こすだろう。より強い爆発を。より予測不能な爆発を。切羽面を後にする。坑口に向かう。外に出る。
 空から、雪が降り始めた。小さな雪片が、顔に触れる。冷たい。空を見上げると、灰色の空に雪雲が広がっている。軽トラックに乗り込むが、エンジンをかけない。聡子の最後の言葉を思い出す。「あなたは、自分を破壊しようとしてる。爆発を使って」それを否定しなかった。なぜなら、それは真実だったからだ。いつか、爆発の中に入ることを望んでいた。
 翌朝、午前四時三十分。現場に到着した。今日も、実験を行う。装薬量を二倍にする。十本の装薬孔に、一つの孔あたり四本のダイナマイト。千二百グラム。装薬を開始する。最初の五十本は通常通り。その後、十本の孔に過剰装薬を施す。
 午前七時、神谷が現場に到着した時、すでに七十本の装薬を完了していた。
「おはよう、柊」
 神谷の声。わずかに会釈する。神谷は切羽面を見上げた。
「今日も順調そうだな。お前は本当に早い」
 黙々と装薬を続ける。八十本目。この孔には、四本のダイナマイトを装填する。周囲を確認する。他の作業員はまだ到着していない。神谷は事務所の方に行った。素早く、四本のダイナマイトを孔に押し込む。装薬棒が孔底に達する。千二百グラム。次の孔。ここにも四本。十本の孔に、通常の二倍の装薬を施した。それらは切羽面の中央部に集中している。
 午前九時、すべての装薬が完了した。雷管の装着を始める。過剰装薬を施した十本の孔も、他の孔と同じ手順で雷管を装着する。過剰装薬のリスクは、理解していた。装薬量が多すぎれば、岩盤が想定外の方向に破砕される。最悪の場合、坑道自体が崩落する。そのリスクを恐れない。むしろ、期待する。予測不能な爆発。制御を超えた爆発。
 午前十時三十分、結線が完了した。導通試験。正常。すべての雷管が回路に接続されている。午前十一時四十五分。発破の時刻。作業員たちが退避所に集まる。退避所に入った。神谷がカウントダウンを始める。
「これより発破を開始する。十秒前」
 目を閉じる。意識を切羽面に向ける。百二十八本のダイナマイト。そのうち十本は、通常の二倍の装薬。心拍が遅くなり、呼吸が深くなる。
「五、四、三、二、一」
「発破」
 神谷がレバーを倒す。電流が主線を駆け抜けて、雷管に達する。起爆。
 爆発。
 瞬間、世界が揺れた。退避所全体が激しく振動する。壁が軋む。天井から粉塵が雪のように降ってくる。轟音。それは通常の二倍以上の大きさだった。
「うわっ!」
 作業員の一人が叫ぶ。
「何だ、今のは!」
「地震か!」
 作業員たちがパニックになり始める。轟音は十秒間続いた。通常の発破の二倍の時間。そして、低い唸りに変わり、やがて静寂が訪れた。
「落ち着け!」
 神谷の怒声が響く。
「発破だ。発破が終わった」
 神谷の顔にも、動揺の色があった。作業員たちは互いに顔を見合わせた。誰もが、今の爆発が異常だったことを理解していた。目を開ける。成功だ。いや、成功以上だ。
 神谷が視線を注いだ。
「柊、今の発破、何があった」
 答えなかった。
「明らかにいつもと違った。説明しろ」
「換気が必要です」
 神谷は歯噛みしたが、換気扇のスイッチを入れた。十五分間の待機。作業員たちは不安そうに囁き合っている。
「今日の発破、やばかったな」
「天井、崩れるかと思った」
 壁に背を預け、目を閉じる。爆発の残響が、まだ身体の中に残っている。通常の二倍の装薬。その結果は、予想を超えた。
 十五分が経過した。神谷が立ち上がった。
「切羽面の状況を確認する。全員、慎重に行動しろ」
 作業員たちが切羽面に向かう。立ち上がる。坑内を歩くと、粉塵がまだ空気中に漂っている。通常より濃い。ヘッドライトの光が、粉塵に反射して拡散する。切羽面に到達した時、光景を目にした。
 切羽面の中央部分が、大きく陥没していた。岩塊の量が、通常の三倍近い。切羽面の前に、巨大な山ができている。そして、岩塊のサイズ。最も小さいものは砂粒ほど。最も大きいものでも、子供の頭ほど。完全な破砕。岩塊の山に近づく。足元の岩塊を拾い上げる。表面が滑らかで、熱で溶けている。まだ温かい。
「何だこれは」
 神谷の声。振り返ると、神谷が切羽面を見上げている。切羽面の上部に、大きな亀裂が走っていた。幅十センチメートル、長さ五メートル以上。亀裂は切羽面の端から端まで延びている。
「これは危険だ」
 神谷の口調が強まる。
「このままだと、天井が崩落する」
 神谷は顔を向けた。その目には、怒りがあった。
「柊、今日の発破で何をした」
 静寂が落ちる。
「答えろ。お前、装薬量を変えただろう」
 神谷の目を捉えた。
「変えた」
 神谷の表情が凍りついた。
「なぜだ。なぜ無断で変更した」
「効率を上げるためだ」
「効率?」
 神谷は胸倉を掴んだ。
「お前、分かってるのか。この亀裂を見ろ。もう少しで坑道全体が崩落するところだった」
 応じない。
「お前は、全員を危険に晒した」
 神谷は突き放した。
「本社に報告する。お前は、もう発破を担当できない」
 神谷は他の作業員たちに指示を出した。
「全員、一旦退避しろ。切羽面の安全が確認できるまで、作業中止だ」
 作業員たちが退避を始める。坑口に向かった。坑外に出ると、十一月の冷気が顔を打つ。
「柊、お前を現場から外す。今すぐ帰れ」
 神谷へ視線を向けた。
「切羽面の補強作業が必要だ。俺が――」
「お前は何もするな」
 神谷の声に怒気が満ちる。
「お前のせいで、この現場は危険な状態になった。もう、お前には任せられない」
 応じない。
「帰れ。そして、明日本社に来い」
 軽トラックに乗り込み、エンジンをかけて現場を離れる。バックミラー越しに、現場が小さくなっていくのが見える。自分が何をしたのか理解していた。規則を破った。安全を無視した。後悔はなかった。むしろ、満足感があった。爆発を、変えた。爆発の規模を、拡大した。自分が新しい領域に踏み込んだことを実感する。そして、その領域からは、もう戻れないことも。
 翌日、本社に呼び出された。本社は現場から車で二時間の町にある。五階建てのビル。エレベーターで三階に上がった。会議室。そこには、安全管理部長、工事部長、人事部長、そして神谷がいた。指定された席に座る。
 安全管理部長が口を開いた。
「柊技士、昨日の発破について、説明してもらおう」
 答える。
「装薬量を通常の二倍に増やしました。十本の装薬孔に対してです」
「なぜ、無断で変更したのか」
「工期の遅れを取り戻すためです」
 部長は資料に視線を落とした。
「確かに、切羽面の進行距離は三十メートル。通常の一・五倍だ」
 部長は顔を向けた。
「だが、その結果、切羽面に重大な亀裂が発生した。坑道崩落の危険がある」
 応じない。
「さらに、爆発の規模が予想を超え、作業員たちが恐怖を感じた」
 部長は眼鏡を外した。
「柊技士、あなたは重大な規則違反を犯した。装薬量の変更は、事前申請と承認が必要だ」
「承知しています」
「承知していながら、なぜ実行した」
 答えなかった。工事部長が口を開いた。
「柊技士、あなたは十五年間、完璧な発破を行ってきた。あなたの技術は、社内で最高水準だ」
 部長へ視線を注ぐ。
「だが、最近のあなたは異常だ。田代技士の事故以来、あなたは変わった」
 部長は神谷へ視線を向けた。
「神谷監督から、詳細な報告を受けている」
 神谷が資料を読み上げた。
「一週間前の発破。装薬量を一・五倍に増加。結果、切羽面に軽微な亀裂」
「昨日の発破。装薬量を二倍に増加。結果、切羽面に重大な亀裂」
 神谷は視線を注いだ。
「柊、お前は段階的に装薬量を増やしていた。これは計画的な行為だ」
 静寂が落ちる。人事部長が口を開いた。
「柊技士、会社としては、あなたを懲戒処分にすることも検討している」
 部長へ視線を向ける。
「だが、あなたの長年の貢献を考慮し、まずはカウンセリングを受けてもらうことにした」
「カウンセリング?」
「産業医との面談だ。二週間、あなたを発破業務から外す」
 立ち上がった。
「必要ありません」
「必要あるかないかは、こちらが判断する」
 部長の口調が厳しくなる。
「二週間後、カウンセリングの結果と、切羽面の安全確認が完了した段階で、業務復帰を判断する」
 応じない。
「それまで、あなたは自宅待機だ。現場には来るな」
 会議室を出る。廊下を歩き、エレベーターに乗る。一階で扉が開く。外に出ると、冷たい風が頬にあたった。
 駐車場へ向かい、軽トラックに乗り込む。二週間。発破のできない二週間は、底なしの空白のようだった。
 エンジンをかけたものの、行くあてはなかった。アパートに帰っても、何もない。現場にも行けない。
 ハンドルを握り、ただ座る。爆発のない日々に、自分が耐えられるのか分からない。
 自分の手を見る。この手で何千回も爆薬を扱ってきた。今はただ、膝の上に置かれているだけだった。
 胸の奥に妙な穴が開いたようだった。喪失に近い。いや、喪失そのものだ。存在理由が剥がれ落ちていく感覚があった。
 アパートに戻り、床に座る。窓の外の空は灰色で、雪の気配があった。何も考えられなかった。
 ビールを開けたが飲む気になれず、時間だけが流れた。午後三時、五時、七時。立ち上がれない。
 夜が来て、部屋は闇に沈む。灯りは点けない。暗闇の中で、自分の手だけが重さを主張していた。
――爆発に依存していたのだ。
 爆発がなければ、自分は空っぽになる。初めて、そう認めざるをえなかった。
 そして決意した。二週間後、業務に復帰したら、さらに大きな爆発を起こす。装薬量を三倍にする。どんな結果になろうとも。たとえそれが、自分自身を破壊することになっても。その決意を固めた。そして暗闇の中で、爆発の夢を見続けた。
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世界を加速させる爆薬作者:森本 凛
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 十一月下旬、山は完全に冬の装いとなった。朝の気温はマイナス五度を下回り、坑内の壁には氷が張る。作業員たちは厚手の防寒着を着込み、吐く息は白い霧となって漂う。服装に変化はない。いつもと同じ作業服、いつもと同じ防寒着。寒さは、意識に届かない。
 田代の事故から二週間が経過した。現場は通常運転に戻り、発破は毎日行われている。田代の名前を口にする者は、もういない。事故は過去のものとなり、作業員たちの記憶から薄れ始めた。
 内面には、静かな、しかし決定的な変化が起きていた。それは、装薬量への執着だった。
 十一月二十五日、午前四時三十分。現場に到着した。いつもと同じ時刻。今日は、工具箱とは別に、もう一つの木箱を持っていた。ダイナマイトの予備の箱。通常は必要ない。今日は必要だった。
 切羽面に到達する。作業灯のスイッチを入れる。切羽面が白く照らされる。百二十八本の装薬孔が、規則正しく並んでいる。
 装薬を始める。最初の十本は、通常通りの装薬。一つの孔に二本のダイナマイト。六百グラム。十一本目の孔で、手を止めた。三本目のダイナマイトを手に取る。孔の深度を確認する。三メートル。ダイナマイト二本で孔の三分の二が埋まる。三本目を入れる余地は、ある。
 三本目のダイナマイトを孔に挿入する。装薬棒で押し込むと抵抗があるが、押し込める。三本のダイナマイトが孔に収まった。九百グラム。通常の一・五倍の装薬量。
 次の孔に移る。ここにも、三本のダイナマイトを装填する。切羽面の中央下部、五本の装薬孔に通常より多い装薬を施した。他の作業員が現場に到着する前に、作業を完了させる必要がある。
 午前六時三十分、五本の孔への過剰装薬が完了した。他の孔は通常通りの装薬を続ける。午前七時、神谷が現場に到着した。
「おはよう、柊」
 軽く会釈する。神谷は切羽面を見上げた。
「順調そうだな」
 装薬を続ける。神谷はしばらく作業を見ていたが、やがて事務所に向かった。午前九時、装薬が完了した。百二十八本の装薬孔すべてにダイナマイトが装填された。そのうち五本には、通常の一・五倍の装薬が施されている。
 雷管の装着を始める。慎重に、正確に。五本の過剰装薬孔も、他の孔と変わらない手順で雷管を装着する。午前十時三十分、結線が完了した。導通試験。正常。午前十一時四十五分。発破の時刻が近づいた。
 作業員たちが退避所に集まってくる。退避所に入った。神谷がカウントダウンを始める。
「十秒前」
 目を閉じる。意識を切羽面に向ける。百二十八本のダイナマイト。そのうち五本は、通常より多い。その五本の爆発がどうなるのか、想像する。より強い衝撃波。より大きな破砕。
「五、四、三、二、一」
「発破」
 神谷がレバーを倒す。電流が主線を駆け抜ける。
 爆発。
 瞬間、身体を通常より強い衝撃波が襲った。退避所の壁が激しく振動する。床が揺れる。天井から粉塵が落ちる。轟音が、通常より明らかに大きい。
 目を開ける。爆発は成功した。いや、成功以上だ。
「おい、今の爆発、いつもより大きくないか」
 作業員の一人が言った。
「地盤が緩んでるのかもな」
 別の作業員が答える。分かる。地盤ではない。装薬量だ。意図的に増やした装薬量が、爆発を強化した。神谷も異変に気づいていた。
「今日の発破は、確かにいつもと違うな」
 神谷は視線を向ける。応じない。
 換気が完了し、作業員たちが切羽面に向かう。腰を上げた。切羽面に到達した時、変化を確認した。切羽面の中央下部、装薬量を増やした部分の岩盤が、より細かく破砕されている。岩塊のサイズが、他の部分の半分ほどだ。そして、岩塊の量が多い。
 岩塊を拾い上げる。握り拳ほどのサイズ。表面は滑らかで、爆発の熱で部分的に溶けている。成功だ。装薬量を増やせば、破砕効率が向上する。これは仮説だったが、今日の発破で実証された。
 神谷が近づいてくる。
「柊、今日の発破は切羽面の進行が大きいな」
 神谷は巻尺で距離を測った。
「二十三メートル。予定より三メートル多い」
 神谷は満足そうに笑った。
「いい発破だ。この調子で行けば、工期の遅れを取り戻せる」
 応じない。神谷は切羽面の上部へ視線を向けた。
「上の方に、亀裂が入ってるな」
 見上げる。切羽面の上部、装薬していない部分に、細い亀裂が走っている。
「爆発の衝撃が、予定より広範囲に及んだのか」
 神谷は顎に手を当てた。
「まあ、大した問題じゃない。ロックボルトで補強すればいい」
 神谷は顔を向けた。
「柊、何かいつもと違うことをしたか」
 神谷の目を捉えた。数秒の静寂。
「いや」
 神谷は顔を見つめた。疑念の色がある。証拠はない。
「まあ、いい。結果が良ければそれでいい」
 神谷は重機置き場に向かった。一人、切羽面に残った。岩塊の山を眺める。この岩塊は、自分が作り出したものだ。通常より強い爆発で。奇妙な満足感を覚えた。爆発を変えた。爆発の質を変えた。そして次の実験を既に計画していた。
 その夜、アパートに戻って、ノートを開いた。今日の発破のデータを記録する。装薬量:通常比一・五倍(五本の孔)。結果:切羽面進行距離二十三メートル(通常比一・一五倍)。副作用:切羽面上部に亀裂。次の実験を計画する。装薬量を二倍にする。一つの孔に四本のダイナマイト。千二百グラム。孔の配置図を描く。中央部の十本の孔に、二倍の装薬を施す。どんな結果になるか。それを知りたかった。
 電話が鳴った。電話を手に取る。着信表示:聡子。妻。別居して五年になる妻。電話に出る。
「もしもし」
「一成? 私」
 聡子の声。この声を最後に聞いたのがいつだったか思い出せなかった。半年前か、一年前か。
「久しぶり。元気?」
 答えなかった。「元気」という概念が、理解できなかった。
「一成、聞いたわよ。現場で事故があったって」
 言葉が途切れる。
「田代さんって人が、腕を失ったって聞いた。本当なの?」
「本当だ」
「あなたは、無事なの? 怪我はしてない?」
「無事だ」
 聡子はため息をついた。
「良かった。ニュースで見て、心配したのよ」
 応じない。
「ねえ、一成。今度、会えないかしら」
 窓の外を眺める。暗闇。山の輪郭も見えない。
「なぜだ」
「話したいことがあるの。電話じゃなくて、直接会って話したい」
 聡子の声の調子から、その内容を推測した。
「離婚のことか」
 静寂。数秒の静寂。電話の向こうで、聡子が息を呑む音が聞こえた。
「そう。離婚のこと」
 予期していた。いや、別居した五年前から分かっていた。いつかこの日が来ることを。
「分かった。いつだ」
「今週の日曜日。あなたの町に行くわ。午後二時に、駅前の喫茶店で」
「分かった」
「じゃあ、日曜日に」
 聡子は電話を切ろうとして、言葉を継いだ。
「一成」
「何だ」
「あなた、気をつけてね。変なこと、考えないで」
 応じない。電話が切れた。電話を置いて、ビールを開ける。
 聡子。彼女のことを、ほとんど考えなくなっていた。別居して五年。その間、連絡は年に数回しかなかった。誕生日、正月。形式的な連絡。聡子は遠い存在になっていた。かつて同じ部屋で暮らした女性。今は、記憶の中の影に過ぎない。聡子との過去を思い出そうとした。
 出会いは十年前。発破技士になって五年目の二十五歳の時だった。聡子は建設会社の事務員だった。総務部で給与計算や資材発注を担当していた。本社に書類を提出しに行った時、窓口にいたのが聡子だった。
「発破日報ですね。こちらに提出してください」
 聡子は笑顔で言った。明るい笑顔。その笑顔の奥に、何かを感じた。空虚さだ。自分と同じ、空虚さ。
 それから、月に一度、本社に行くようになった。書類の提出。それは本来、現場監督の仕事だった。だが、自分で行くようになった。聡子と話すために。最初は業務的な会話だけだった。三ヶ月が経った頃、聡子が言った。
「柊さんって、いつも一人ですね」
 返事をしない。
「他の現場の人たちは、複数で来るのに。柊さんはいつも一人」
「一人の方が楽だ」
 聡子は笑った。
「私も、一人の方が楽です」
 それが、二人の共通点だった。六ヶ月後、聡子を食事に誘った。聡子は承諾した。レストランで、二人は向かい合って座った。
「柊さんって、どんな仕事をしてるんですか」
 聡子が尋ねた。
「発破技士。岩盤を爆破する仕事」
「爆破?」
 聡子は興味を示した。
「どんな感じなんですか」
 発破について話し始めた。装薬、結線、点火。そして爆発。話している間、饒舌になっていた。普段は寡黙だが、爆発の話をする時だけ、言葉が溢れてきた。聡子は、話を熱心に聞いた。
「すごいですね。爆発を起こすなんて」
「危険な仕事だ」
「でも、柊さん、楽しそうに話してますよ」
 我に返った。楽しい? 自分の感情を「楽しい」と認識したことがなかった。聡子の指摘は正しかった。爆発の話をする時、何かを感じていた。それを「楽しい」と呼ぶのかどうかは分からないが。
「柊さんって、爆発が好きなんですね」
 聡子は言った。答えなかった。「好き」という言葉も、理解できなかった。爆発に惹かれる。それは確かだった。
 それから、二人は何度か会うようになった。映画、食事、散歩。二人の会話は常に一方的だった。爆発の話をし、聡子がそれを聞く。聡子は自分のことをほとんど話さなかった。過去、家族、趣味。尋ねても、聡子は曖昧に答えるだけだった。
 一年後、聡子にプロポーズした。
「結婚してくれ」
 聡子は驚いた表情を見せた。
「なぜ、私なんですか」
「分からない。だが、お前と一緒にいると、楽だ」
 聡子は笑った。
「それって、プロポーズの言葉としては最悪ですね」
 聡子は承諾した。
「いいですよ。私も、柊さんと一緒にいると楽だから」
 二人は結婚した。式は挙げなかった。役所に婚姻届を出しただけだった。新居は、現場近くのアパート。2DK。狭いが、二人には十分だった。
 最初の一年は、穏やかだった。いや、「穏やか」というより「静か」だった。毎日、現場に行き、発破を行い、帰宅する。聡子は会社に行き、事務仕事をし、帰宅する。夜、二人は同じ部屋にいた。会話は少なかった。爆発の話をする時だけ、会話が生まれた。
「今日の発破は、切羽面が二十メートル進んだ」
「すごいですね」
「装薬量を微調整した結果だ」
 聡子は話を聞く。その目には次第に、何かが失われていった。三年目、聡子は言った。
「ねえ、一成。私たち、夫婦なのかしら」
 聡子へ視線を向ける。
「戸籍上は夫婦だ」
「そうじゃなくて」
 聡子は言葉を探した。
「私たち、お互いのこと、何も知らないわよね」
 応じない。
「あなたは爆発のことしか話さない。私のことは見てない」
「見ている」
「見てない」
 聡子は首を振った。
「あなたにとって、私は背景に過ぎない。あなたの世界は、爆発だけ」
 反論できなかった。
「私ね、最初はそれでいいと思ってたの。あなたの空虚さが、心地よかった」
 聡子は窓の外を眺めた。
「でも、違った。あなたは空虚なんじゃない。あなたは爆発で満たされてる」
 聡子は顔を向けた。
「あなたは爆発と結婚してるのよ」
 静寂が落ちる。それから、二人の会話は更に減った。五年目、聡子は別居を申し出た。
「別々に暮らしましょう」
「離婚するのか」
「まだ、分からない。でも、一緒にいるのは無理」
 聡子は荷物をまとめた。
「あなた、いつか爆発の中に入るんじゃないかって、怖いの」
 聡子は涙を流した。
「お願い。そんなこと、考えないで」
 聡子の言葉の意味が理解できなかった。聡子は出て行った。それが、五年前のことだった。
 ビールを飲み干す。聡子との記憶。その記憶は、まるで他人の記憶のように感じる。
 日曜日。町の喫茶店で聡子を待つ。「カフェ・ド・山」という名前の喫茶店。築四十年以上の木造建築。天井が低く、壁は煤けている。客は他にいない。午後二時。ドアのベルが鳴り、聡子が入ってきた。
 五年ぶりに見る聡子。三十三歳。髪を短く切っている。以前はロングヘアだった。服装も変わった。以前はカジュアルな服を好んだが、今は落ち着いた色のコートを着ている。
「一成」
 聡子は向かいの席に座った。
「久しぶりね」
 軽く会釈する。聡子は顔を数秒間、黙って見つめた。
「変わらないわね。いえ、変わってる。でも、変わってない」
 聡子は曖昧なことを言った。ちょうどその時、ウェイトレスが注文を取りに来る。聡子はコーヒーを頼んだ。首を振るだけで、何も頼まなかった。
 聡子はバッグに手を入れ、封筒を取り出した。
「離婚届。もう記入してあるわ。あなたのサインだけで完了する」
 封筒に視線を落とす。
「分かった」
 聡子は反応を待ったが、応じない。
「それだけ? 何も聞かないの?」
「何を聞けばいい」
 聡子は苦笑した。
「あなたらしいわね」
 コーヒーが運ばれてきた。聡子はカップを両手で包んだ。
「私ね、再婚する予定なの」
 聡子へ視線を向けた。
「相手は、同じ会社の人。営業部の課長。四十歳。優しい人よ」
「そうか」
「来年の春に、正式に」
 軽く会釈する。
「おめでとう」
 聡子は笑った。その笑顔は悲しげだった。
「ありがとう。でもね、一成」
 聡子はコーヒーを一口飲んだ。
「あなたのこと、今でも心配してるの」
「心配?」
「ええ。あなた、変わったわ。いえ、変わってないのかもしれない。でも、何かが加速してる」
 聡子へ視線を向けた。
「田代さんの事故のこと、聞いたわ。あなたが一緒にいた時に起きたって」
 応じない。
「あなた、その事故をどう思ってるの」
「事故だ。不幸な事故だ」
「本当に?」
 聡子は目を捉えた。
「あなた、田代さんを羨んでるんじゃない?」
 呼吸が止まった。
「あなたは最初からそうだった。爆発に魅了されてた」
 聡子は続けた。
「私たちが結婚した頃、あなたはまだ人間らしさがあった。少しだけど」
 聡子は自分のコーヒーに視線を落とした。
「でも、年を追うごとに、あなたは変わっていった。爆発の話しかしなくなった。家にいても、心はいつも現場にあった」
「すまない」
「謝らないで」
 聡子は首を振った。
「あなたは悪くない。あなたは、最初からそういう人だった。私が、それを受け入れられなかっただけ」
 聡子は手に視線を落とした。
「私ね、最初あなたに惹かれたのは、あなたの空虚さだったの」
 聡子へ顔を向けた。
「あなたには、何もなかった。欲望も、野心も、感情も。ただ、空っぽだった」
 聡子は微笑んだ。
「私も、そうだったから。私も空っぽだった。だから、あなたと一緒にいると楽だった」
「今は違うのか」
「ええ。私、気づいたの。あなたは空っぽじゃなかったって」
 聡子は目を捉えた。
「あなたは爆発で満たされてた。最初から。そして今は、爆発しかない」
 静寂が落ちる。
「一成」
 聡子は真剣な表情になった。
「あなた、いつか爆発の中に入るつもりでしょ」
 答えなかった。
「やめて。お願い。そんなこと、考えないで」
 聡子の目に、涙が浮かんだ。
「私、もうあなたの妻じゃなくなる。でも、あなたのことは心配してる」
「心配する必要はない」
「ある」
 聡子の声に強い響きがある。
「あなたは、自分を破壊しようとしてる。爆発を使って」
 聡子の言葉を否定しない。否定できない。聡子は立ち上がった。
「離婚届、お願いね。記入したら、郵送して」
 聡子はコートを着た。
「さようなら、一成。どうか、無事でいて」
 聡子は喫茶店を出て行った。ドアのベルが鳴る。一人、残された。封筒を開けると離婚届が目に入った。聡子の名前が、すでに記入されている。丸い、柔らかい字。ペンを取り出し、自分の名前を書く。柊一成。角ばった、硬い字。これで、終わりだ。離婚届を封筒に戻す。そして、ブラックコーヒーを注文した。コーヒーが運ばれてきて、一口飲む。苦い。その苦味さえも、遠い感覚だった。聡子との離婚は、すでに五年前に終わっていた。今日の手続きは、形式に過ぎない。
 喫茶店を出た。外は曇っていて、雪が降りそうな空をしていた。軽トラックに乗り込む。どこに行くべきか。アパートか。日曜日のアパートには何もない。現場に向かうことにした。
 現場に到着する。日曜日なので誰もいない。駐車場には軽トラックが一台だけ停まっている。
 坑口へ歩き、坑内に入る。暗闇が広がる。ヘッドライトを点け、切羽面へ向かう。四百二十三歩。数えるまでもなく、身体が覚えている距離だった。
 切羽面に到達する。作業灯のスイッチを入れる。白い光が壁を照らす。昨日の発破で露出した花崗岩が、結晶の面で光を跳ね返す。近づき、岩盤に触れる。冷たい。硬い。生きているようで、死んでいる。
 明日、この岩盤を破壊する。そして明日、また実験を行う。装薬量を、二倍に増やす。岩盤から手を離す。そして、自分の手を眺める。この手で、何千回と爆発を起こしてきた。そしてさらに多くの爆発を起こすだろう。より強い爆発を。より予測不能な爆発を。切羽面を後にする。坑口に向かう。外に出る。
 空から、雪が降り始めた。小さな雪片が、顔に触れる。冷たい。空を見上げると、灰色の空に雪雲が広がっている。軽トラックに乗り込むが、エンジンをかけない。聡子の最後の言葉を思い出す。「あなたは、自分を破壊しようとしてる。爆発を使って」それを否定しなかった。なぜなら、それは真実だったからだ。いつか、爆発の中に入ることを望んでいた。
 翌朝、午前四時三十分。現場に到着した。今日も、実験を行う。装薬量を二倍にする。十本の装薬孔に、一つの孔あたり四本のダイナマイト。千二百グラム。装薬を開始する。最初の五十本は通常通り。その後、十本の孔に過剰装薬を施す。
 午前七時、神谷が現場に到着した時、すでに七十本の装薬を完了していた。
「おはよう、柊」
 神谷の声。わずかに会釈する。神谷は切羽面を見上げた。
「今日も順調そうだな。お前は本当に早い」
 黙々と装薬を続ける。八十本目。この孔には、四本のダイナマイトを装填する。周囲を確認する。他の作業員はまだ到着していない。神谷は事務所の方に行った。素早く、四本のダイナマイトを孔に押し込む。装薬棒が孔底に達する。千二百グラム。次の孔。ここにも四本。十本の孔に、通常の二倍の装薬を施した。それらは切羽面の中央部に集中している。
 午前九時、すべての装薬が完了した。雷管の装着を始める。過剰装薬を施した十本の孔も、他の孔と同じ手順で雷管を装着する。過剰装薬のリスクは、理解していた。装薬量が多すぎれば、岩盤が想定外の方向に破砕される。最悪の場合、坑道自体が崩落する。そのリスクを恐れない。むしろ、期待する。予測不能な爆発。制御を超えた爆発。
 午前十時三十分、結線が完了した。導通試験。正常。すべての雷管が回路に接続されている。午前十一時四十五分。発破の時刻。作業員たちが退避所に集まる。退避所に入った。神谷がカウントダウンを始める。
「これより発破を開始する。十秒前」
 目を閉じる。意識を切羽面に向ける。百二十八本のダイナマイト。そのうち十本は、通常の二倍の装薬。心拍が遅くなり、呼吸が深くなる。
「五、四、三、二、一」
「発破」
 神谷がレバーを倒す。電流が主線を駆け抜けて、雷管に達する。起爆。
 爆発。
 瞬間、世界が揺れた。退避所全体が激しく振動する。壁が軋む。天井から粉塵が雪のように降ってくる。轟音。それは通常の二倍以上の大きさだった。
「うわっ!」
 作業員の一人が叫ぶ。
「何だ、今のは!」
「地震か!」
 作業員たちがパニックになり始める。轟音は十秒間続いた。通常の発破の二倍の時間。そして、低い唸りに変わり、やがて静寂が訪れた。
「落ち着け!」
 神谷の怒声が響く。
「発破だ。発破が終わった」
 神谷の顔にも、動揺の色があった。作業員たちは互いに顔を見合わせた。誰もが、今の爆発が異常だったことを理解していた。目を開ける。成功だ。いや、成功以上だ。
 神谷が視線を注いだ。
「柊、今の発破、何があった」
 答えなかった。
「明らかにいつもと違った。説明しろ」
「換気が必要です」
 神谷は歯噛みしたが、換気扇のスイッチを入れた。十五分間の待機。作業員たちは不安そうに囁き合っている。
「今日の発破、やばかったな」
「天井、崩れるかと思った」
 壁に背を預け、目を閉じる。爆発の残響が、まだ身体の中に残っている。通常の二倍の装薬。その結果は、予想を超えた。
 十五分が経過した。神谷が立ち上がった。
「切羽面の状況を確認する。全員、慎重に行動しろ」
 作業員たちが切羽面に向かう。立ち上がる。坑内を歩くと、粉塵がまだ空気中に漂っている。通常より濃い。ヘッドライトの光が、粉塵に反射して拡散する。切羽面に到達した時、光景を目にした。
 切羽面の中央部分が、大きく陥没していた。岩塊の量が、通常の三倍近い。切羽面の前に、巨大な山ができている。そして、岩塊のサイズ。最も小さいものは砂粒ほど。最も大きいものでも、子供の頭ほど。完全な破砕。岩塊の山に近づく。足元の岩塊を拾い上げる。表面が滑らかで、熱で溶けている。まだ温かい。
「何だこれは」
 神谷の声。振り返ると、神谷が切羽面を見上げている。切羽面の上部に、大きな亀裂が走っていた。幅十センチメートル、長さ五メートル以上。亀裂は切羽面の端から端まで延びている。
「これは危険だ」
 神谷の口調が強まる。
「このままだと、天井が崩落する」
 神谷は顔を向けた。その目には、怒りがあった。
「柊、今日の発破で何をした」
 静寂が落ちる。
「答えろ。お前、装薬量を変えただろう」
 神谷の目を捉えた。
「変えた」
 神谷の表情が凍りついた。
「なぜだ。なぜ無断で変更した」
「効率を上げるためだ」
「効率?」
 神谷は胸倉を掴んだ。
「お前、分かってるのか。この亀裂を見ろ。もう少しで坑道全体が崩落するところだった」
 応じない。
「お前は、全員を危険に晒した」
 神谷は突き放した。
「本社に報告する。お前は、もう発破を担当できない」
 神谷は他の作業員たちに指示を出した。
「全員、一旦退避しろ。切羽面の安全が確認できるまで、作業中止だ」
 作業員たちが退避を始める。坑口に向かった。坑外に出ると、十一月の冷気が顔を打つ。
「柊、お前を現場から外す。今すぐ帰れ」
 神谷へ視線を向けた。
「切羽面の補強作業が必要だ。俺が――」
「お前は何もするな」
 神谷の声に怒気が満ちる。
「お前のせいで、この現場は危険な状態になった。もう、お前には任せられない」
 応じない。
「帰れ。そして、明日本社に来い」
 軽トラックに乗り込み、エンジンをかけて現場を離れる。バックミラー越しに、現場が小さくなっていくのが見える。自分が何をしたのか理解していた。規則を破った。安全を無視した。後悔はなかった。むしろ、満足感があった。爆発を、変えた。爆発の規模を、拡大した。自分が新しい領域に踏み込んだことを実感する。そして、その領域からは、もう戻れないことも。
 翌日、本社に呼び出された。本社は現場から車で二時間の町にある。五階建てのビル。エレベーターで三階に上がった。会議室。そこには、安全管理部長、工事部長、人事部長、そして神谷がいた。指定された席に座る。
 安全管理部長が口を開いた。
「柊技士、昨日の発破について、説明してもらおう」
 答える。
「装薬量を通常の二倍に増やしました。十本の装薬孔に対してです」
「なぜ、無断で変更したのか」
「工期の遅れを取り戻すためです」
 部長は資料に視線を落とした。
「確かに、切羽面の進行距離は三十メートル。通常の一・五倍だ」
 部長は顔を向けた。
「だが、その結果、切羽面に重大な亀裂が発生した。坑道崩落の危険がある」
 応じない。
「さらに、爆発の規模が予想を超え、作業員たちが恐怖を感じた」
 部長は眼鏡を外した。
「柊技士、あなたは重大な規則違反を犯した。装薬量の変更は、事前申請と承認が必要だ」
「承知しています」
「承知していながら、なぜ実行した」
 答えなかった。工事部長が口を開いた。
「柊技士、あなたは十五年間、完璧な発破を行ってきた。あなたの技術は、社内で最高水準だ」
 部長へ視線を注ぐ。
「だが、最近のあなたは異常だ。田代技士の事故以来、あなたは変わった」
 部長は神谷へ視線を向けた。
「神谷監督から、詳細な報告を受けている」
 神谷が資料を読み上げた。
「一週間前の発破。装薬量を一・五倍に増加。結果、切羽面に軽微な亀裂」
「昨日の発破。装薬量を二倍に増加。結果、切羽面に重大な亀裂」
 神谷は視線を注いだ。
「柊、お前は段階的に装薬量を増やしていた。これは計画的な行為だ」
 静寂が落ちる。人事部長が口を開いた。
「柊技士、会社としては、あなたを懲戒処分にすることも検討している」
 部長へ視線を向ける。
「だが、あなたの長年の貢献を考慮し、まずはカウンセリングを受けてもらうことにした」
「カウンセリング?」
「産業医との面談だ。二週間、あなたを発破業務から外す」
 立ち上がった。
「必要ありません」
「必要あるかないかは、こちらが判断する」
 部長の口調が厳しくなる。
「二週間後、カウンセリングの結果と、切羽面の安全確認が完了した段階で、業務復帰を判断する」
 応じない。
「それまで、あなたは自宅待機だ。現場には来るな」
 会議室を出る。廊下を歩き、エレベーターに乗る。一階で扉が開く。外に出ると、冷たい風が頬にあたった。
 駐車場へ向かい、軽トラックに乗り込む。二週間。発破のできない二週間は、底なしの空白のようだった。
 エンジンをかけたものの、行くあてはなかった。アパートに帰っても、何もない。現場にも行けない。
 ハンドルを握り、ただ座る。爆発のない日々に、自分が耐えられるのか分からない。
 自分の手を見る。この手で何千回も爆薬を扱ってきた。今はただ、膝の上に置かれているだけだった。
 胸の奥に妙な穴が開いたようだった。喪失に近い。いや、喪失そのものだ。存在理由が剥がれ落ちていく感覚があった。
 アパートに戻り、床に座る。窓の外の空は灰色で、雪の気配があった。何も考えられなかった。
 ビールを開けたが飲む気になれず、時間だけが流れた。午後三時、五時、七時。立ち上がれない。
 夜が来て、部屋は闇に沈む。灯りは点けない。暗闇の中で、自分の手だけが重さを主張していた。
――爆発に依存していたのだ。
 爆発がなければ、自分は空っぽになる。初めて、そう認めざるをえなかった。
 そして決意した。二週間後、業務に復帰したら、さらに大きな爆発を起こす。装薬量を三倍にする。どんな結果になろうとも。たとえそれが、自分自身を破壊することになっても。その決意を固めた。そして暗闇の中で、爆発の夢を見続けた。
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