ホーム天窓の魚第四章 地方予選と悔しさ
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第四章 地方予選と悔しさ

予選当日の朝、隼人は誰よりも早く目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む光は、まだ薄青い。時計を見ると、予定より一時間近く早かったが、二度寝をする気にはなれなかった。天井を見上げながら、これまでの数ヶ月間を振り返る。マブイとの出会い、記録の日々、そして先日のムラさんとの会話。すべてが今日という日に繋がっているのだと思うと、自然と背筋が伸びた。布団から出ると外はまだ薄暗く、町全体が静かな眠りの中にあった。
 隼人はそっと水槽に近づき、マブイの様子を確認した。マブイは変わらず優雅に泳いでいる。頭頂部の上向きの目が、まるで今日という日を待ちわびていたかのように澄んで見えた。水槽のガラス越しに差し込む朝日が、マブイの鱗を淡く照らしていた。
「今日は、よろしくな」
 隼人は小さく声をかけ、慎重に運搬用の容器に水を張り始めた。ムラさんから借りた発泡スチロールの容器は、いつもより重々しく感じられた。
 キッチンからは、母が朝食を作る音が聞こえてくる。
「隼人、もう起きてたの」
 母がドア越しに声をかけてきた。パジャマ姿のまま、少し眠そうな様子だった。
「うん、緊張して眠れなかった」
「そう。無理しないでね。今日は美咲ちゃんと一緒なんでしょう」
 母はキッチンから顔だけを出して尋ねた。フライパンで卵を焼くじゅうじゅうという音が聞こえてくる。
「うん、会場で待ち合わせ」
 母は玄関先まで見送りに出てきてくれた。エプロン姿のまま、朝食の支度を中断してのことだった。
「頑張ってらっしゃい。マブイのこと、ちゃんと見てあげてね」
 母はそう言うと、隼人の背中をそっと押すように軽く叩いた。
「あなたなら大丈夫。今まで、ちゃんと積み重ねてきたんだから」
 母のその一言に、隼人は胸の奥が温かくなるのを感じ、小さく頷いた。玄関を出ると、まだ朝靄の残る町が白く広がっていた。
 会場である市の公民館に着くと、すでに多くの人々が出品の受付を済ませようと列を作っていた。想像していたよりもずっと大規模で、隼人は思わず息を呑んだ。駐車場には県内各地のナンバーを付けた車が並び、この大会の注目度の高さを物語っていた。会場入口の垂れ幕には、大会の正式名称と開催回数を示す数字が大きく掲げられていた。
「隼人くん、こっち」
 美咲が手を振りながら駆け寄ってきた。彼女もまた、緊張した面持ちをしている。手には、発表用の資料を入れたファイルをしっかりと抱えていた。いつもより早起きしたのだろう。髪もいつもと違う丁寧な結い方をしていた。
「すごい人だね......」
 隼人は会場を見渡しながら呟いた。様々な品種の金魚が、それぞれの水槽に入れられ、受付の列に並んでいる。琉金、東錦、蘭鋳。見たこともない品種の金魚たちが、それぞれの美しさを競い合うように並んでいた。中には、見るからに年季の入った出品者や、専門的な道具を携えた人々の姿もあった。
「私たちの研究発表のブースも、あっちにあるみたい」
 美咲が案内板を指さした。品評会の会場の一角に、学生向けの研究発表コーナーが設けられている。案内板には手描きの地図が貼られ、各ブースの配置が丁寧に示されていた。
「まずは、マブイの受付を済ませよう」
 隼人はそう言って、運搬用の容器を抱え直した。会場に入ってすぐの受付テーブルには長机がいくつも並べられ、係員たちが忙しそうに応対していた。
 受付では、出品票に必要事項を記入し、金魚の品種と名前を伝える。係員は慣れた手つきで、マブイの入った容器を確認した。記入用紙には出品者の氏名、金魚の品種、飼育開始日などを記す欄があり、隼人は緊張しながらも丁寧に一つ一つ書き込んでいった。
「頂天眼ですね。綺麗な個体だ」
 係員の一言に、隼人は少し誇らしい気持ちになった。
 受付の順番を待っていた隣の出品者が、マブイを覗き込んで声をかけてきた。
「その頂天眼、良い体色してますね。どちらで手に入れられたんですか」
 年配の男性で、慣れた手つきで自分の金魚の水槽を抱えている。長年この趣味に親しんできたことが、その手慣れた所作から伝わってきた。
「知人から譲り受けたんです。もともとは、その方のお父さんが大切に育てていた金魚で」
 隼人がそう答えると、男性は感慨深そうに頷いた。
「そうですか。大切にされてきた金魚は、やっぱりどこか違いますね」
 その言葉に、隼人は胸の奥が温かくなるのを感じた。専門知識を持つ人からの率直な評価が、これまでの日々の積み重ねをそっと肯定してくれているような気がした。
 指定された審査用の水槽にマブイを移すと、隣には既に何匹もの頂天眼が並んでいた。どれも見事な体色をしており、隼人は思わず息を呑んだ。水槽ごとに貼られた出品者の名札には、聞いたこともないような由緒ある屋号が記されているものもあった。
「あっちの子、すごく大きいね」
 美咲が小声で言った。プロの養魚場から出品されたと思われる個体は、マブイよりも一回り大きく、堂々とした風格を漂わせていた。水槽に貼られた札には、著名な養魚場の名前が記されている。
 その隣には、鮮やかな朱色の体色を持つ頂天眼もいた。まるで炎が水中で揺らめいているかのような美しさに、隼人は思わず見入ってしまった。さらにその奥には、白と金の斑模様を持つ個体が、悠然と泳いでいる。それぞれの金魚が、まったく異なる魅力を放っていることに、隼人は改めて頂天眼という品種の奥深さを実感した。
 隼人は少し不安になったが、マブイの水槽を覗き込むと、その泳ぎにはいつも通りの落ち着きが見て取れた。その様子に、隼人は少しだけ勇気づけられた。
 次に、二人は研究発表のブースへと向かった。会場の一角には、様々な学校から集まった学生たちの発表ポスターが所狭しと並べられている。
「これが私たちのスペースだね」
 美咲が指定された番号のブースを確認した。周囲を見渡すと、パソコンや大型のパネルを用意している学校もあり、隼人は少し気後れした。それでも、自分たちが積み重ねてきた記録の質には自信があった。二人は持参したポスターを丁寧に貼り出し、これまでの記録をまとめた資料を並べていく。
「頂天眼の飼育記録と、地域に伝わる言い伝えについて」というタイトルが、ポスターの中央に大きく掲げられた。マブイの写真や、水温と体調の変化を示したグラフが、周囲に整然と配置されている。隣のブースでは、別の高校の生徒たちが水質浄化についての研究を発表する準備をしていた。会場のあちこちから、最終確認の声や機材を設置する音が聞こえてきていた。
「なんだか、これまでの日々が、ここに詰まってるみたいだね」
 隼人はポスターを見つめながら呟いた。地方予選という大きな舞台に、自分たちの積み重ねてきた時間が確かな形になって並んでいることに、不思議な感慨を覚えた。
 午前の部で、研究発表の審査が始まった。審査員は三名、それぞれ大学教授や地元の生物学の専門家だという紹介があった。審査員たちは順番に各ブースを回りながら、発表者の説明に熱心に耳を傾けていた。開始前、隼人は何度も原稿を頭の中で反芻し、緊張を紛らわせようとした。隼人と美咲は緊張した面持ちで、審査員の前に立った。
「では、発表を始めてください」
 審査員長の合図で、美咲がまず口を開いた。マイクを通さない、肉声での発表だったが、静まり返った会場には、彼女の声がよく通った。
「私たちは、頂天眼という金魚の飼育記録と、地域に伝わる言い伝えについて発表します」
 美咲の声は、練習の時よりも少し硬かったが、それでもはっきりと審査員たちに届いていた。手元には、これまで書き溜めてきたノートのコピーが、資料として添えられている。隼人は続けて、マブイとの出会いからこれまでの飼育の経緯を語り始めた。
「最初は、知人から譲り受けた五匹の金魚の一匹でした。特別な知識もないまま始めた飼育でしたが、記録をつけることで少しずつ理解が深まっていきました」
 隼人は手元の資料を時折確認しながら、水温管理や餌の与え方について、これまで積み重ねてきた具体的な数値を交えて説明していった。声は最初こそ震えていたが、話すうちに次第に落ち着きを取り戻していった。
 隼人の言葉に、審査員の一人が小さく頷いた。その反応に、隼人は少し安堵した。
「私たちの研究には、もう一つ地域に伝わる言い伝えについての調査も含まれています」
 美咲が続けて説明を始めた。天の窓という言葉が、頂天眼の頭頂部に稀に現れる模様を指すという言い伝えがあること。しかし、その詳細については、資料館や地元の高齢者に尋ねても、明確な答えは得られなかったことを、正直に伝えた。マブイの頭頂部にも、ごく淡い陰影のようなものが見られること。ただしそれが言い伝えの模様と関係があるのかは、まだ判断がつかないことも隠さずに付け加えた。ポスターに貼られた資料館の古い写真を指し示しながら、彼女は落ち着いた口調で説明を続けた。
「科学的に証明されたものではありませんが、この地域に頂天眼を大切に育ててきた人々の歴史があったことは、確かに分かりました」
「面白い視点ですね。分からないことを、分からないまま提示する姿勢は、研究として誠実だと思います」
 審査員長は手元の資料に何か書き込みながら、感心したように言った。その言葉に、隼人と美咲は顔を見合わせ、小さく息をついた。これまでの不安が、少しずつ和らいでいくのを感じた。
 発表の後、別の審査員から質問が投げかけられた。
「水温管理において、特に気をつけていたことは何ですか」
 隼人は少し考えてから、丁寧に答えた。
「急激な温度変化を避けることです。水替えの際は、必ず新しい水と古い水の温度を合わせるようにしていました」
「なるほど。実践的な知見ですね」
 審査員は満足そうに頷き、手元の用紙に何かを書き込んだ。
 別の審査員からも、質問が続いた。
「地域の言い伝えについて調査する中で、一番印象に残ったことは何ですか」
 美咲がその質問に答えた。
「資料館で見た古い写真です。当時の人々が、金魚を囲んで誇らしげにしている様子から、この地域に確かにあった文化の温もりを感じました」
 美咲の言葉に、審査員たちは深く頷いていた。隼人は、これまで積み重ねてきた地道な作業が、こうして評価される瞬間にじんわりとした達成感を覚えていた。
 研究発表の審査が終わると、昼食の時間になった。会場の外に設けられた休憩スペースで、隼人と美咲は持参したおにぎりを食べた。
「緊張しすぎて、味がよく分からないや」
 隼人が苦笑いしながら言うと、美咲も同じように笑った。
「私も。でも、午前中の発表、うまくいったと思うよ」
「うん。あとは、午後の品評会だね」
 二人はしばらく無言でおにぎりを頬張った。周囲では、他の出品者や発表者たちも、思い思いに昼食を取っている。子供連れの家族や、部活動の顧問らしき教師に付き添われた生徒たちの姿もあった。
「マブイのこと、少し見てくる」
 隼人は食べ終えると、すぐに立ち上がった。
「私も行く」
 二人は励まし合いながら、午後の審査に向けて気持ちを整えていった。空を見上げると、秋晴れの澄んだ青空が広がっていた。
 昼食を終えると、二人はもう一度マブイの様子を確認しに審査エリアへと向かった。長時間の移動と慣れない環境でのストレスがないか、心配になったのだ。
「マブイ、大丈夫そうだね」
 美咲が水槽を覗き込みながら、ほっとしたように言った。マブイは変わらず、ゆったりと水槽の中を泳いでいる。その落ち着いた様子に、隼人も安堵の息をついた。
「よし、あとは審査を待つだけだ」
 隼人は自分に言い聞かせるように呟いた。周囲では、他の出品者たちもそれぞれの金魚の様子を最後まで気にかけている姿が見られた。誰もが、自分の育ててきた命に対して同じような愛情を抱いているのだと、隼人は改めて実感した。
 午後になり、いよいよ品評会本審査の時間が訪れた。頂天眼部門の出品者たちが、審査エリアの周りに集まっている。会場のスピーカーから、出品者への呼び出しのアナウンスが繰り返し流れていた。年配の出品者たちは慣れた様子で談笑しながら待っているが、若い出品者や隼人たちのような学生の姿は少なく、その分、視線を集めているようにも感じられた。隼人と美咲も、少し離れた場所からその様子を見守った。
 審査員たちは、一匹ずつ水槽の前に立ち止まり、じっくりと観察していく。体型、色艶、泳ぎ方。専門書で読んだ基準の一つ一つが、実際の審査の場で確かめられていくのを隼人は緊張しながら見つめていた。時折、審査員同士が小声で言葉を交わし、手元の用紙に何かを書き込んでいる様子も見えた。
 マブイの番が来ると、隼人は思わず身を乗り出した。審査員がマブイの泳ぐ様子をじっと見つめている。マブイは、いつもと変わらない優雅な泳ぎを見せていた。上向きの目が、まるで審査員を見返すかのように水面近くまで上がってくる瞬間もあった。隼人は、これまで積み重ねてきた日々が、この一瞬の泳ぎに凝縮されているような気がした。
「なかなか良い動きをしていますね」
 審査員の一人がそう呟くのが、隼人の耳にも届いた。その言葉に、隼人は思わず美咲と顔を見合わせた。
 周囲にいた他の出品者たちも、審査員の言葉に耳を澄ませているようだった。中には、自分の出品した金魚が審査される番を、緊張した面持ちで待つ人々の姿もあった。誰もが同じように、自分の育ててきた金魚への評価を固唾を呑んで見守っていた。
 審査が終わると、結果発表までの間、隼人たちは会場内を見て回ることにした。他の出品者たちの頂天眼も、それぞれ違った魅力を持っていた。中には、体色の鮮やかさで際立つ個体や、鰭の形が美しく整った個体もあり、隼人は改めて、この世界の奥深さを実感した。会場の隅では、年配の愛好家たちが、互いの金魚を眺めながら熱心に語り合う姿も見られた。
「緊張するね」
 美咲がぽつりと言った。
「うん。でも、僕たちにできることは、もうやったから」
 隼人はそう答えたが、内心では落ち着かない気持ちが渦巻いていた。専門書で読んだ審査基準のことが、頭の中で何度も繰り返される。それでも、マブイの泳ぐ姿を思い出すと、不思議と心が落ち着くのを感じた。腕時計をちらちらと確認しながら、隼人は結果発表の時間が来るのをただじっと待ち続けた。周囲でも、同じように緊張した面持ちで待つ出品者たちの姿が、あちこちに見受けられた。
 結果発表の時間が近づき、会場中央のステージに人々が集まり始めた。隼人と美咲も、緊張した面持ちで、その輪の中に加わった。
「それでは、頂天眼部門の結果を発表します」
 審査員長の声が、マイクを通して会場に響いた。会場全体が、しんと静まり返る。隼人は思わず、美咲の袖を軽く掴んだ。
 周囲を見渡すと、他の出品者たちも皆一様に緊張した面持ちで壇上を見つめていた。マブイの水槽は少し離れた場所に置かれていたが、隼人の位置からもその姿がぼんやりと見えるような気がした。まるでこの瞬間を、マブイ自身も見届けようとしているかのようだった。
「三位、田中様の『黄金丸』」
 拍手が起こる中、隼人は自分の心臓の音がやけに大きく聞こえるのを感じた。名前を呼ばれた出品者が、嬉しそうに壇上へと進み出ていく様子を、隼人はどこか遠くの出来事のように眺めていた。
「二位......」
 審査員長が一瞬、間を置いた。会場の空気がより一層張り詰めていくのを、隼人は肌で感じていた。心臓の鼓動が、耳の奥にまで響いてくるようだった。
「鈴木隼人様の『マブイ』」
 その瞬間、隼人は自分の名前が呼ばれたことにしばらく気づけなかった。周囲からの拍手で、ようやく我に返る。
「マブイが......」
 隼人は呆然と呟いた。一位ではなかった。しかし、確かに評価されたのだという実感が、じわじわと胸に広がっていった。
 続けて、研究発表部門の結果も発表された。
「学生研究発表部門、優秀賞。鈴木隼人さん、佐藤美咲さんの『頂天眼の飼育記録と、地域に伝わる言い伝えについて』」
 名前が呼ばれた瞬間、会場から温かい拍手が起こった。二人は驚きながらも、互いに顔を見合わせた。美咲の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
 壇上に上がると、審査員長から賞状と小さな記念品が手渡された。会場の後方から、ムラさんが大きく手を振っているのが見えた。
「やったね、隼人くん」
「うん......信じられない」
 隼人は賞状を受け取りながら、もう一度会場の後方を探した。ムラさんはまだ手を振っていた。その姿を見つけた瞬間、急に喉の奥が熱くなって、隼人は慌てて視線を手元の賞状に戻した。壇上から見える会場の景色は、これまで見たことのない特別なものに感じられた。
 表彰式の後、隣のブースで研究発表を行っていた女子生徒が、二人のもとを訪れた。
「優秀賞、おめでとうございます。天の窓っていう言い伝えのお話、すごく興味深かったです」
 その生徒は、自分のノートを大切そうに抱えながら、目を輝かせて言った。
「ありがとうございます。そちらの研究も、素晴らしい着眼点でしたね」
 美咲がそう返すと、その生徒は嬉しそうに微笑んだ。同じ舞台に立った者同士、短い言葉の中にも互いへの敬意が滲んでいた。
 しかし、会場を後にする道すがら、隼人の心には次第に別の感情が広がり始めていた。
「二位、か」
 隼人はぽつりと呟いた。研究発表で優秀賞を取れたことは嬉しかったが、品評会で一位になれなかったことが思っていた以上に胸に引っかかっていた。夕暮れの空を見上げながら、隼人は自分でも意外なほどその結果にこだわっている自分に気づいた。手にした賞状の重みが、なぜか少しだけ物足りなく感じられた。
「二位でも、十分すごいことだよ」
 美咲が励ますように言ったが、隼人はうまく笑顔を作れなかった。
「うん、分かってるんだけど......」
 隼人は言葉を濁した。あれだけ努力を積み重ねてきたのだから、一位になれるはずだというどこか驕った期待が、自分の中にあったことに今更ながら気づかされた。
 会場の出口で、ムラさんが待っていてくれた。夕日を背にしたその姿は、いつもよりも一回り大きく見えた。
「隼人くん、美咲さん、お疲れ様。見事だったな」
 ムラさんは満面の笑みで二人を出迎えた。その手には、いつも河川敷で使っている釣り道具の代わりに、小さな花束が握られていた。
「お祝いだ」と言って、ムラさんは少し照れくさそうにその花束を差し出した。しかし、隼人の浮かない表情に気づいたのか、少し声のトーンを落とした。
「二位、悔しいか」
 ムラさんは、隼人の目をまっすぐに見つめながら尋ねた。その視線には、からかいではなく真剣な気遣いが込められていた。
「はい......正直、一位を狙ってたので」
 隼人は素直な気持ちを口にした。ムラさんはしばらく黙って隼人を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「親父がよく言ってたよ。賞のために金魚を飼うんじゃない、金魚のために自分がいるんだと。隼人くんが今日、悔しいと思う気持ちも分かる。でも、その気持ちに飲まれすぎないようにな」
 ムラさんは、隼人の肩に軽く手を置きながら、諭すように語りかけた。その手のひらの温もりが、隼人の胸にじんわりと染み渡っていくようだった。
 ムラさんの言葉は、これまで何度も聞いてきたはずのものだった。しかし、二位という結果を目の前にした今、その言葉の重みは以前とは違う響きを持って、隼人の胸に迫ってきた。夕暮れの光が、二人の影を長く地面に伸ばしていた。
 その時、係員が二人に近づいてきた。手には正式な用紙を持っている。
「鈴木さん、佐藤さん、少しよろしいですか」
 係員は丁寧な口調で、正式な知らせを伝えた。
「地方予選の上位入賞者には、全国大会への出場資格が与えられます。今回、二位に入賞された鈴木さんも、その対象になります」
 資格があること自体は、隼人も申込みの時点から知っていた。それでも、実際に自分の名前とともに告げられると、資格を得たという実感がじわりと胸に広がっていった。周囲にいた美咲とムラさんも、同じように顔を見合わせていた。
「詳細は後日、正式な案内をお送りします」
 係員はそう言い残し、丁寧に一礼して会場の中へと戻っていった。係員が立ち去った後、隼人と美咲、そしてムラさんは、しばらく無言でその場に立ち尽くしていた。
 風が河川敷とは違う、都会めいた匂いを運んでくる。会場の外では、既に帰り支度を始めている出品者たちの姿も見えた。隼人は、この非日常の一日が少しずつ終わりに近づいていることを、肌で感じ始めていた。手にした賞状の重みが、これから始まる新しい挑戦の確かな第一歩であることを物語っているようだった。
「全国か......」
 ムラさんが呟いた。その声には、驚きと同時に深い感慨がこもっているようだった。
「親父が夢見てた舞台に、まさか隼人くんが立つことになるとはな」
 ムラさんはそう言いながら、遠くを見つめるような目をしていた。その視線の先には、若き日の正一の姿が重なっているのかもしれないと、隼人は思った。
 夕暮れの空に、一番星が瞬き始めていた。ムラさんはしばらくその星を見上げた後、言葉を継いだ。
「親父は結局、その舞台には立てなかった。でも、隼人くんがその夢を繋いでくれるなら、こんなに嬉しいことはないよ」
 ムラさんの言葉に、隼人は改めてこの挑戦の重みを感じた。二位という結果への悔しさと、全国大会という新たな目標への戸惑い。二つの感情が、隼人の胸の中で複雑に絡み合っていた。
「隼人くん、どうする?」
 美咲がそっと尋ねた。その声には、隼人の決断を尊重しようとする優しい響きがあった。
「やる。全国大会、出てみたい」
 隼人は少し間を置いてから、はっきりとそう答えた。今度こそ、一位を目指したいという気持ちと、ムラさんの言葉をもう一度胸に刻みたいという気持ちが、同時に湧き上がってきた。
 三人は会場を後にし、駅までの道を並んで歩いた。夕暮れの空には、鰯雲が茜色に染まりながら広がっていた。
「そういえば、全国大会はいつ頃になるんですか」
 隼人がふと尋ねると、ムラさんは少し考えるように首をかしげた。
「詳しいことは、正式な案内が来てから分かるだろうな。だが、噂では来月の中頃だと聞いたことがある」
「来月......」
 隼人は驚いた。思っていたよりも、ずっと早い日程だった。急に現実味を帯びてきたその言葉に、隼人の胸に期待と緊張が入り混じった感情が広がっていった。
「時間は限られてるが、焦る必要はない。今まで通り、丁寧にやっていけばいい」
 ムラさんの言葉に、隼人は深く頷いた。
 その夜、隼人は帰宅するなり、母に結果を報告した。玄関先で靴を脱ぐのももどかしく、鞄を置くよりも先にその日の出来事を話し始めた。
「二位だったよ。それと、研究発表は優秀賞をもらえた」
「まあ、すごいじゃない」
 母は目を輝かせながら、隼人の持ち帰った賞状を覗き込んだ。差し出された賞状を丁寧に両手で受け取り、隼人の名前が記された文字を、指でなぞるように見つめている。
「それでね、全国大会に出場できることになったんだ」
 隼人は少し誇らしげに、しかしどこか照れくさそうに伝えた。
「全国......」
 母は驚いた様子で、しばらく言葉を失っていた。持っていた菜箸を思わず置き、隼人の顔をまじまじと見つめた。
「本当にすごいことじゃない。お母さん、誇りに思うわ」
 母の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。夜勤明けの疲れも忘れたかのように、母は隼人を優しく抱きしめた。その腕の中で、隼人はしばらくの間、これまでの緊張が解けていくのを感じていた。
 母の言葉に、隼人は照れくさそうに頭をかいた。しかし、その夜、自室の水槽の前に座った隼人の心には、喜びと同時にまだ消えない悔しさが澱のように残り続けていた。
 夕食を終えた後、隼人は美咲に電話をかけた。予選の日を締めくくる夕闇が、町にじわじわと広がり始めていた。
「今日はお疲れ様。改めて、ありがとう」
「こちらこそ。優秀賞、本当に嬉しかったね」
 電話越しの美咲の声は、いつもより少し弾んでいた。
「全国大会、また一緒に頑張ろう」
 隼人がそう言うと、美咲は少し間を置いてからゆっくりと答えた。
「うん。今度こそ、隼人くんが納得できる結果を出せるといいね」
 美咲の言葉には、単なる励まし以上の深い思いやりが込められているように感じられた。隼人はその言葉を胸に刻みながら、電話を切った。
 通話を終えたスマートフォンの画面を、隼人はしばらく見つめていた。今日という日を共に過ごした美咲の存在が、隼人にとってこれまで以上に大きなものになっていることを、改めて実感していた。
「マブイ、今日はよく頑張ってくれたな」
 隼人は水槽に語りかけた。マブイは変わらぬ美しさで、水槽の中を泳いでいる。今日一日の慣れない移動と喧騒の中でもマブイが体調を崩さずにいてくれたことに、隼人は改めて安堵の気持ちを抱いた。しかし、隼人の胸には、「もっとできたはずだ」という思いが、拭いきれずに残っていた。
 机の上には、正一のノートと今日受け取った賞状が並べて置かれている。隼人はしばらくその二つを見比べた後、そっとノートを開いた。革表紙の感触が、いつもより少し冷たく感じられた。
「二位でした。でも、次は全国大会があります」
 隼人は、まるで正一に語りかけるように、ノートの余白にそう書き込んだ。悔しさをそのままにしておくのではなく、次への糧にしたいという思いがその一文には込められていた。ペン先が紙に触れる感触を、隼人は確かめるようにゆっくりと文字を綴っていった。
 窓の外には、予選の日を締めくくる静かな夜が広がっていた。全国大会という新たな目標に向けて、隼人の中で何かが確かに動き始めていた。
 ベッドに入ってからも、隼人はしばらく寝付けなかった。天井を見上げながら、今日一日の出来事を順番に思い返していく。会場の熱気、審査員の言葉、二位という結果を告げられた瞬間の胸の高鳴り、そしてムラさんの穏やかな助言。すべてが、まだ鮮明に焼き付いていた。
 これまでの自分は、ただ目の前のことに一生懸命だっただけだった。しかし今日という日を経て、隼人は初めて「勝ちたい」という気持ちの強さを、自分自身の中にはっきりと感じ取っていた。それは決して悪い感情ではないはずだったが、同時に、その気持ちに振り回されすぎないようにというムラさんの言葉も、忘れてはならないと思った。
 隣の部屋からは、母のテレビの音がかすかに聞こえてくる。いつもと変わらない、静かな夜だった。それでも隼人の心の中では、確かに新しい何かが始まろうとしていた。
 隼人は静かに水槽の前に戻り、もう一度マブイに語りかけた。
「マブイ、次は全国大会だ。一緒に、もう一度頑張ろうな」
 マブイは、上向きの目でじっと隼人を見つめ返していた。その視線に、隼人はどこか言葉のない決意を分かち合っているような気がした。二位という結果が残した悔しさはまだ完全には消えていなかったが、それは同時に、次への確かな原動力にもなっていた。
 電気を消し布団に入ってからも、隼人はしばらく目を閉じられなかった。全国大会という新たな舞台、そこで待ち受けるであろうさらに厳しい戦い。それでも、これまでの日々を積み重ねてきた自信が、隼人の胸の中に小さな灯りのように残り続けていた。
 窓の外を、夜風がそっと通り過ぎていく音がした。予選の日は、こうして幕を閉じようとしていた。しかし隼人にとって、それは終わりではなく、新しい戦いへの確かな始まりの日でもあった。
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天窓の魚作者:森本 凛
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予選当日の朝、隼人は誰よりも早く目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む光は、まだ薄青い。時計を見ると、予定より一時間近く早かったが、二度寝をする気にはなれなかった。天井を見上げながら、これまでの数ヶ月間を振り返る。マブイとの出会い、記録の日々、そして先日のムラさんとの会話。すべてが今日という日に繋がっているのだと思うと、自然と背筋が伸びた。布団から出ると外はまだ薄暗く、町全体が静かな眠りの中にあった。
 隼人はそっと水槽に近づき、マブイの様子を確認した。マブイは変わらず優雅に泳いでいる。頭頂部の上向きの目が、まるで今日という日を待ちわびていたかのように澄んで見えた。水槽のガラス越しに差し込む朝日が、マブイの鱗を淡く照らしていた。
「今日は、よろしくな」
 隼人は小さく声をかけ、慎重に運搬用の容器に水を張り始めた。ムラさんから借りた発泡スチロールの容器は、いつもより重々しく感じられた。
 キッチンからは、母が朝食を作る音が聞こえてくる。
「隼人、もう起きてたの」
 母がドア越しに声をかけてきた。パジャマ姿のまま、少し眠そうな様子だった。
「うん、緊張して眠れなかった」
「そう。無理しないでね。今日は美咲ちゃんと一緒なんでしょう」
 母はキッチンから顔だけを出して尋ねた。フライパンで卵を焼くじゅうじゅうという音が聞こえてくる。
「うん、会場で待ち合わせ」
 母は玄関先まで見送りに出てきてくれた。エプロン姿のまま、朝食の支度を中断してのことだった。
「頑張ってらっしゃい。マブイのこと、ちゃんと見てあげてね」
 母はそう言うと、隼人の背中をそっと押すように軽く叩いた。
「あなたなら大丈夫。今まで、ちゃんと積み重ねてきたんだから」
 母のその一言に、隼人は胸の奥が温かくなるのを感じ、小さく頷いた。玄関を出ると、まだ朝靄の残る町が白く広がっていた。
 会場である市の公民館に着くと、すでに多くの人々が出品の受付を済ませようと列を作っていた。想像していたよりもずっと大規模で、隼人は思わず息を呑んだ。駐車場には県内各地のナンバーを付けた車が並び、この大会の注目度の高さを物語っていた。会場入口の垂れ幕には、大会の正式名称と開催回数を示す数字が大きく掲げられていた。
「隼人くん、こっち」
 美咲が手を振りながら駆け寄ってきた。彼女もまた、緊張した面持ちをしている。手には、発表用の資料を入れたファイルをしっかりと抱えていた。いつもより早起きしたのだろう。髪もいつもと違う丁寧な結い方をしていた。
「すごい人だね......」
 隼人は会場を見渡しながら呟いた。様々な品種の金魚が、それぞれの水槽に入れられ、受付の列に並んでいる。琉金、東錦、蘭鋳。見たこともない品種の金魚たちが、それぞれの美しさを競い合うように並んでいた。中には、見るからに年季の入った出品者や、専門的な道具を携えた人々の姿もあった。
「私たちの研究発表のブースも、あっちにあるみたい」
 美咲が案内板を指さした。品評会の会場の一角に、学生向けの研究発表コーナーが設けられている。案内板には手描きの地図が貼られ、各ブースの配置が丁寧に示されていた。
「まずは、マブイの受付を済ませよう」
 隼人はそう言って、運搬用の容器を抱え直した。会場に入ってすぐの受付テーブルには長机がいくつも並べられ、係員たちが忙しそうに応対していた。
 受付では、出品票に必要事項を記入し、金魚の品種と名前を伝える。係員は慣れた手つきで、マブイの入った容器を確認した。記入用紙には出品者の氏名、金魚の品種、飼育開始日などを記す欄があり、隼人は緊張しながらも丁寧に一つ一つ書き込んでいった。
「頂天眼ですね。綺麗な個体だ」
 係員の一言に、隼人は少し誇らしい気持ちになった。
 受付の順番を待っていた隣の出品者が、マブイを覗き込んで声をかけてきた。
「その頂天眼、良い体色してますね。どちらで手に入れられたんですか」
 年配の男性で、慣れた手つきで自分の金魚の水槽を抱えている。長年この趣味に親しんできたことが、その手慣れた所作から伝わってきた。
「知人から譲り受けたんです。もともとは、その方のお父さんが大切に育てていた金魚で」
 隼人がそう答えると、男性は感慨深そうに頷いた。
「そうですか。大切にされてきた金魚は、やっぱりどこか違いますね」
 その言葉に、隼人は胸の奥が温かくなるのを感じた。専門知識を持つ人からの率直な評価が、これまでの日々の積み重ねをそっと肯定してくれているような気がした。
 指定された審査用の水槽にマブイを移すと、隣には既に何匹もの頂天眼が並んでいた。どれも見事な体色をしており、隼人は思わず息を呑んだ。水槽ごとに貼られた出品者の名札には、聞いたこともないような由緒ある屋号が記されているものもあった。
「あっちの子、すごく大きいね」
 美咲が小声で言った。プロの養魚場から出品されたと思われる個体は、マブイよりも一回り大きく、堂々とした風格を漂わせていた。水槽に貼られた札には、著名な養魚場の名前が記されている。
 その隣には、鮮やかな朱色の体色を持つ頂天眼もいた。まるで炎が水中で揺らめいているかのような美しさに、隼人は思わず見入ってしまった。さらにその奥には、白と金の斑模様を持つ個体が、悠然と泳いでいる。それぞれの金魚が、まったく異なる魅力を放っていることに、隼人は改めて頂天眼という品種の奥深さを実感した。
 隼人は少し不安になったが、マブイの水槽を覗き込むと、その泳ぎにはいつも通りの落ち着きが見て取れた。その様子に、隼人は少しだけ勇気づけられた。
 次に、二人は研究発表のブースへと向かった。会場の一角には、様々な学校から集まった学生たちの発表ポスターが所狭しと並べられている。
「これが私たちのスペースだね」
 美咲が指定された番号のブースを確認した。周囲を見渡すと、パソコンや大型のパネルを用意している学校もあり、隼人は少し気後れした。それでも、自分たちが積み重ねてきた記録の質には自信があった。二人は持参したポスターを丁寧に貼り出し、これまでの記録をまとめた資料を並べていく。
「頂天眼の飼育記録と、地域に伝わる言い伝えについて」というタイトルが、ポスターの中央に大きく掲げられた。マブイの写真や、水温と体調の変化を示したグラフが、周囲に整然と配置されている。隣のブースでは、別の高校の生徒たちが水質浄化についての研究を発表する準備をしていた。会場のあちこちから、最終確認の声や機材を設置する音が聞こえてきていた。
「なんだか、これまでの日々が、ここに詰まってるみたいだね」
 隼人はポスターを見つめながら呟いた。地方予選という大きな舞台に、自分たちの積み重ねてきた時間が確かな形になって並んでいることに、不思議な感慨を覚えた。
 午前の部で、研究発表の審査が始まった。審査員は三名、それぞれ大学教授や地元の生物学の専門家だという紹介があった。審査員たちは順番に各ブースを回りながら、発表者の説明に熱心に耳を傾けていた。開始前、隼人は何度も原稿を頭の中で反芻し、緊張を紛らわせようとした。隼人と美咲は緊張した面持ちで、審査員の前に立った。
「では、発表を始めてください」
 審査員長の合図で、美咲がまず口を開いた。マイクを通さない、肉声での発表だったが、静まり返った会場には、彼女の声がよく通った。
「私たちは、頂天眼という金魚の飼育記録と、地域に伝わる言い伝えについて発表します」
 美咲の声は、練習の時よりも少し硬かったが、それでもはっきりと審査員たちに届いていた。手元には、これまで書き溜めてきたノートのコピーが、資料として添えられている。隼人は続けて、マブイとの出会いからこれまでの飼育の経緯を語り始めた。
「最初は、知人から譲り受けた五匹の金魚の一匹でした。特別な知識もないまま始めた飼育でしたが、記録をつけることで少しずつ理解が深まっていきました」
 隼人は手元の資料を時折確認しながら、水温管理や餌の与え方について、これまで積み重ねてきた具体的な数値を交えて説明していった。声は最初こそ震えていたが、話すうちに次第に落ち着きを取り戻していった。
 隼人の言葉に、審査員の一人が小さく頷いた。その反応に、隼人は少し安堵した。
「私たちの研究には、もう一つ地域に伝わる言い伝えについての調査も含まれています」
 美咲が続けて説明を始めた。天の窓という言葉が、頂天眼の頭頂部に稀に現れる模様を指すという言い伝えがあること。しかし、その詳細については、資料館や地元の高齢者に尋ねても、明確な答えは得られなかったことを、正直に伝えた。マブイの頭頂部にも、ごく淡い陰影のようなものが見られること。ただしそれが言い伝えの模様と関係があるのかは、まだ判断がつかないことも隠さずに付け加えた。ポスターに貼られた資料館の古い写真を指し示しながら、彼女は落ち着いた口調で説明を続けた。
「科学的に証明されたものではありませんが、この地域に頂天眼を大切に育ててきた人々の歴史があったことは、確かに分かりました」
「面白い視点ですね。分からないことを、分からないまま提示する姿勢は、研究として誠実だと思います」
 審査員長は手元の資料に何か書き込みながら、感心したように言った。その言葉に、隼人と美咲は顔を見合わせ、小さく息をついた。これまでの不安が、少しずつ和らいでいくのを感じた。
 発表の後、別の審査員から質問が投げかけられた。
「水温管理において、特に気をつけていたことは何ですか」
 隼人は少し考えてから、丁寧に答えた。
「急激な温度変化を避けることです。水替えの際は、必ず新しい水と古い水の温度を合わせるようにしていました」
「なるほど。実践的な知見ですね」
 審査員は満足そうに頷き、手元の用紙に何かを書き込んだ。
 別の審査員からも、質問が続いた。
「地域の言い伝えについて調査する中で、一番印象に残ったことは何ですか」
 美咲がその質問に答えた。
「資料館で見た古い写真です。当時の人々が、金魚を囲んで誇らしげにしている様子から、この地域に確かにあった文化の温もりを感じました」
 美咲の言葉に、審査員たちは深く頷いていた。隼人は、これまで積み重ねてきた地道な作業が、こうして評価される瞬間にじんわりとした達成感を覚えていた。
 研究発表の審査が終わると、昼食の時間になった。会場の外に設けられた休憩スペースで、隼人と美咲は持参したおにぎりを食べた。
「緊張しすぎて、味がよく分からないや」
 隼人が苦笑いしながら言うと、美咲も同じように笑った。
「私も。でも、午前中の発表、うまくいったと思うよ」
「うん。あとは、午後の品評会だね」
 二人はしばらく無言でおにぎりを頬張った。周囲では、他の出品者や発表者たちも、思い思いに昼食を取っている。子供連れの家族や、部活動の顧問らしき教師に付き添われた生徒たちの姿もあった。
「マブイのこと、少し見てくる」
 隼人は食べ終えると、すぐに立ち上がった。
「私も行く」
 二人は励まし合いながら、午後の審査に向けて気持ちを整えていった。空を見上げると、秋晴れの澄んだ青空が広がっていた。
 昼食を終えると、二人はもう一度マブイの様子を確認しに審査エリアへと向かった。長時間の移動と慣れない環境でのストレスがないか、心配になったのだ。
「マブイ、大丈夫そうだね」
 美咲が水槽を覗き込みながら、ほっとしたように言った。マブイは変わらず、ゆったりと水槽の中を泳いでいる。その落ち着いた様子に、隼人も安堵の息をついた。
「よし、あとは審査を待つだけだ」
 隼人は自分に言い聞かせるように呟いた。周囲では、他の出品者たちもそれぞれの金魚の様子を最後まで気にかけている姿が見られた。誰もが、自分の育ててきた命に対して同じような愛情を抱いているのだと、隼人は改めて実感した。
 午後になり、いよいよ品評会本審査の時間が訪れた。頂天眼部門の出品者たちが、審査エリアの周りに集まっている。会場のスピーカーから、出品者への呼び出しのアナウンスが繰り返し流れていた。年配の出品者たちは慣れた様子で談笑しながら待っているが、若い出品者や隼人たちのような学生の姿は少なく、その分、視線を集めているようにも感じられた。隼人と美咲も、少し離れた場所からその様子を見守った。
 審査員たちは、一匹ずつ水槽の前に立ち止まり、じっくりと観察していく。体型、色艶、泳ぎ方。専門書で読んだ基準の一つ一つが、実際の審査の場で確かめられていくのを隼人は緊張しながら見つめていた。時折、審査員同士が小声で言葉を交わし、手元の用紙に何かを書き込んでいる様子も見えた。
 マブイの番が来ると、隼人は思わず身を乗り出した。審査員がマブイの泳ぐ様子をじっと見つめている。マブイは、いつもと変わらない優雅な泳ぎを見せていた。上向きの目が、まるで審査員を見返すかのように水面近くまで上がってくる瞬間もあった。隼人は、これまで積み重ねてきた日々が、この一瞬の泳ぎに凝縮されているような気がした。
「なかなか良い動きをしていますね」
 審査員の一人がそう呟くのが、隼人の耳にも届いた。その言葉に、隼人は思わず美咲と顔を見合わせた。
 周囲にいた他の出品者たちも、審査員の言葉に耳を澄ませているようだった。中には、自分の出品した金魚が審査される番を、緊張した面持ちで待つ人々の姿もあった。誰もが同じように、自分の育ててきた金魚への評価を固唾を呑んで見守っていた。
 審査が終わると、結果発表までの間、隼人たちは会場内を見て回ることにした。他の出品者たちの頂天眼も、それぞれ違った魅力を持っていた。中には、体色の鮮やかさで際立つ個体や、鰭の形が美しく整った個体もあり、隼人は改めて、この世界の奥深さを実感した。会場の隅では、年配の愛好家たちが、互いの金魚を眺めながら熱心に語り合う姿も見られた。
「緊張するね」
 美咲がぽつりと言った。
「うん。でも、僕たちにできることは、もうやったから」
 隼人はそう答えたが、内心では落ち着かない気持ちが渦巻いていた。専門書で読んだ審査基準のことが、頭の中で何度も繰り返される。それでも、マブイの泳ぐ姿を思い出すと、不思議と心が落ち着くのを感じた。腕時計をちらちらと確認しながら、隼人は結果発表の時間が来るのをただじっと待ち続けた。周囲でも、同じように緊張した面持ちで待つ出品者たちの姿が、あちこちに見受けられた。
 結果発表の時間が近づき、会場中央のステージに人々が集まり始めた。隼人と美咲も、緊張した面持ちで、その輪の中に加わった。
「それでは、頂天眼部門の結果を発表します」
 審査員長の声が、マイクを通して会場に響いた。会場全体が、しんと静まり返る。隼人は思わず、美咲の袖を軽く掴んだ。
 周囲を見渡すと、他の出品者たちも皆一様に緊張した面持ちで壇上を見つめていた。マブイの水槽は少し離れた場所に置かれていたが、隼人の位置からもその姿がぼんやりと見えるような気がした。まるでこの瞬間を、マブイ自身も見届けようとしているかのようだった。
「三位、田中様の『黄金丸』」
 拍手が起こる中、隼人は自分の心臓の音がやけに大きく聞こえるのを感じた。名前を呼ばれた出品者が、嬉しそうに壇上へと進み出ていく様子を、隼人はどこか遠くの出来事のように眺めていた。
「二位......」
 審査員長が一瞬、間を置いた。会場の空気がより一層張り詰めていくのを、隼人は肌で感じていた。心臓の鼓動が、耳の奥にまで響いてくるようだった。
「鈴木隼人様の『マブイ』」
 その瞬間、隼人は自分の名前が呼ばれたことにしばらく気づけなかった。周囲からの拍手で、ようやく我に返る。
「マブイが......」
 隼人は呆然と呟いた。一位ではなかった。しかし、確かに評価されたのだという実感が、じわじわと胸に広がっていった。
 続けて、研究発表部門の結果も発表された。
「学生研究発表部門、優秀賞。鈴木隼人さん、佐藤美咲さんの『頂天眼の飼育記録と、地域に伝わる言い伝えについて』」
 名前が呼ばれた瞬間、会場から温かい拍手が起こった。二人は驚きながらも、互いに顔を見合わせた。美咲の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
 壇上に上がると、審査員長から賞状と小さな記念品が手渡された。会場の後方から、ムラさんが大きく手を振っているのが見えた。
「やったね、隼人くん」
「うん......信じられない」
 隼人は賞状を受け取りながら、もう一度会場の後方を探した。ムラさんはまだ手を振っていた。その姿を見つけた瞬間、急に喉の奥が熱くなって、隼人は慌てて視線を手元の賞状に戻した。壇上から見える会場の景色は、これまで見たことのない特別なものに感じられた。
 表彰式の後、隣のブースで研究発表を行っていた女子生徒が、二人のもとを訪れた。
「優秀賞、おめでとうございます。天の窓っていう言い伝えのお話、すごく興味深かったです」
 その生徒は、自分のノートを大切そうに抱えながら、目を輝かせて言った。
「ありがとうございます。そちらの研究も、素晴らしい着眼点でしたね」
 美咲がそう返すと、その生徒は嬉しそうに微笑んだ。同じ舞台に立った者同士、短い言葉の中にも互いへの敬意が滲んでいた。
 しかし、会場を後にする道すがら、隼人の心には次第に別の感情が広がり始めていた。
「二位、か」
 隼人はぽつりと呟いた。研究発表で優秀賞を取れたことは嬉しかったが、品評会で一位になれなかったことが思っていた以上に胸に引っかかっていた。夕暮れの空を見上げながら、隼人は自分でも意外なほどその結果にこだわっている自分に気づいた。手にした賞状の重みが、なぜか少しだけ物足りなく感じられた。
「二位でも、十分すごいことだよ」
 美咲が励ますように言ったが、隼人はうまく笑顔を作れなかった。
「うん、分かってるんだけど......」
 隼人は言葉を濁した。あれだけ努力を積み重ねてきたのだから、一位になれるはずだというどこか驕った期待が、自分の中にあったことに今更ながら気づかされた。
 会場の出口で、ムラさんが待っていてくれた。夕日を背にしたその姿は、いつもよりも一回り大きく見えた。
「隼人くん、美咲さん、お疲れ様。見事だったな」
 ムラさんは満面の笑みで二人を出迎えた。その手には、いつも河川敷で使っている釣り道具の代わりに、小さな花束が握られていた。
「お祝いだ」と言って、ムラさんは少し照れくさそうにその花束を差し出した。しかし、隼人の浮かない表情に気づいたのか、少し声のトーンを落とした。
「二位、悔しいか」
 ムラさんは、隼人の目をまっすぐに見つめながら尋ねた。その視線には、からかいではなく真剣な気遣いが込められていた。
「はい......正直、一位を狙ってたので」
 隼人は素直な気持ちを口にした。ムラさんはしばらく黙って隼人を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「親父がよく言ってたよ。賞のために金魚を飼うんじゃない、金魚のために自分がいるんだと。隼人くんが今日、悔しいと思う気持ちも分かる。でも、その気持ちに飲まれすぎないようにな」
 ムラさんは、隼人の肩に軽く手を置きながら、諭すように語りかけた。その手のひらの温もりが、隼人の胸にじんわりと染み渡っていくようだった。
 ムラさんの言葉は、これまで何度も聞いてきたはずのものだった。しかし、二位という結果を目の前にした今、その言葉の重みは以前とは違う響きを持って、隼人の胸に迫ってきた。夕暮れの光が、二人の影を長く地面に伸ばしていた。
 その時、係員が二人に近づいてきた。手には正式な用紙を持っている。
「鈴木さん、佐藤さん、少しよろしいですか」
 係員は丁寧な口調で、正式な知らせを伝えた。
「地方予選の上位入賞者には、全国大会への出場資格が与えられます。今回、二位に入賞された鈴木さんも、その対象になります」
 資格があること自体は、隼人も申込みの時点から知っていた。それでも、実際に自分の名前とともに告げられると、資格を得たという実感がじわりと胸に広がっていった。周囲にいた美咲とムラさんも、同じように顔を見合わせていた。
「詳細は後日、正式な案内をお送りします」
 係員はそう言い残し、丁寧に一礼して会場の中へと戻っていった。係員が立ち去った後、隼人と美咲、そしてムラさんは、しばらく無言でその場に立ち尽くしていた。
 風が河川敷とは違う、都会めいた匂いを運んでくる。会場の外では、既に帰り支度を始めている出品者たちの姿も見えた。隼人は、この非日常の一日が少しずつ終わりに近づいていることを、肌で感じ始めていた。手にした賞状の重みが、これから始まる新しい挑戦の確かな第一歩であることを物語っているようだった。
「全国か......」
 ムラさんが呟いた。その声には、驚きと同時に深い感慨がこもっているようだった。
「親父が夢見てた舞台に、まさか隼人くんが立つことになるとはな」
 ムラさんはそう言いながら、遠くを見つめるような目をしていた。その視線の先には、若き日の正一の姿が重なっているのかもしれないと、隼人は思った。
 夕暮れの空に、一番星が瞬き始めていた。ムラさんはしばらくその星を見上げた後、言葉を継いだ。
「親父は結局、その舞台には立てなかった。でも、隼人くんがその夢を繋いでくれるなら、こんなに嬉しいことはないよ」
 ムラさんの言葉に、隼人は改めてこの挑戦の重みを感じた。二位という結果への悔しさと、全国大会という新たな目標への戸惑い。二つの感情が、隼人の胸の中で複雑に絡み合っていた。
「隼人くん、どうする?」
 美咲がそっと尋ねた。その声には、隼人の決断を尊重しようとする優しい響きがあった。
「やる。全国大会、出てみたい」
 隼人は少し間を置いてから、はっきりとそう答えた。今度こそ、一位を目指したいという気持ちと、ムラさんの言葉をもう一度胸に刻みたいという気持ちが、同時に湧き上がってきた。
 三人は会場を後にし、駅までの道を並んで歩いた。夕暮れの空には、鰯雲が茜色に染まりながら広がっていた。
「そういえば、全国大会はいつ頃になるんですか」
 隼人がふと尋ねると、ムラさんは少し考えるように首をかしげた。
「詳しいことは、正式な案内が来てから分かるだろうな。だが、噂では来月の中頃だと聞いたことがある」
「来月......」
 隼人は驚いた。思っていたよりも、ずっと早い日程だった。急に現実味を帯びてきたその言葉に、隼人の胸に期待と緊張が入り混じった感情が広がっていった。
「時間は限られてるが、焦る必要はない。今まで通り、丁寧にやっていけばいい」
 ムラさんの言葉に、隼人は深く頷いた。
 その夜、隼人は帰宅するなり、母に結果を報告した。玄関先で靴を脱ぐのももどかしく、鞄を置くよりも先にその日の出来事を話し始めた。
「二位だったよ。それと、研究発表は優秀賞をもらえた」
「まあ、すごいじゃない」
 母は目を輝かせながら、隼人の持ち帰った賞状を覗き込んだ。差し出された賞状を丁寧に両手で受け取り、隼人の名前が記された文字を、指でなぞるように見つめている。
「それでね、全国大会に出場できることになったんだ」
 隼人は少し誇らしげに、しかしどこか照れくさそうに伝えた。
「全国......」
 母は驚いた様子で、しばらく言葉を失っていた。持っていた菜箸を思わず置き、隼人の顔をまじまじと見つめた。
「本当にすごいことじゃない。お母さん、誇りに思うわ」
 母の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。夜勤明けの疲れも忘れたかのように、母は隼人を優しく抱きしめた。その腕の中で、隼人はしばらくの間、これまでの緊張が解けていくのを感じていた。
 母の言葉に、隼人は照れくさそうに頭をかいた。しかし、その夜、自室の水槽の前に座った隼人の心には、喜びと同時にまだ消えない悔しさが澱のように残り続けていた。
 夕食を終えた後、隼人は美咲に電話をかけた。予選の日を締めくくる夕闇が、町にじわじわと広がり始めていた。
「今日はお疲れ様。改めて、ありがとう」
「こちらこそ。優秀賞、本当に嬉しかったね」
 電話越しの美咲の声は、いつもより少し弾んでいた。
「全国大会、また一緒に頑張ろう」
 隼人がそう言うと、美咲は少し間を置いてからゆっくりと答えた。
「うん。今度こそ、隼人くんが納得できる結果を出せるといいね」
 美咲の言葉には、単なる励まし以上の深い思いやりが込められているように感じられた。隼人はその言葉を胸に刻みながら、電話を切った。
 通話を終えたスマートフォンの画面を、隼人はしばらく見つめていた。今日という日を共に過ごした美咲の存在が、隼人にとってこれまで以上に大きなものになっていることを、改めて実感していた。
「マブイ、今日はよく頑張ってくれたな」
 隼人は水槽に語りかけた。マブイは変わらぬ美しさで、水槽の中を泳いでいる。今日一日の慣れない移動と喧騒の中でもマブイが体調を崩さずにいてくれたことに、隼人は改めて安堵の気持ちを抱いた。しかし、隼人の胸には、「もっとできたはずだ」という思いが、拭いきれずに残っていた。
 机の上には、正一のノートと今日受け取った賞状が並べて置かれている。隼人はしばらくその二つを見比べた後、そっとノートを開いた。革表紙の感触が、いつもより少し冷たく感じられた。
「二位でした。でも、次は全国大会があります」
 隼人は、まるで正一に語りかけるように、ノートの余白にそう書き込んだ。悔しさをそのままにしておくのではなく、次への糧にしたいという思いがその一文には込められていた。ペン先が紙に触れる感触を、隼人は確かめるようにゆっくりと文字を綴っていった。
 窓の外には、予選の日を締めくくる静かな夜が広がっていた。全国大会という新たな目標に向けて、隼人の中で何かが確かに動き始めていた。
 ベッドに入ってからも、隼人はしばらく寝付けなかった。天井を見上げながら、今日一日の出来事を順番に思い返していく。会場の熱気、審査員の言葉、二位という結果を告げられた瞬間の胸の高鳴り、そしてムラさんの穏やかな助言。すべてが、まだ鮮明に焼き付いていた。
 これまでの自分は、ただ目の前のことに一生懸命だっただけだった。しかし今日という日を経て、隼人は初めて「勝ちたい」という気持ちの強さを、自分自身の中にはっきりと感じ取っていた。それは決して悪い感情ではないはずだったが、同時に、その気持ちに振り回されすぎないようにというムラさんの言葉も、忘れてはならないと思った。
 隣の部屋からは、母のテレビの音がかすかに聞こえてくる。いつもと変わらない、静かな夜だった。それでも隼人の心の中では、確かに新しい何かが始まろうとしていた。
 隼人は静かに水槽の前に戻り、もう一度マブイに語りかけた。
「マブイ、次は全国大会だ。一緒に、もう一度頑張ろうな」
 マブイは、上向きの目でじっと隼人を見つめ返していた。その視線に、隼人はどこか言葉のない決意を分かち合っているような気がした。二位という結果が残した悔しさはまだ完全には消えていなかったが、それは同時に、次への確かな原動力にもなっていた。
 電気を消し布団に入ってからも、隼人はしばらく目を閉じられなかった。全国大会という新たな舞台、そこで待ち受けるであろうさらに厳しい戦い。それでも、これまでの日々を積み重ねてきた自信が、隼人の胸の中に小さな灯りのように残り続けていた。
 窓の外を、夜風がそっと通り過ぎていく音がした。予選の日は、こうして幕を閉じようとしていた。しかし隼人にとって、それは終わりではなく、新しい戦いへの確かな始まりの日でもあった。
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天窓の魚作者:森本 凛
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