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⑲ 悩める雪村

 それは、ボクが中学二年生になって、すぐのころの話である。その日の夕食後、ボクは自分の部屋に戻り、英語の宿題に取り掛かっていた......はずだった。ふと気がつくと、ボクはシャーペンを握ったまま、ボンヤリしていた。

「あらあら、どうしたのかしら?」
 右隣に雪子さんが現れた。
 ボクは驚きもせずに「ああ、雪子さんか。久しぶり」と言っていた。

「......コレは重症ねえ。恋の病かな。さては、村田さんのことでも、考えていたのかしら?」
「違うよ。考えていたのは、酒井さんのことだよ」
「あらまあ、よくも悪びれもせずに、そんな事をシレっと言うわねえ」

「隣のクラスの酒井さんが、もうずっと学校に来てないんだよ」
「小学校四年生の時に、あんなに明確に好意を示してくれたのに......それに答えもしなかったあなたが、彼女の心配をするのね」
「......」
 黙ってしまうボク。

「まあでも事故とは言え、その後、杉浦さんと、熱い抱擁を交わしたり、大宮さんとは、ファーストキスまで済ましてしまったものねえ。告白できないのもムリないか」
「......」
 いよいよ何も言えない。今日の雪子さんは、何だかとってもイジワルだ。

「淡い恋心を密かに抱きながら、廊下で出会うたびに、おはよう、とか、こんにちは、とか言うのが楽しみだったのにねえ」
「イヤ、見てたんかい!」
「つっこみ、上手になったわねえ。ちょっと生意気な感じが、中二っぽくていいわあ」

 当時のボクは「大正テレビ寄席」という番組をよく観ていた。因みに第一次漫才ブームがやって来るのは、2年後のことである。

「......茶化さないでください。噂によると、酒井さん、病気らしいんですよ」
「そうね。まあまあ重い病気かな」
 雪子さんは真面目な顔に戻った。
「やっぱり知ってるんだ、雪子さん」
「......」

「誰かが、白血病なんじゃないかって、ウワサしてたんです」
「そうね。それで合っているわ」
「あんなに明るくて元気だったのに。こんなのひどいよ。あんまりだよ」
「......」

「ボクにできることがあるなら、何でもしてあげたい」
「......」
「なんでも、骨髄移植っていう治療法があるって、聞いたんだけど......」

「スマホも無いのによく調べたわね」
 "スマホ"が何なのかは、訊かないことにした。
「でも、あなたには無理」
「どうして?血液型のせいなの?」
「......そうね」

「ボクがAB型で彼女がO型だから?」
「それもあるけど、白血球型も合わないのよ」
「ああ......そうなんだ」
 ボクは落胆した。

「ねえ、雪子さんのチカラで、何とかできないの?」
「私がチカラを貸すのは、あなただけ......それが私が私に課したルールなの」
「もしも、それ以上のことをすれば、多方面に悪影響が出る」

「......でも、そこを、なんと。」
 ボクはもう半泣きだった。
「ごめんなさいね......だけど、心配しないで。時間はかかるかもしれないけど、彼女はきっと元気になる」

「そんな気休め、言わないでよ」
 拗ねるボク。
「この私が、あなたにウソを言うとでも?」
 雪子さんは優しく笑った。

「回復を信じて、気長に待ちなさい。そして、あなたは、自分のやるべきことに、集中しなさい」
 雪子さんはそれだけ言うと、またいつものように消えてしまったのだった。

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晴れときどき悪意ところにより超能力者(セーラー服と雪女 第一部 ①)作者:サナダムシオ
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⑲ 悩める雪村

 それは、ボクが中学二年生になって、すぐのころの話である。その日の夕食後、ボクは自分の部屋に戻り、英語の宿題に取り掛かっていた......はずだった。ふと気がつくと、ボクはシャーペンを握ったまま、ボンヤリしていた。

「あらあら、どうしたのかしら?」
 右隣に雪子さんが現れた。
 ボクは驚きもせずに「ああ、雪子さんか。久しぶり」と言っていた。

「......コレは重症ねえ。恋の病かな。さては、村田さんのことでも、考えていたのかしら?」
「違うよ。考えていたのは、酒井さんのことだよ」
「あらまあ、よくも悪びれもせずに、そんな事をシレっと言うわねえ」

「隣のクラスの酒井さんが、もうずっと学校に来てないんだよ」
「小学校四年生の時に、あんなに明確に好意を示してくれたのに......それに答えもしなかったあなたが、彼女の心配をするのね」
「......」
 黙ってしまうボク。

「まあでも事故とは言え、その後、杉浦さんと、熱い抱擁を交わしたり、大宮さんとは、ファーストキスまで済ましてしまったものねえ。告白できないのもムリないか」
「......」
 いよいよ何も言えない。今日の雪子さんは、何だかとってもイジワルだ。

「淡い恋心を密かに抱きながら、廊下で出会うたびに、おはよう、とか、こんにちは、とか言うのが楽しみだったのにねえ」
「イヤ、見てたんかい!」
「つっこみ、上手になったわねえ。ちょっと生意気な感じが、中二っぽくていいわあ」

 当時のボクは「大正テレビ寄席」という番組をよく観ていた。因みに第一次漫才ブームがやって来るのは、2年後のことである。

「......茶化さないでください。噂によると、酒井さん、病気らしいんですよ」
「そうね。まあまあ重い病気かな」
 雪子さんは真面目な顔に戻った。
「やっぱり知ってるんだ、雪子さん」
「......」

「誰かが、白血病なんじゃないかって、ウワサしてたんです」
「そうね。それで合っているわ」
「あんなに明るくて元気だったのに。こんなのひどいよ。あんまりだよ」
「......」

「ボクにできることがあるなら、何でもしてあげたい」
「......」
「なんでも、骨髄移植っていう治療法があるって、聞いたんだけど......」

「スマホも無いのによく調べたわね」
 "スマホ"が何なのかは、訊かないことにした。
「でも、あなたには無理」
「どうして?血液型のせいなの?」
「......そうね」

「ボクがAB型で彼女がO型だから?」
「それもあるけど、白血球型も合わないのよ」
「ああ......そうなんだ」
 ボクは落胆した。

「ねえ、雪子さんのチカラで、何とかできないの?」
「私がチカラを貸すのは、あなただけ......それが私が私に課したルールなの」
「もしも、それ以上のことをすれば、多方面に悪影響が出る」

「......でも、そこを、なんと。」
 ボクはもう半泣きだった。
「ごめんなさいね......だけど、心配しないで。時間はかかるかもしれないけど、彼女はきっと元気になる」

「そんな気休め、言わないでよ」
 拗ねるボク。
「この私が、あなたにウソを言うとでも?」
 雪子さんは優しく笑った。

「回復を信じて、気長に待ちなさい。そして、あなたは、自分のやるべきことに、集中しなさい」
 雪子さんはそれだけ言うと、またいつものように消えてしまったのだった。

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