ホーム›晴れときどき悪意ところにより超能力者(セーラー服と雪女 第一部 ①)›⑱ 村田さんとボク
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⑱ 村田さんとボク

 村田さんとは、小学校四年生以来だから、もう長い付き合いになる。
 中学生になってからも、ボクはほぼ毎週日曜日になると、何かと理由をつけては、自転車で彼女の自宅を訪問していたのだった。

 たまに、村田さんがウチに来ることもあった。
 しかし、ボクの部屋に村田さんが居ることが、どうにも落ち着かず、ボクがアチラに訪問することが多かったのだ。

 多分、ボクは心のどこかで、雪子さんと村田さんが、鉢合わせになることを恐れていたんだと思う。
 もしそうなってしまったら、妹たちの時のように、適当に誤魔化してしまうことは、まず無理であろう。 
 村田さんも、なかなかに鋭い観察眼を持った、聡明なお嬢さんなのである。
 ......それに、何となく、二人は会わせてはいけない気がするんだ。ただのカンだけど。

 そもそもボクが村田さんと仲良くなったきっかけは、村田さんから小説やマンガを借りることになったからだ。
 ウチにも本はあったけれども、夏目漱石や太宰治や芥川龍之介などの有名作家の代表作を、子供向けに全集仕立てにしたものだった。
 これらは、学校での勉強や受験対策には役に立ったけど、雪子さんの存在を、推理するような材料にはならなかった。

 もっとも、個人的には、漱石の「草枕」の冒頭の一節は好きだったんだけどね......。
「智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」......コレは、人生の真理だよね。
 中学一年生の時点で、ボクはもう、この考えに大いに賛同できる心境になっていたのだった。

 村田さんが貸してくれてるモノからも明らかなように、彼女は、不思議な物事に、とても興味を抱いた、
 夢見る少女でもあったんだ。そしてそれらの本は、雪子さんの正体について考察するために、いかにも、役に立ちそうだったのだ。

 それから他にも、星座占いや血液型占いなど、彼女はボクに、いろいろな事を教えてくれたんだ。
 学校の成績は、ボクの方がよかったけど、彼女の方が独創的で、柔軟な発想力を持っていた。
 だからボクは、彼女から、大いに影響を受けていった。

 そんなある日、いつものよう、にボクは村田宅を訪問した。
 そして、彼女に新しくお勧めされた、三原順先生の「はみだしっ子」を読みながら、暫くまったりしていた。
 すると、アールグレイを飲みながら、彼女がこんな話をし始めた。

「ねえ、真田くん」
「うん、なに?」
 お茶受けのクッキーをつまむボク。
「"胡蝶の夢"っていう話を知ってる?」
「いや、知らないなあ。どんな話なの?」

「昔、中国の思想家に荘子っていう人が居てね」
「うん、うん」
 クッキーをモグモグ。
「その人がある時、寝ていたら、自分が蝶になった夢を見たんですって」

「うん、それで?」
 クッキーに伸びる手を止めたボク。
「目が覚めた時に、解らなくなったんですって」
「何が?」

「人間の自分が蝶の夢を見ていたのか。蝶の見ている夢が人間の自分なのか。いったい本当の自分がどちらなのか」
 なんと今から48年前に、彼女は映画"マトリックス"のテーマにたどり着いていたのである。

「他にもこんな話があるわ」
「なになに?」
 もうボクは、彼女の話に夢中である。

「イギリスの物理学者の、シュレーディンガーっていう人の説なんだけど」
「ふんふん」
「物体は誰かに観測されない限り、その存在は確定されないんだって」

「え?どういう事?」
「誰にも見られていないモノは、そこに在るとは言えないって事なのよ」
「......へえ、そうなんだ」

 何だか、分かったような解らないような話である。
 そう言えば、雪子さんは、ボクの様子を見ることを"観測する"って言ってたな。

「それから、もう一つ」
「まだあるんだ」
「宇宙の姿を、遠くから観察するとね......」
「うん」
「ニンゲンの脳細胞を、顕微鏡で拡大して観た形にソックリなんですって」

「......それは不思議な偶然の一致だねえ」
「だから私たちのこの宇宙も、どこかの大きな人が、頭の中で考えた、想像の産物かも知れないって話なのよ」

「......なんだかコワイ話だねえ」
「そう?私はとても楽しい話だと思うけど」
 村田さんはそう言うと、愉快そうに笑った。
 笑うと目が無くなるなあ。と思うボク。

 村田さんは、どちらかというとスレンダーで、服装は...ワンピースが多いかな。 
 いまだにボクより少し背が高く、前下がりのボブカットの髪形で、肌は色白。眉は薄めで、目は切れ長。
 そして、いつでも笑っているように見える。

 実際、目の前で不機嫌になったり、怒ったりする姿を、ボクは見たことが無かった。
 そしていつもボクの意見に賛同して、応援してくれる。

 まあ、こういう不思議系の話の時は別だけど。
 コレは単純に、ボクの理解力が追い付かないだけの事だ。

 だから、けっこう長い付き合いなのに、正直、本当は彼女が何を考えているのか、読めないところがある。
 それに時々、どこか遠くを見つめるような、眼をしている事が有るんだ。
 そういう点では、どこか雪子さんに相通ずるようなイメージが有るのだった。挿絵AIで作った挿絵
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晴れときどき悪意ところにより超能力者(セーラー服と雪女 第一部 ①)作者:サナダムシオ
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⑱ 村田さんとボク

 村田さんとは、小学校四年生以来だから、もう長い付き合いになる。
 中学生になってからも、ボクはほぼ毎週日曜日になると、何かと理由をつけては、自転車で彼女の自宅を訪問していたのだった。

 たまに、村田さんがウチに来ることもあった。
 しかし、ボクの部屋に村田さんが居ることが、どうにも落ち着かず、ボクがアチラに訪問することが多かったのだ。

 多分、ボクは心のどこかで、雪子さんと村田さんが、鉢合わせになることを恐れていたんだと思う。
 もしそうなってしまったら、妹たちの時のように、適当に誤魔化してしまうことは、まず無理であろう。 
 村田さんも、なかなかに鋭い観察眼を持った、聡明なお嬢さんなのである。
 ......それに、何となく、二人は会わせてはいけない気がするんだ。ただのカンだけど。

 そもそもボクが村田さんと仲良くなったきっかけは、村田さんから小説やマンガを借りることになったからだ。
 ウチにも本はあったけれども、夏目漱石や太宰治や芥川龍之介などの有名作家の代表作を、子供向けに全集仕立てにしたものだった。
 これらは、学校での勉強や受験対策には役に立ったけど、雪子さんの存在を、推理するような材料にはならなかった。

 もっとも、個人的には、漱石の「草枕」の冒頭の一節は好きだったんだけどね......。
「智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」......コレは、人生の真理だよね。
 中学一年生の時点で、ボクはもう、この考えに大いに賛同できる心境になっていたのだった。

 村田さんが貸してくれてるモノからも明らかなように、彼女は、不思議な物事に、とても興味を抱いた、
 夢見る少女でもあったんだ。そしてそれらの本は、雪子さんの正体について考察するために、いかにも、役に立ちそうだったのだ。

 それから他にも、星座占いや血液型占いなど、彼女はボクに、いろいろな事を教えてくれたんだ。
 学校の成績は、ボクの方がよかったけど、彼女の方が独創的で、柔軟な発想力を持っていた。
 だからボクは、彼女から、大いに影響を受けていった。

 そんなある日、いつものよう、にボクは村田宅を訪問した。
 そして、彼女に新しくお勧めされた、三原順先生の「はみだしっ子」を読みながら、暫くまったりしていた。
 すると、アールグレイを飲みながら、彼女がこんな話をし始めた。

「ねえ、真田くん」
「うん、なに?」
 お茶受けのクッキーをつまむボク。
「"胡蝶の夢"っていう話を知ってる?」
「いや、知らないなあ。どんな話なの?」

「昔、中国の思想家に荘子っていう人が居てね」
「うん、うん」
 クッキーをモグモグ。
「その人がある時、寝ていたら、自分が蝶になった夢を見たんですって」

「うん、それで?」
 クッキーに伸びる手を止めたボク。
「目が覚めた時に、解らなくなったんですって」
「何が?」

「人間の自分が蝶の夢を見ていたのか。蝶の見ている夢が人間の自分なのか。いったい本当の自分がどちらなのか」
 なんと今から48年前に、彼女は映画"マトリックス"のテーマにたどり着いていたのである。

「他にもこんな話があるわ」
「なになに?」
 もうボクは、彼女の話に夢中である。

「イギリスの物理学者の、シュレーディンガーっていう人の説なんだけど」
「ふんふん」
「物体は誰かに観測されない限り、その存在は確定されないんだって」

「え?どういう事?」
「誰にも見られていないモノは、そこに在るとは言えないって事なのよ」
「......へえ、そうなんだ」

 何だか、分かったような解らないような話である。
 そう言えば、雪子さんは、ボクの様子を見ることを"観測する"って言ってたな。

「それから、もう一つ」
「まだあるんだ」
「宇宙の姿を、遠くから観察するとね......」
「うん」
「ニンゲンの脳細胞を、顕微鏡で拡大して観た形にソックリなんですって」

「......それは不思議な偶然の一致だねえ」
「だから私たちのこの宇宙も、どこかの大きな人が、頭の中で考えた、想像の産物かも知れないって話なのよ」

「......なんだかコワイ話だねえ」
「そう?私はとても楽しい話だと思うけど」
 村田さんはそう言うと、愉快そうに笑った。
 笑うと目が無くなるなあ。と思うボク。

 村田さんは、どちらかというとスレンダーで、服装は...ワンピースが多いかな。 
 いまだにボクより少し背が高く、前下がりのボブカットの髪形で、肌は色白。眉は薄めで、目は切れ長。
 そして、いつでも笑っているように見える。

 実際、目の前で不機嫌になったり、怒ったりする姿を、ボクは見たことが無かった。
 そしていつもボクの意見に賛同して、応援してくれる。

 まあ、こういう不思議系の話の時は別だけど。
 コレは単純に、ボクの理解力が追い付かないだけの事だ。

 だから、けっこう長い付き合いなのに、正直、本当は彼女が何を考えているのか、読めないところがある。
 それに時々、どこか遠くを見つめるような、眼をしている事が有るんだ。
 そういう点では、どこか雪子さんに相通ずるようなイメージが有るのだった。挿絵AIで作った挿絵
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晴れときどき悪意ところにより超能力者(セーラー服と雪女 第一部 ①)作者:サナダムシオ
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