㉔ ラブレター?
「そろそろアナタの妹がやって来るころだわ」
手すりから一歩下がる雪子さん。
「今日はこれぐらいにしておくわね......じゃあ、また、近いうちに、ね?」
小さく右手を振ると、雪子さんは消えてしまった。
屋上のエレベーターのドアが開くと、妹のカコが出てきた。
本名は真田香子。家族間の呼び名はカコ。
ボクの大きい方の妹だ。
読書家でインドア派。
今日の服装も青いTシャツにジーパンだ。
カコは小学生でありながら、すでに「男はオトコらしく、女はオンナらしく」という昭和の思想に、真っ向から対立する考えの持ち主だ。
その件がもとで、よく父さんとケンカになっていた。
だから、スカートはできるだけ穿きたがらない。
まさか40年後に、彼女の考え方が世界基準になろうとは、まだ誰も知らないことである。
そんなカコももうすぐ中学1年生だ。
中学校の制服は、どうするつもりなのだろうか。諦めてスカートを穿くのかな?
「お兄ちゃん、やっぱりこんなところに居た。お母さんが、お昼ごはんできたから、早く来なさいって!」
「あ、ああ、わかった。すぐ行くよ」
「なんかまた、コソコソして。雪子さんとでも会っていたのかな~?」
妹もボクに似てカンが鋭い。
「雪子さんて、書道塾の先輩なんだよね?」
そういうことになっているのか。
「ねえ、お兄ちゃん。雪子さんと村田さん、どっちが好きなの?」
ああ、妹としては、やっぱりソレを訊くんだ。
「......二人とも、そういうのとは違うから」
しどろもどろのボク。
「さあ、エレベーターに乗るぞ。乗らないなら置いて行くからな」
「また、そんなイジワルなこと言って、誤魔化してぇ」
妹はとてもワルイ顔になった。
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雪子は、監察局兼研究所に戻って来た。
監察局は、自らの行いの安全装置として。また、その他の事象の異常を監視するために。研究所は、自らの能力の更なる飛躍を目指して、それぞれ設立した。
相反する目的を持った二つの施設の、局長も所長も自分でやっている。この矛盾が解らない彼女でもない。だが今のところ、自分以上のチカラの持主に出逢わないし、他にいい選択肢も思いつかなかったから、仕方が無かったのだ。
自室の転送装置から出て来ると、彼女はふと、スカートの右のポケットに違和感を感じた。
「なにかしら?」
手を伸ばすと中から白い封筒が出てきた。
「雪村ったら、いつの間にこんなシャレたマネを覚えたのかしら?」
少しニヤけて、独り言をつぶやきながら、封筒から便箋を出して広げた。
文面は以下の通りだった。
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果たし状
親愛なる雪子さんへ
そろそろ決着をつけましょう
指定の時空は
雪村君の居る時間軸
1981年3月31日火曜日 午前2時
地点は
光陽高校 旧校舎解体現場
必ず来て
待っています
あなたの好敵手より
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それは墨を使った筆文字で、堂々と書かれていた。
「なんて素敵なラブレターなのかしら」
そう言うと雪子は、便箋を元通りに折り畳み、封筒にしまった。
「久しぶりにドキドキする。楽しみだわ」
封筒の端を唇に当て、頬を赤らめながら、不敵な笑顔で、雪子は一人呟くのだった。