㉓ 雪子の告白⑵
「私はね......」
雪子さんは続ける。
「......私が生まれてからすぐに死ななかった、可能性の未来からやって来たのよ」
「???」直ぐには理解不能なボク。
「それは、アナタが今居る時間軸とは別の時空」
「因みに、そこでは照和は70年まで続くのよ」
「アナタのところでは、64年でおしまい」
「......」
ボクにはちょっと難しかった。
「ニワカには、理解し難い話よね?......例えばね......」雪子さんは少し考える。
「アナタが名護屋から東京に行くとしたら、どういう手段を使う?」
「......そりゃ、新幹線に乗って行くかな。お金があれば、だけど」
ボクは、つい最近、修学旅行で行った時のことを思い出した。
「この際、費用やスピードのことは度外視していいわ」
「じゃあ、飛行機に乗ったり、船に乗ったり......かな」
「そうよね」
「交通手段を変えると、途中で見える景色も、きっと違うでしょうね......そして、その結果、たどり着くゴールも微妙に変化するのよ」
「......なるほど」なんだか解りかけてきたような。
「別の言い方をすると......アナタが今日まで歩んできた人生を、一つの線路とするでしょ」
「うん、うん」
「それとは別の線路が、アナタの線路の隣に、数限りなく並んで走っているのよ」
「......ボクの経験した人生とは別の、過去から未来へ続く道...?」
「そうよ!さすがは私の雪村!......その線路一つ一つを時間軸と呼んでいるの。つまり私は、アナタとは別の時空......別の時間軸からやって来たのよ」
ボクには細かいことはよく解らないが、雪子さんが何を伝えたいのかは解った気がした。
「それで、ボクのところにやって来た理由っていうのは......?」
「私はね...。」
雪子さんは、少し呼吸を溜めてからこう言った。
「......すべての並行宇宙の神なのよ」
「へっ......!?、イヤイヤイヤイヤ、そんなあ」
ボクはヘンな声を出してしまった。
「ウン、今のは言い過ぎだわ」
雪子さんも苦笑する。
「だって、ほら、昔、"兜甲児"が初めて、スーパーロボット"マジンガーZ"に乗る時に、おじいさんが言ってたじゃない?......"そのチカラを使えば、神にも悪魔にもなれる"って」
「......ああ、あれか」
「......本当は、神に等しいかもしれない力を手に入れた存在なのよ。私は、並行宇宙を旅する超能力者で、その能力を使いこなせる、天才物理学者でもあるのよ」
そんな"チートなキャラクター"があってたまるか!と、ボクは内心思った。
あれっ。"チートなキャラクター"って何だ?
「因みに、年齢は永遠の17才」
......そこは聞き流すことにした。
「もともとはね......」
雪子さんの話は続く。
「小学生のころから、困ったことがあると、少し前の過去に遡って、やり直すことができる程度だったんだけど......やがて高校生のころに、趣味で量子物理学の勉強してみたら、色々と発見する事があってね」
「......で、ナンヤカンヤあって、あらゆる並行世界に自由に行けるようになったって訳」
「ナンヤカンヤってなんですか。そこ、とても重要なところですよね?」
ボクはちょっと食い気味に尋ねる。
「そこは......まあ、企業秘密って言うか......ねえ?」雪子さんは目をそらす。
「ええ~?」
「ねえ、例えば仮に、アナタがタイムマシンを発明したとして、その作り方や使い方を、ホイホイ他の人に、話したりするかしら?」
「解りましたよ。雪子さんにとってボクは、その程度しか信用出来ない存在ってことですね?」
ボクは少しだけ、拗ねて見せた。
「まったく。雑な"ライトノベル"だって、もっとちゃんと説明するだろうに」
ブツブツつぶやくボクの言葉に、雪子さんはちょっと眉をひそめたようだった。
(この子、なんで"ライトノベル"なんて単語を知っているのかしら?)
「真面目な話......」
雪子さんが言う。
「何もかも教えることで、アナタに危険が及ぶのも嫌なのよ」
「へいへい。そういうことにしておきますか」
「......説明、続けるわよ」
「どうぞ」
「私は趣味で、ありとあらゆる並行世界を旅してみたのだけれど、どこの時間軸にも、必ず私の同位体は居たの」
「そうなんですね?」
「で、無数の私の同位体に私の精神体を憑依させて......そこから様々な知識や技術を吸収して、ますます私のチカラは高まっていったわ」
「そりゃあ......凄いですねえ」
「でも、たった一つの時間軸だけは、例外だったの......それが、雪村君、アナタが居るこの時間軸なのよ。つまり、"ここだけ"が、生まれて間もなく私が死んで、"私が居るべきポジションに、アナタが居るセカイ"なのよ」
「えっ......それって?」
「多分アナタは、あらゆる並行世界の"特異点"......だから私は、アナタの無事を見守ることにしたの」