ep.324 黄金のボーナスと、絶望の領収書
「戦え、戦うのです!もっと歯を食いしばって、絶望に顔を歪めるのです!」
モニターの中の咲姫は、身を乗り出して叫んだ。彼女の目的は、苦労するヒーローを特等席で鑑賞すること。だが、瓦礫の弁償代に怯えて縮こまる新人の動きは、彼女の美学には「地味」すぎた。
「フックが弱いのです...。そうだ!猫二ちゃん、あれを出すのです!『期間限定・決定的瞬間ボーナス』なのです!」
猫二が怪獣の腕に揺られながら、震える手で黄金のボタンを押す。
『一撃支給:100,000エトス』
新人の目の前に、ホログラムで輝かしい数字が躍った。
「えっ、じゅう...十万エトス!?倒すだけで貰えるんですか!?」
「にゃうにゃ!ただし、咲姫が『今のは最高にかっこよかった!』と認めた一撃に限るのです!その代わり、失敗したり無様に転んだら時給を500エトスまで削るのです!」
「十万...。それだけあれば、温かい具入りのお粥が何杯食べられるか...!」新人の瞳に、かつて時給55,000エトスだった頃の傲慢な光が少しだけ戻る。しかし、その隣に立つ騎士は、冷徹に現実を突きつけた。
「浮かれるな、新人。十万エトスの餌で、お前はより深い沼に引きずり込まれる。...見ろ、あいつらの目を」
騎士が指差す先、猫二に詰め寄っていた怪獣たちは、ボーナスの話を聞いてさらに殺気立っていた。自分たちの命に「懸賞金」をかけられた屈辱が、彼らの闘争本能に火をつける。
「俺たちの首が十万だと?舐めるな!猫二、指示は無視だ。あのアリを今すぐ踏み潰す!」
「待つニャ!非効率にやられるのが仕事だニャ!」
猫二の制止も虚しく、本気になった怪獣の拳が遺跡の柱を粉砕した。その瞬間、サヤの事務的な声が響く。
「...遺跡損壊、追加ペナルティ。備品破損につき、ボーナス予定額から『ささっと』500エトス天引きです。...ささっと」
「...え、500?さっきの5万よりはマシだけど...」
一瞬安堵した新人だったが、怪獣が暴れるたびに「パリン、パリン」と虚しく響く天引きの通知音が、じわじわと彼の精神を削っていく。10万エトスという「希望」が、細かい領収書の山に埋もれていく絶望。
咲姫はそれを見て、最高に幸せそうにポップコーンを口へ運んだ。
【進捗状況8/12】
咲姫:
10万エトスという「希望」をぶら下げて、新人が細かい損害賠償に一喜一憂する様子を優雅に鑑賞。
うさちぁん:
ボーナスが出た瞬間に「お祝い用・ぼったくりシャンパン」を新人に売りつけるため、レジ袋をガサガサさせて待機。
サヤ:
「ささっと」500エトスずつの天引きを自動化。塵も積もれば山となる絶望をシステム化する。
アリシア:
「さらっと」ボーナスの受け取り条件に「全治3ヶ月以上の重傷を負うこと」という極小の注釈を追加。
わんわん:
「さくっと」ボーナス欲しさに突っ込む新人が、派手に転ぶように「ちょうどいい高さの石」を配置。
果林:
「くいっと」10万エトスに踊らされる新人を見ながら、「酒の飲み方も知らない子供ね」と吐き捨てる。
猫二:
怪獣たちを必死に抑えながら、「ボーナス分は俺にキックバックするニャ!」と密かに画策。