ep.325 プロの社畜術と、見えない赤字
「パリン、パリン」と虚しく響く、500エトス天引きの通知音。
ボーナスの10万エトスを狙って大振りの攻撃を繰り出すたび、新人は遺跡の壁をかすめ、床を削り、着実に借金を積み上げていた。
「くそっ、当たらない!なんであんなに巨大なのに、一撃も入らないんだ!」
「...焦るな。お前は『10万』という数字に踊らされているだけだ」
騎士が静かに一歩踏み出す。襲いかかる怪獣の巨大な爪に対し、騎士は剣を振るうことすらしない。ただ紙一重で身をかわし、怪獣が自らの勢いで壁に激突するのを防ぐため、優しくその巨躯を誘導した。
「いいか、新人。俺たちの仕事は『怪獣を倒すこと』ではない。『咲姫様に面白い絵を見せつつ、この遺跡(資産)を守ること』だ」
騎士の動きには無駄がない。柱の影を利用して怪獣の視界を遮り、遺跡の修繕費が発生しない「安全なデッドスペース」へと敵を追い込んでいく。
「時給1,500エトスの俺から見れば、お前の1,000エトスは破格だ。...本来、基礎もできていないお前の市場価値は10エトスにも満たないはずだからな」「えっ...10エトス...?」 その言葉に、新人は一瞬動きを止めた。
モニター越しにその様子を見ていた咲姫が、焦ったようにポップコーンを口に詰め込む。
「にゃうにゃ!余計なことは言わなくていいのです!騎士、お前は黙って地味に戦うのです!」
咲姫の隣で、アリシアが「さらっと」端末の家計簿を更新していた。
『NUC本日収支:マイナス4,500,000エトス(※咲姫様の個人預金から補填完了)』
「咲姫様、そろそろ今月の『ヒーロー育成基金』が底をつきます。新人の時給1,000エトスを維持するために、昨日また小惑星を一個売却しました。...さらっと」
「いいのです!ヒーローが『自分は価値がある』と思い込んで戦う姿が、一番のサプリメントなのです!」
そうとは知らず、新人は「10エトスなんて嘘だ!僕は1,000エトスの価値がある男なんだ!」と、さらに気合を入れて怪獣に立ち向かっていく。
【進捗状況9/12】
咲姫:
自分が赤字を垂れ流している事実を隠し、必死に「冷酷な支配者」を演じる。でも実は財布が寂しくて、こっそり夕飯のグレードを下げている。
うさちぁん:
咲姫の財布事情を察して、「特別割引(※通常価格の2倍)」で酒を売ってあげる優しさ(?)を見せる。
サヤ:
「ささっと」新人の戦闘ログを解析し、彼が壊した物のリストを咲姫の請求書から外すための隠蔽工作(愛)を行う。
アリシア:
「さらっと」ギルドの資産表を偽造。新人が「自分は黒字を出している」と錯覚するように調整。
わんわん:
「さくっと」遺跡の地下に、咲姫が売るための金鉱脈を掘り当てるべく、戦闘の騒ぎに乗じて採掘中。
果林:
「くいっと」咲姫が売った小惑星の酒を安く買い叩き、「あの子、本当にお人好しね」と鼻で笑う。
猫二:
怪獣たちに「お前らの給料も咲姫様の持ち出しだニャ!少しは手加減するニャ!」と説教するが、全く聞き入れられない。