ep.216 風を止める布、心を守る壁
「鐘の音は最高だけど......やっぱり、お外は風が意地悪なのです!」 咲姫は、もやい結びで組んだ東屋の真ん中で、マントをミノムシのように巻きつけて震えていた。 かまどの裏のポカポカ部屋は温かいが、一歩出れば吹き抜ける草原の風。これでは「生きてる実感」がお昼寝中に逃げていってしまう。
そこへ、伝説の鐘の音に引き寄せられた「二人目の足音」がやってきたのです。
「......うるせえ鐘だ。だが、この響き......布の繊維を一本ずつ震わせやがる。これなら俺の『作品』を乾かすのにちょうどいい」
現れたのは、色とりどりの布切れをパッチワークのように繋ぎ合わせた、奇妙なコートを着た痩せ型の男。背中には、自分の背丈ほどもある巨大な布のロールを何本も背負っている。
「布職人のテトだ。......おい、嬢ちゃん。そんなマント一枚で、この丘の夜を越せると思ってんのか?」
「思ってないのです! だから今、震えながら考えてたところなのです!」 咲姫の威勢のいい返事に、テトは呆れたように笑い、背中のロールを一つ地面に叩きつけた。
テトが取り出したのは、厚手で丈夫な帆布(キャンバス)。彼はミナが結んだ「もやい結び」の柱を吟味すると、巨大なハサミで布を裁断し、慣れた手つきで柱の間に「壁」を作っていく。
「これは......ただの布じゃないわね。油が塗り込まれているの?」 ミナが布に触れて驚く。 「ああ。風を通さず、雨を弾く。それでいて、中の熱は逃がさない。災害地じゃ、これが『家』の代わりになるんだ」
テトが布を張り終えると、それまで暴れていた風がピタリと止まり、東屋の中が急に「密室の安心感」に包まれた。 さらに、テトは余った端切れで、ポカポカ部屋の入り口に厚手の「暖簾(のれん)」を吊るした。
「すごいのです! スースーが消えて、お部屋が『お家』になったのです!」 咲姫はさっそく、布で仕切られた空間に座り込み、ふーっと息を吐いた。
「いいか、嬢ちゃん。食い物があるだけじゃ、人は『動物』と同じだ。だが、自分だけの壁(プライバシー)があって、初めて人は『人間』に戻れるんだよ」
テトの言葉は、かつて避難所で段ボールの仕切り一枚に救われた人々の想いと重なる。 咲姫は、テトに温かいココアを差し出しながら、力強く頷いた。
「わかったのです、テトさん! エトスフェリア、次はみんなで着る『幸せの制服』も作ってほしいのです!」