ep.215 黄金の響き、空の彼方へ
一夜明け、咲姫はガラムの鼻先に拳を突き出して宣言したのです。
「ガラムさん! 鉄の鐘を作るのです! お腹の底まで『ご飯ですよー!』って届くような、とびきりの響きが必要なのです!」
「......ああん? いきなり何言ってんだ嬢ちゃん」
「エトスフェリアは、みんなのお家なのです。迷っている人がここを見つけられるように、最高に美味しそうな音で呼んであげるのが、この街の最初の仕事なのです!」
そう言って、咲姫は鼻をヒクヒクさせながら、鐘の「素材」を探して丘を駆け出した――。
「......鉄じゃ足りないのです。もっと、こう、お腹の底まで『ご飯ですよー!』って届くような、とびきりの響きが必要なのです!」
鐘の鋳造を前に、咲姫が鼻をヒクヒクさせながら丘の斜面を駆け出した。
「咲姫? そっちはまだ開拓してない崖......」
リオの制止も聞かず、咲姫はある一点で足を止めると、スコップを突き立てた。
「ここなのです! ここから、とっても美味しそうな、金属の匂いがするのです!」
ザクッ、と土を跳ね上げると、そこから眩いばかりの黄金色の輝きが溢れ出した。
「......なっ、おい、待て! それはオリハルコンの原石じゃねえか!?」
ガラムが目玉を飛び出させて叫ぶ。伝説の武具にしか使われないはずの神の金属が、咲姫の「ここ掘れわんわん」でいとも簡単に姿を現したのだ。
「これも入れるのです! あと、隣に埋まってるこの青いキラキラ(ローミスリル)も隠し味に入れるのです!」
「バカ言え! オリハルコンなんて硬すぎて鐘にならねえし、ミスリルだけじゃ音が軽すぎる! 伝説の無駄遣いも甚だしいぞ!」
ガラムは必死に食い下がったが、咲姫の「美味しい音へのこだわり」は止まらない。
「ダメなのです! 鉄に、オリハルコンの芯の強さと、魔法銅(ローミスリル)の透き通った響きを混ぜるのです。これぞ、エトスフェリア特製・三種盛り合金なのです!」
結局、ガラムは職人の意地をかけ、半泣きになりながら三つの金属を調合した。鉄で粘りを、オリハルコンで強度を、魔法銅で響きの余韻を......。
そうして完成した鐘は、夕陽を浴びて七色に輝く不思議な色合いをしていた。
「......できた。空前絶後の、とんでもねえ鐘だぞ、これは」
咲姫が誇らしげに鐘の紐を引く。
ドォォォォォン............キィィィィィィィン............。
重厚な地響きのような低音から、天に突き抜けるような高音へ。その響きは、空気を震わせるだけでなく、聴く者の心に「温かいスープの記憶」を直接流し込むような、不思議な力を持っていた。
「届いたのです! 今、世界が『お腹空いた』って言った気がするのです!」
その神々しい音色に誘われるように。 草原の彼方で、ボロボロのマントを羽織った「二人目の来訪者」が、導かれるように丘へと歩き出したのでした。