ep.355 地獄のクランクイン、餡子の深淵
「本番、...にゃうにゃ、回るのです! アクションー!!」 咲姫の鋭い号令が、玉葱の香気漂う荒野に響き渡った。
カメラの先に立つのは、威厳に満ちた和装の巨躯、餡子熊王。彼は今、今作のクライマックスの一つ、「玉葱の荒野で孤独に耐える賢者」のシーンを演じている。
「...ふむ。風が、目に沁みるわ。だが、この痛みこそが、生者が地獄で払うべき対価よ...。ズズッ」 完璧な所作でインペリアル(水筒)を傾け、こしあんを啜る熊王。その表情は、催涙成分による激痛を微塵も感じさせない、静謐そのものだった。
「尊い...! 痛みを超越したその風格、まさに天国の使者なのです! ...ピジョンさん、もっと寄るのです! 彼の瞳に溜まった一滴の『餡子色の涙』を逃すななのですー!!」 「ひぎぃぃ! 低空すぎて、玉葱のガスで羽が黄色くなってきたのですー!!」 ピジョンが涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、墜落寸前の高度で旋回する。
その時、地面が激しく揺れた。 「がははは! 見つけたぞ! 玉葱の根っこの下に、ヴィンテージな気配がするぜぇ!!」 ドワーフのバッシュが、演出を無視して熊王の足元を猛烈な勢いで掘り返し始めたのだ。
「バ、バッシュさん、カットなのです! 今は熊王さんのシリアスなシーンなのです!」 咲姫が叫ぶが、バッシュのスコップは止まらない。ついに、地中から「シュポォォォン!」という景気のいい音と共に、怪しげな紫色の液体が入った瓶が飛び出した。
「あはは、見つかっちゃった? それ、私が100年前に隠した『玉葱の発酵毒酒』だよぉ~。一口飲めば、天国か地獄か選べるやつだねぇ~」 うさちぁんがどこからともなく現れ、その瓶を空中でキャッチした。
「...む。お嬢さん、その酒...この餡子に合うか?」 演技を中断した熊王が、静かにうさちぁんに問いかける。 「あはは、おじいちゃん。試してみる? ただし、一杯につき定価の300倍の『芸の極意』を頂くけどねぇ~」
「...いいだろう。撮影を続行しろ、監督。私は今、地獄の生者として、この毒酒を餡子で受けて立つ!」
「これなのですー!! 台本を超えた魂の衝突! 餡子と毒酒、そして玉葱! メイキングのカメラよ、この支離滅裂な奇跡をすべて飲み込むのですー!!」 咲姫は興奮してカメラを猫二から奪い取り、自ら玉葱の土埃の中にダイブした。
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【見の章:進捗状況 3/8】
咲姫(総監督):予期せぬトラブルをすべて「最高の演出」として取り込み、テンションが天元突破。
餡子熊王:うさちぁんの毒酒を「餡子」で迎え撃つという、文字通り命懸けの演技(実食)に挑む。
バッシュ:地中の酒を掘り当て、現場を物理的に崩壊させる。
ピジョン:催涙ガスで視界を失い、あわや熊王の頭上に墜落しかける。
うさちぁん:100年前の「ゴミ」を伝説の酒としてベテラン俳優に売りつけることに成功。
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次回、ep.356「メイキング本編:悲劇のハーフエルフ、玉葱ドレスの罠」