ep.229 嵐の前の「良い匂い」
王国の国境付近、広大な平原で訓練を行っていたのは、王国最強の重装歩兵部隊『鉄胃騎士団』でした。彼らはその名の通り、戦場でも揺るがない強靭な肉体と、何より「食」に対する異常な執着を持つことで知られていました。
「......団長! 北方の丘から、正体不明の飛来物を確認! 複数です、こちらへ直撃します!」
部下の叫びに、団長のバルトスは巨大な盾を構えました。 「何だと? あの不毛な丘から攻撃だと......。総員、防御姿勢! 魔法障壁を展開せよ!」
ヒュゥゥゥゥ......! ドォォォン!! 凄まじい風切り音と共に、地面に突き刺さったのは、無骨な石のカプセル。しかし、爆発は起きません。代わりに、隙間から「ぷしゅぅ......」と心地よい炭酸の抜ける音と、抗いがたい肉の香りが溢れ出しました。
「な、なんだこの香りは......。死を覚悟した鼻腔が、歓喜に震えておるぞ?」
バルトスが慎重にカプセルをこじ開けると、そこには手紙が添えられていました。 『エトスフェリア特製・炭酸噴射ソーセージ。冷める前に食べて、うさちぁんに感謝するのです! 咲姫より』
「うさちぁん......? 感謝......?」 困惑しながらも、バルトスは我慢できずにその太いソーセージを一口齧りました。 パリッ! という完璧な皮の弾ける音。中から溢れ出すのは、ネギの香りを纏った濃厚な肉汁。そして付け合わせのポテチが、炭酸の刺激で高ぶった舌を優しく、かつ刺激的に包み込みます。
「......う、美味すぎる。これは......兵器だ。我ら騎士の闘争心を根こそぎ奪い去る、禁断の兵器だぞ!」
バルトスは震える手で、空の彼方にそびえる「湯気を上げる丘」を見上げました。 「全軍、演習中止! ターゲットをあの丘に変更する。......ただし、剣は鞘に収めろ。我々は、最高の『お代わり』を求めて進軍するのだ!」
その頃、丘の上では咲姫が、さらに巨大なカプセルを炭酸ブースターに装填していました。 「うさちぁん! もっと遠くまで飛ばすのです! 世界中のみんなを、お腹いっぱいで動けなくしてあげるのです!」