ep.262 ペンギン監査官と、禁断の「隠し味」
月面ラーメン屋『かぐや庵』の厨房。そこには、湯気の向こう側で火花を散らす、あまりに温度差の激しい二人の姿がありました。
「......うさちぁん様。今、麺の茹で時間が3.5秒超過しました。小麦のアルファ化率が計算値から逸脱しています。廃棄しなさい」 フフン、と鼻を鳴らし、テラがハイミスリル製の事務ボードを突きつけます。ペンギン特有の短い翼で器用にペンを走らせる姿は愛らしいはずなのに、その瞳は一切笑っていません。
「えぇ~、そんなの堅苦しいよぉ。麺がちょっと柔らかい方が、スープが染みて美味しいんだよぉ~♪ それより見て、この隠し味の純米大吟醸! これをひと振りすれば、全部解決だよぉぉ~!」 うさちぁんが、うさぎの耳を揺らしながら一升瓶を振りかざします。
「却下です。アルコールの揮発による風味の変化は、アンペリアで供給されている『標準的な水』の成分バランスを崩します。そもそも、その酒はインフラ管理費から捻出されたものではありませんね? ......横領、および食品衛生法違反として記録します」 「お、おうりょう!? ひどいよぉ、これは神様の特権だよぉ!」
【地の章の対立構造:効率 vs 無駄】
テラ(効率至上主義):
アンペリアで供給される「水」の1ミリリットル、エンペリアの転送エネルギーの0.1パーセントまで完璧に管理したい。
「美味しい」は数値化できるものであり、マニュアルこそが平和の礎だと信じている。
咲姫が作った「なんとなく」の仕組みを、徹底的に「仕様」に叩き直すのが快感。
うさちぁん(無駄至福主義):
「なんとなく」「だいたい」「楽しくなっちゃった」が魔法の源。
インフラを私物化してお酒を流したり、行列に勝手に酒盛りセットを差し入れたりする。
テラのことを「氷漬けのペンギンちゃん」と呼び、どうにかして「酔わせて」デレさせようと画策している。
【咲姫とリオの板挟み】
「あわわ......テラちゃん、そんなに怒っちゃダメなのです。うさちぁんの『無駄』がないと、私の魔法も味がしなくなっちゃうのです!」 「咲姫様、あなたは黙っていなさい。あなたの『閃き』を形にするために、どれだけのアンペリア・ラインが過負荷で悲鳴を上げていると思っているのですか。......リオ様、胃薬の在庫を三倍に増やしておきました。飲んでください」 「......ありがとう、テラさん。君が来てくれて、数字上の管理は完璧になったけど......心の平穏がどんどん遠ざかっていくよ......」