ホーム町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~第三十話 ピカピカゼリーと、暴発クッキー
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第三十話 ピカピカゼリーと、暴発クッキー

 霊峰ヴァルグヴェルドの深い山に佇む、大魔女モルガナの館。そこには人の言葉を解し、魔法を操る誇り高き『魔犬(クーシー)』たちが数百年の年月を共に暮らしていた。

 ある日、麓のベイスの町に住む、少年ノランと金の魔犬ブランが出会い、やがて故郷の町を守るため大魔女と契約を交わした少年レオンは、白銀の魔犬クゥとともに「町へ降りる魔犬たちの世話役」としての歩みを始める。

 宮廷で孤独を抱えていた第三王女エレアノーリエは、ノランやモルガナとの出会いを経て成長し、やがてノランと絆を結んでベイスの町の領主となり、人と魔犬が共に笑い合う「魔法都市」の礎を築いていく――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 白亜の壁ととんがり帽子のような屋根が連なる『ベイス=アルカ魔法学校』その整然とした校舎の一角にある図書室では、春のうららかな陽射しとは対照的な、重苦しい溜め息が漏れていた。


「...はぁ。駄目だ、全然アイデアがまとまらないよ」


 頭を抱えて唸っているのは、今年で入学三年目を迎えたアスタ=コードリアだ。領主ノランとエレアノーリエの息子である彼は、生真面目で面倒見が良い性格ゆえに、常に苦労をしょい込みがちだった。


「焦る必要はないよ、アスタ。提出期限までまだ半年以上ある。既存の魔導回路における魔力伝達効率の比較検証なら、僕の集めた文献資料を使ってもらっても構わないけれど?」


 隣で静かに羊皮紙の束をめくっているのは、アスタの従弟であり、ミルカの息子であるオルタだ。彼は人見知りではあるものの、知識の吸収力においては学年でも頭一つ抜けている。


「ありがとう、オルタ。でも、やっぱり自分オリジナルの研究軸を見つけないと意味がないからさ...。今年の三年次課題は『卒業後の実務に繋がる実践的研究』がテーマだろう? 単なる理論のまとめじゃ評価されないし...」


 アスタが机に突っ伏して眉をひそめていると、その足元からパチパチと小さな静電気が弾ける音が響いた。


「わふん」
『アスタなら大丈夫さ』

「あはは、シオン、慰めてくれてありがとう。スミレも心配かけてごめんね」

 アスタの足元に寄り添う灰紫の毛並みの魔犬シオンと、オルタの傍らで丸くなっているオルタの友犬スミレが、気遣わしげに鼻先をすり寄せてくる。

 二人が頭を悩ませているこの「三年次研究課題」は、魔法学校での学びの集大成とも言える重要な提出物だ。これまでの成果を示し、将来どのような分野で力を発揮できるかを提示しなければならない。


「ふふ〜ん! 二人とも、そんなにしけた顔をしてどうしたのっ?」
 
 静かな図書室に、場違いなほど明るく弾んだ声が響き渡った。

 振り返ると、そこには両腕を腰に当て、胸を張って立っている少女の姿があった。アスタの1歳年下であり、オルタの双子の妹であるカノンだ。自由奔放で無鉄砲なおてんば娘の登場に、アスタは一瞬で嫌な予感を察知して身構えた。


「カノン...図書室では静かにって言われているだろ。それに、君だって三年目の課題提出が迫っているはずじゃ...」

「そんなの、もうとっくに完成してるわよ! ほらっ、これを見てごらんなさい!」


 カノンはドヤ顔で、ずっしりと厚みのある羊皮紙の束をテーブルの上に叩きつけた。
 表紙には、はっきりと力強い文字でこう記されている。

『研究題目:魔力接種の違い~ヒトと魔犬を比較して~』

 オルタが驚いたようにメガネの奥の目を丸くし、羊皮紙を手にとって目を通し始めた。


「...これは。食物経由での魔力摂取における、人と魔犬の生体反応および魔力効率の差異について...? カノン、これを本当に君一人で書いたのかい?」


「ふふん!ゼロ期生のルチア先生と一緒に研究したのよ! そして私の最高の相棒、タンポポのご協力のおかげね!」

「そう!オイラも頑張ったぞ!」

 カノンの隣で、黄色い毛並みを持つ小柄な魔犬タンポポが、誇らしげに胸を張って尻尾をちぎれんばかりに振った。

 カノンはタンポポとはまさに一心同体の親友だった。タンポポ自身もカノンの無鉄砲な実験や悪ノリが大好きで、いつもノリノリで協力している。


「ルチア先生と...? あの魔道具と魔力料理の研究に熱心な...」


 アスタの脳裏に、優しくお姉さんぶっているものの、一度研究に火がつくと周りが見えなくなる教員ルチアの姿が浮かんだ。


「ええ!ルチア先生がひそかに開発していた『超濃縮魔力食』をベースに、私たちが実地データを取って分析したの!ヒトと魔犬では体内の魔力循環経路が根本的に違うでしょう?それを生のデータで証明する、超・画期的な論文なんだから!」

「...なるほど。理論の構成も筋が通っているし、何より魔犬の瞬時の鳴き声や反応を正しく言語化してデータ化できるカノンにぴったりの内容だ。ミナ主任先生に見せても、きっと『理論的かつ実用的』として一発で承認されると思うよ」


 オルタが感心したように頷くと、カノンは調子に乗ってさらに胸を張った。


「でしょう! ミナ先生だって『素晴らしい着眼点です』って褒めてくれたんだから! でもね...実は、論文の理論は完璧なんだけど、『一歩進んだ魔力量接種』の大規模な実証実験データが足りないのよね〜」


 カノンはちらりと、ニヤニヤしながらアスタとオルタを見つめた。

 アスタは冷や汗をダラダラと流しながら、ジリジリと後ずさりした。


「か、カノン...? その目は、一体何を考えているんだ...?」

――――――――――――――――――――――――――――――

 翌日の放課後。日差しが柔らかく差し込む第一演習室には、大勢の生徒と魔犬たちが集まっていた。


「みんな、集まってくれてありがとうっ! 今日の実験に協力してくれた人には、私の論文に『共同研究者』としてバッチリ名前を載せちゃうからね!」


 教壇の上でカノンが元気に拳を突き上げると、集まった生徒たちから「おおーっ!」と歓声が上がった。

 カノンの呼びかけに応じたのは、アスタやオルタはもちろんのこと、ミナ先生が担任を務めるクラスの生徒たち、そして学校の手伝いをしているサポート魔犬や、シオン、スミレたちであった。


「あらあら、たくさん集まってくれましたね〜! みなさん、ご協力感謝しますっ!」


 カノンの横で、白衣を着たルチア先生が嬉しそうに手を合わせた。その手元のワゴンには、厳重に蓋がされたふたつの大きな容器が載せられている。


「さて、本日の実験内容はとっても簡単です! 私が特製の魔導調理器具で作成した『超濃縮魔力ゼリー』と『超濃縮魔力クッキー』を美味しく食べていただくだけ! 食べた後の魔力感覚の変化を記録させていただきますね〜!」

「わーい、おやつだー!」

「ルチア先生の作るお菓子、美味しいから好きなんだよね!」


 生徒たちは無邪気に喜び、魔犬たちも「きゃんきゃん!」と尻尾を振って期待に目を輝かせた。


「はいっ! そっちの組の生徒さんと魔犬ちゃんたち...アスタお兄ちゃんたちもね!には『魔力ゼリー』!」

「こっちの組みの生徒さんと、シオンやスミレ、他の魔犬のみんなには『魔力クッキー』を配るよー!」


 カノンとタンポポが手際よくゼリーとクッキーを配っていく。

 アスタは手渡された小鉢のゼリーを見つめた。輝くエメラルドグリーンのゼリーは、見るからにプルプルとしていて美味しそうだ。


「...本当にただ食べるだけでいいんだよね? 妙な薬品とかは入っていないかい?」

「失礼ねお兄ちゃん! ルチア先生と厳選した高純度の魔力ハーブと、マナ蜂蜜を使った最高級の栄養食よ! さあ、召し上がれ!」


 アスタとオルタは意を決してゼリーを口に運んだ。

 口の中に広がる爽やかな甘みと、スッとするハーブの香り。生徒や魔犬たちも「美味しい!」「冷たくて最高!」と口々に絶賛する。焼き色のついたクッキーもサクサクといい音を立てて平らげていた。


「どうかしら? 何か体に変化は感じられますか〜?」


 ルチア先生が羊皮紙と羽ペンを構えて尋ねる。

 アスタは自分の手を見つめ、驚きに目を丸くした。


「...すごい。お腹の底から、体のすみずみまで温かい魔力が満ちてくる感覚がする...! 疲労が一気に吹き飛ぶようだ!」

「僕もだ...魔力回路が活性化して、頭が冴え渡るような感覚がある。実験は大成功じゃないか?」


 オルタも感心したように呟く。生徒たちも「力が湧いてくる!」「明日からの魔法実技、全部大成功しそう!」と大はしゃぎだ。


「やったわねルチア先生! ヒトも魔犬も、濃縮魔力の即時吸収効果が確認できたわ!」

「ええ、ええ! 素晴らしい成果ですわ、カノンちゃん!」


 二人は手を取り合って喜び、タンポポも「わふわふ!」と嬉しそうに足元を駆け回った。

 ――しかし。

 平和で感動的な実験の時間は、そこから二十分ほどが経過した頃に、突如として暗転した。


「...ねえ、アスタ。なんだか、君の顔がすごく...眩しいんだけど?」


 オルタがふと首をかしげながら、隣のアスタを指さした。


「え? 何を言ってるんだいオルタ、君だって――うわあああぁっ!?」


 アスタが叫び声を上げた。

 なんと、オルタの全身が、まるで祭りの夜の街灯のように『ピカピカ』と眩しいピンク色に発光し始めていたのだ!


「な、なんだこれは!? 体が...皮膚が光っている!?」

「オルタだけじゃない、アスタお兄ちゃんもだよ! ううん、お菓子を食べた生徒みんなが光ってる!」


 カノンの指摘通り、演習室にいた生徒たちの体が、次々と七色に発光し始めた。赤、青、黄色、緑、紫――まるでネオンサインのようにピカピカと眩しく点滅を繰り返している。


「ひええっ!? 消えない! 魔力を抑えようとしても、光が強く放出しちゃうよ!」

「眩しい! 自分の手を見るだけで目が眩むー!」


 生徒たちがパニックに陥る中、今度は魔犬たちの陣営から異変が起こった。


「くしゅんっ!」


 スミレが可愛らしく小さなくしゃみを一つした瞬間。

 ボッ!!!


「熱っ!? ひ、火の玉が飛んできた!?」


 スミレの鼻先から直径三十センチほどの火の玉が勢いよく飛び出し、演習室の壁を直撃した。幸いにも防御結界が張られていたため壁は無事だったが、焦げ跡が残る。


「ぶ、ぶくしゅっ!」


 今度はシオンがくしゃみをした。すると、鋭い風の刃が複数放たれ、教壇に置いてあった書類の山をズタズタに切り裂いて吹き飛ばした!


「ワンッ!...くしゅんっ!」

「きゅ〜ん...ぶくしゅっ!」


 他の魔犬たちも次々とくしゃみを連発し、そのたびに小さな雷撃、水弾、土石の礫などの魔法が部屋中で無差別に暴発し始めた!


「キャーッ! 魔法の暴発よ! みんな避けてー!」

「ピカピカ光って目が開けられないよ〜っ!」


 七色に光り輝く人間たちと、くしゃみのたびに魔法を巻き散らかす魔犬たち。演習室は一瞬にして混沌の渦へと叩き落とされたのだった。


「すごーいっ!! 見てルチア先生! ヒトの体は過剰に摂取した濃縮魔力を、代謝によって皮膚表面から光のエネルギーとして外部に放出してるわ!」

「それにそれに、ゼリーを食べた組のほうが反応がはやい!やっぱり取り込んだ魔力への反応は消化器官の働きが関わっているみたい!」


 パニックに陥る演習室の中で、カノンだけは目を輝かせてノートに猛スピードでペンを走らせていた。


「本当ですねカノンちゃん! 人間の皮膚細胞は魔力を生体光に変換する自己防衛機能があるのね!」

「そして魔犬ちゃんたちは...凄いわ!体内の魔力循環速度がヒトの数倍も早いために、処理しきれなかった過剰魔力が呼気と共に魔法としてそのまま溢れ出しているんだわ!これぞまさに『魔法暴発現象』の生体メカニズム! 歴史的大発見ですわ〜っ!」


 ルチア先生も興奮の面持ちで羽ペンを激しく走らせ、数値をメモしている。


「わふっ!カノン、あっちの生徒は青く光ってるよ!あの魔犬はくしゃみで氷が出た!」

「ありがとうタンポポ! 個体差による魔力属性の放出の違いね! しっかり記録するわ!」


 自分たちが引き起こした惨状を前に、この「研究チーム」の二人と一匹は、恐怖や反省どころか大興奮で観察を楽しんでいた。


「カノン...ルチア先生...! データを取る前に、僕たちを元に戻す方法を考えてくれよーっ!」


 全身を七色に発光させたアスタが、涙目で叫ぶ。


「大丈夫よお兄ちゃん! 体内魔力が全部代謝しきれば、あと半日くらいで光は消えるはずだから!」


「半日もこのままなのかい!?」


 オルタも絶望的な声を上げる。その横で、スミレが「くしゅんっ!」とくしゃみをし、小さな電撃がオルタの頭の毛を逆立てた。

 その時であった。

 ドガァァァァンッ!!!!

 演習室の重厚な木製扉が、爆風のような風圧と共に叩き開かれた。


「...一体、ここで何が起きているのですか...!?」


 入口に立っていたのは、魔法学校の主任教師・ミナであった。

 かつてゼロ期生として過酷な修行を乗り越え、生真面目で厳格な指導者となった彼女の顔は、今や般若も恐れをなして逃げ出すほどの凄まじい怒相に染まっている。

 ミナの視界に飛び込んできたのは、部屋中で七色にピカピカと眩しく発光する己の担当クラスの生徒たち。そして、廊下にまで溢れ出そうになりながら、くしゃみと共に火の玉や風の刃を暴発させている魔犬たちの姿だった。


「み、ミナ先生...! 助けてください、目が眩しくて...!」

「廊下に避難しようとしたら、魔犬ちゃんの雷が飛んできて...!」


 涙目になりながら光る生徒たちの訴えを聞き、ミナの額に青筋がバチバチと浮かび上がった。その視線が、部屋の隅で呑気に羊皮紙へメモを取っているルチアとカノン、そしてタンポポへと向けられる。


「ル・チ・ア・先・生? カ・ノ・ン?...そしてタンポポ?」

「ヒッ...!? ミ、ミナちゃん...あ、ううん、ミナ主任? これはその、非常に学術的価値の高い実証実験の最中でして...」


 ルチア先生が引きつった笑顔で後ずさりする。


「『学術的価値』...? 生徒全員を歩く街道灯のように光らせ、学校を破滅の危機に瀕させることが、あなたの言う学術ですかーーーっ!?」


 演習室全体が震動するほどの怒号が響き渡った。ミナの全身から、凄まじい風の魔力が渦を巻いて立ち上る。


「カノーーーン!! ルチアーーーッ!! 責任を取りなさーーーーい!!」


「キャーーーッ! ミナ先生が本気だわ! 逃げるわよルチア先生、タンポポ!」


「わ、私も教員として...ここは一旦退避しますわ〜っ!」


「わふーーーーんっ!逃げろ〜〜っ!」


 カノン、ルチア、タンポポの「二人と一匹」は、脱兎のごとく演習室の窓を破らんばかりの勢いで廊下へと飛び出した。


「逃がしませんよっ!!」


 ミナは脚部に風魔法を纏わせ、疾風のごとき速度で廊下を急加速。逃げる二人と一匹を猛烈な勢いで追撃し始めた。


「待ちなさい! 生徒たちを元に戻す解毒薬の調合手順を吐き出しなさいっ!」

「無理です〜! 時間が経つのを待つのが一番安全な解毒法なんです〜っ!」

「言い訳無用ーーーっ!」

「きゃー! でも観察データの回収が先でーす!」「ごめなさーい、ミナ〜っ!」


 ベイス=アルカ魔法学校の白亜の校舎内に、悲鳴と怒号、そしてカノンたちの逃走劇の足音がドタバタと響き渡る。校舎中を巻き込んだ決死の鬼ごっこが、ここに幕を開けたのであった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 夕暮れの茜色が、静まり返った実験室の窓から差し込んでいる。

 校舎の遠くの廊下からは、未だに「待ちなさーーーいっ!」「ごめんなさぁぁい!」というミナの怒号とルチアたちの悲鳴、そしてタンポポの賑やかな鳴き声がかすかに響いてきていた。


「...はあ。まったく、うちの妹と来たら...」


 夕闇が迫る室内で、アスタは深く深くため息をついた。

 部屋の灯りは点けていない。なぜなら、アスタとオルタの全身が、いまだに『ピカピカ』と色鮮やかな七色に発光し続けており、部屋全体を十分に照らし出しているからだ。

「...でも、怪我人が出なかったことだけは幸いだったね」


 オルタも眩しく体をピンク色に光らせながら、静かに髪の乱れを直した。その足元では、相棒のシオンとスミレが、未だに尻尾の先からパチパチと小さな電撃を暴発させながら、申し訳なさそうに身をすくめている。


「くぅ〜ん...」

「わふ...」

「いいんだよ、シオン、スミレ。君たちが悪いわけじゃないんだから」


 アスタは優しくシオンの頭を撫でてやった。手が光っているため、シオンの毛並みが怪しくライトアップされている。

 アスタはフラスコと薬草、そして調合器具を手際よく実験机の上に並べ始めた。


「アスタ? 何を始めるんだい?」


 オルタの問いかけに、アスタはフラスコをかざし、真剣そのものの眼差しで力強くつぶやいた。


「...オルタ、次の研究テーマが決まったよ」

「...へえ。どんなテーマだい?」

「『カノンの無鉄砲な性格を直す魔法薬の開発』さ」


 オルタは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにメガネの奥の目を和ませ、静かに頷いた。

「...ふ。それは素晴らしい研究題目だね。僕も全面的に協力するよ。彼女の暴走を止めるのは、僕たちの使命かもしれないからね」

「わんっ!賛成!僕たちも手伝うよ!」


 シオンとスミレも、尻尾からパチパチと火花を散らしながら、強く賛同するように鳴いた。


「よし、まずはこの発光現象を抑えるための中和剤から作ってみよう。濃縮魔力を分解するには、月光草の抽出液と...」


 七色にピカピカと眩しく輝く手で、真面目に薬草の調合を始めるアスタとオルタ。その様子を、尻尾をパチパチさせて応援する魔犬たち。

 窓の外の遠くの廊下からは、


『絶対に許しませんからねーーーっ!!』

『ひえええっ! ミナ先生、風魔法で加速するのは反則でーす!』

『ごめんなさい〜っ! ゼリーの改良版はあげるから許して〜っ!』


 という、ミナの雷のような怒号とカノンたちの悲鳴が、いつまでも夕空に響き渡っていた。

 人と魔犬が共に学び、成長していく魔法都市ベイス=アルカ。その象徴である魔法学校の日常は、今日も少し騒々しく、そしてどこまでも温かな活気に満ちあふれていたのであった。

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第三十一話 「魔犬の酒」と、農犬ギルドの奮闘
町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~作者:あづみ
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第三十話 ピカピカゼリーと、暴発クッキー

 霊峰ヴァルグヴェルドの深い山に佇む、大魔女モルガナの館。そこには人の言葉を解し、魔法を操る誇り高き『魔犬(クーシー)』たちが数百年の年月を共に暮らしていた。

 ある日、麓のベイスの町に住む、少年ノランと金の魔犬ブランが出会い、やがて故郷の町を守るため大魔女と契約を交わした少年レオンは、白銀の魔犬クゥとともに「町へ降りる魔犬たちの世話役」としての歩みを始める。

 宮廷で孤独を抱えていた第三王女エレアノーリエは、ノランやモルガナとの出会いを経て成長し、やがてノランと絆を結んでベイスの町の領主となり、人と魔犬が共に笑い合う「魔法都市」の礎を築いていく――。

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 白亜の壁ととんがり帽子のような屋根が連なる『ベイス=アルカ魔法学校』その整然とした校舎の一角にある図書室では、春のうららかな陽射しとは対照的な、重苦しい溜め息が漏れていた。


「...はぁ。駄目だ、全然アイデアがまとまらないよ」


 頭を抱えて唸っているのは、今年で入学三年目を迎えたアスタ=コードリアだ。領主ノランとエレアノーリエの息子である彼は、生真面目で面倒見が良い性格ゆえに、常に苦労をしょい込みがちだった。


「焦る必要はないよ、アスタ。提出期限までまだ半年以上ある。既存の魔導回路における魔力伝達効率の比較検証なら、僕の集めた文献資料を使ってもらっても構わないけれど?」


 隣で静かに羊皮紙の束をめくっているのは、アスタの従弟であり、ミルカの息子であるオルタだ。彼は人見知りではあるものの、知識の吸収力においては学年でも頭一つ抜けている。


「ありがとう、オルタ。でも、やっぱり自分オリジナルの研究軸を見つけないと意味がないからさ...。今年の三年次課題は『卒業後の実務に繋がる実践的研究』がテーマだろう? 単なる理論のまとめじゃ評価されないし...」


 アスタが机に突っ伏して眉をひそめていると、その足元からパチパチと小さな静電気が弾ける音が響いた。


「わふん」
『アスタなら大丈夫さ』

「あはは、シオン、慰めてくれてありがとう。スミレも心配かけてごめんね」

 アスタの足元に寄り添う灰紫の毛並みの魔犬シオンと、オルタの傍らで丸くなっているオルタの友犬スミレが、気遣わしげに鼻先をすり寄せてくる。

 二人が頭を悩ませているこの「三年次研究課題」は、魔法学校での学びの集大成とも言える重要な提出物だ。これまでの成果を示し、将来どのような分野で力を発揮できるかを提示しなければならない。


「ふふ〜ん! 二人とも、そんなにしけた顔をしてどうしたのっ?」
 
 静かな図書室に、場違いなほど明るく弾んだ声が響き渡った。

 振り返ると、そこには両腕を腰に当て、胸を張って立っている少女の姿があった。アスタの1歳年下であり、オルタの双子の妹であるカノンだ。自由奔放で無鉄砲なおてんば娘の登場に、アスタは一瞬で嫌な予感を察知して身構えた。


「カノン...図書室では静かにって言われているだろ。それに、君だって三年目の課題提出が迫っているはずじゃ...」

「そんなの、もうとっくに完成してるわよ! ほらっ、これを見てごらんなさい!」


 カノンはドヤ顔で、ずっしりと厚みのある羊皮紙の束をテーブルの上に叩きつけた。
 表紙には、はっきりと力強い文字でこう記されている。

『研究題目:魔力接種の違い~ヒトと魔犬を比較して~』

 オルタが驚いたようにメガネの奥の目を丸くし、羊皮紙を手にとって目を通し始めた。


「...これは。食物経由での魔力摂取における、人と魔犬の生体反応および魔力効率の差異について...? カノン、これを本当に君一人で書いたのかい?」


「ふふん!ゼロ期生のルチア先生と一緒に研究したのよ! そして私の最高の相棒、タンポポのご協力のおかげね!」

「そう!オイラも頑張ったぞ!」

 カノンの隣で、黄色い毛並みを持つ小柄な魔犬タンポポが、誇らしげに胸を張って尻尾をちぎれんばかりに振った。

 カノンはタンポポとはまさに一心同体の親友だった。タンポポ自身もカノンの無鉄砲な実験や悪ノリが大好きで、いつもノリノリで協力している。


「ルチア先生と...? あの魔道具と魔力料理の研究に熱心な...」


 アスタの脳裏に、優しくお姉さんぶっているものの、一度研究に火がつくと周りが見えなくなる教員ルチアの姿が浮かんだ。


「ええ!ルチア先生がひそかに開発していた『超濃縮魔力食』をベースに、私たちが実地データを取って分析したの!ヒトと魔犬では体内の魔力循環経路が根本的に違うでしょう?それを生のデータで証明する、超・画期的な論文なんだから!」

「...なるほど。理論の構成も筋が通っているし、何より魔犬の瞬時の鳴き声や反応を正しく言語化してデータ化できるカノンにぴったりの内容だ。ミナ主任先生に見せても、きっと『理論的かつ実用的』として一発で承認されると思うよ」


 オルタが感心したように頷くと、カノンは調子に乗ってさらに胸を張った。


「でしょう! ミナ先生だって『素晴らしい着眼点です』って褒めてくれたんだから! でもね...実は、論文の理論は完璧なんだけど、『一歩進んだ魔力量接種』の大規模な実証実験データが足りないのよね〜」


 カノンはちらりと、ニヤニヤしながらアスタとオルタを見つめた。

 アスタは冷や汗をダラダラと流しながら、ジリジリと後ずさりした。


「か、カノン...? その目は、一体何を考えているんだ...?」

――――――――――――――――――――――――――――――

 翌日の放課後。日差しが柔らかく差し込む第一演習室には、大勢の生徒と魔犬たちが集まっていた。


「みんな、集まってくれてありがとうっ! 今日の実験に協力してくれた人には、私の論文に『共同研究者』としてバッチリ名前を載せちゃうからね!」


 教壇の上でカノンが元気に拳を突き上げると、集まった生徒たちから「おおーっ!」と歓声が上がった。

 カノンの呼びかけに応じたのは、アスタやオルタはもちろんのこと、ミナ先生が担任を務めるクラスの生徒たち、そして学校の手伝いをしているサポート魔犬や、シオン、スミレたちであった。


「あらあら、たくさん集まってくれましたね〜! みなさん、ご協力感謝しますっ!」


 カノンの横で、白衣を着たルチア先生が嬉しそうに手を合わせた。その手元のワゴンには、厳重に蓋がされたふたつの大きな容器が載せられている。


「さて、本日の実験内容はとっても簡単です! 私が特製の魔導調理器具で作成した『超濃縮魔力ゼリー』と『超濃縮魔力クッキー』を美味しく食べていただくだけ! 食べた後の魔力感覚の変化を記録させていただきますね〜!」

「わーい、おやつだー!」

「ルチア先生の作るお菓子、美味しいから好きなんだよね!」


 生徒たちは無邪気に喜び、魔犬たちも「きゃんきゃん!」と尻尾を振って期待に目を輝かせた。


「はいっ! そっちの組の生徒さんと魔犬ちゃんたち...アスタお兄ちゃんたちもね!には『魔力ゼリー』!」

「こっちの組みの生徒さんと、シオンやスミレ、他の魔犬のみんなには『魔力クッキー』を配るよー!」


 カノンとタンポポが手際よくゼリーとクッキーを配っていく。

 アスタは手渡された小鉢のゼリーを見つめた。輝くエメラルドグリーンのゼリーは、見るからにプルプルとしていて美味しそうだ。


「...本当にただ食べるだけでいいんだよね? 妙な薬品とかは入っていないかい?」

「失礼ねお兄ちゃん! ルチア先生と厳選した高純度の魔力ハーブと、マナ蜂蜜を使った最高級の栄養食よ! さあ、召し上がれ!」


 アスタとオルタは意を決してゼリーを口に運んだ。

 口の中に広がる爽やかな甘みと、スッとするハーブの香り。生徒や魔犬たちも「美味しい!」「冷たくて最高!」と口々に絶賛する。焼き色のついたクッキーもサクサクといい音を立てて平らげていた。


「どうかしら? 何か体に変化は感じられますか〜?」


 ルチア先生が羊皮紙と羽ペンを構えて尋ねる。

 アスタは自分の手を見つめ、驚きに目を丸くした。


「...すごい。お腹の底から、体のすみずみまで温かい魔力が満ちてくる感覚がする...! 疲労が一気に吹き飛ぶようだ!」

「僕もだ...魔力回路が活性化して、頭が冴え渡るような感覚がある。実験は大成功じゃないか?」


 オルタも感心したように呟く。生徒たちも「力が湧いてくる!」「明日からの魔法実技、全部大成功しそう!」と大はしゃぎだ。


「やったわねルチア先生! ヒトも魔犬も、濃縮魔力の即時吸収効果が確認できたわ!」

「ええ、ええ! 素晴らしい成果ですわ、カノンちゃん!」


 二人は手を取り合って喜び、タンポポも「わふわふ!」と嬉しそうに足元を駆け回った。

 ――しかし。

 平和で感動的な実験の時間は、そこから二十分ほどが経過した頃に、突如として暗転した。


「...ねえ、アスタ。なんだか、君の顔がすごく...眩しいんだけど?」


 オルタがふと首をかしげながら、隣のアスタを指さした。


「え? 何を言ってるんだいオルタ、君だって――うわあああぁっ!?」


 アスタが叫び声を上げた。

 なんと、オルタの全身が、まるで祭りの夜の街灯のように『ピカピカ』と眩しいピンク色に発光し始めていたのだ!


「な、なんだこれは!? 体が...皮膚が光っている!?」

「オルタだけじゃない、アスタお兄ちゃんもだよ! ううん、お菓子を食べた生徒みんなが光ってる!」


 カノンの指摘通り、演習室にいた生徒たちの体が、次々と七色に発光し始めた。赤、青、黄色、緑、紫――まるでネオンサインのようにピカピカと眩しく点滅を繰り返している。


「ひええっ!? 消えない! 魔力を抑えようとしても、光が強く放出しちゃうよ!」

「眩しい! 自分の手を見るだけで目が眩むー!」


 生徒たちがパニックに陥る中、今度は魔犬たちの陣営から異変が起こった。


「くしゅんっ!」


 スミレが可愛らしく小さなくしゃみを一つした瞬間。

 ボッ!!!


「熱っ!? ひ、火の玉が飛んできた!?」


 スミレの鼻先から直径三十センチほどの火の玉が勢いよく飛び出し、演習室の壁を直撃した。幸いにも防御結界が張られていたため壁は無事だったが、焦げ跡が残る。


「ぶ、ぶくしゅっ!」


 今度はシオンがくしゃみをした。すると、鋭い風の刃が複数放たれ、教壇に置いてあった書類の山をズタズタに切り裂いて吹き飛ばした!


「ワンッ!...くしゅんっ!」

「きゅ〜ん...ぶくしゅっ!」


 他の魔犬たちも次々とくしゃみを連発し、そのたびに小さな雷撃、水弾、土石の礫などの魔法が部屋中で無差別に暴発し始めた!


「キャーッ! 魔法の暴発よ! みんな避けてー!」

「ピカピカ光って目が開けられないよ〜っ!」


 七色に光り輝く人間たちと、くしゃみのたびに魔法を巻き散らかす魔犬たち。演習室は一瞬にして混沌の渦へと叩き落とされたのだった。


「すごーいっ!! 見てルチア先生! ヒトの体は過剰に摂取した濃縮魔力を、代謝によって皮膚表面から光のエネルギーとして外部に放出してるわ!」

「それにそれに、ゼリーを食べた組のほうが反応がはやい!やっぱり取り込んだ魔力への反応は消化器官の働きが関わっているみたい!」


 パニックに陥る演習室の中で、カノンだけは目を輝かせてノートに猛スピードでペンを走らせていた。


「本当ですねカノンちゃん! 人間の皮膚細胞は魔力を生体光に変換する自己防衛機能があるのね!」

「そして魔犬ちゃんたちは...凄いわ!体内の魔力循環速度がヒトの数倍も早いために、処理しきれなかった過剰魔力が呼気と共に魔法としてそのまま溢れ出しているんだわ!これぞまさに『魔法暴発現象』の生体メカニズム! 歴史的大発見ですわ〜っ!」


 ルチア先生も興奮の面持ちで羽ペンを激しく走らせ、数値をメモしている。


「わふっ!カノン、あっちの生徒は青く光ってるよ!あの魔犬はくしゃみで氷が出た!」

「ありがとうタンポポ! 個体差による魔力属性の放出の違いね! しっかり記録するわ!」


 自分たちが引き起こした惨状を前に、この「研究チーム」の二人と一匹は、恐怖や反省どころか大興奮で観察を楽しんでいた。


「カノン...ルチア先生...! データを取る前に、僕たちを元に戻す方法を考えてくれよーっ!」


 全身を七色に発光させたアスタが、涙目で叫ぶ。


「大丈夫よお兄ちゃん! 体内魔力が全部代謝しきれば、あと半日くらいで光は消えるはずだから!」


「半日もこのままなのかい!?」


 オルタも絶望的な声を上げる。その横で、スミレが「くしゅんっ!」とくしゃみをし、小さな電撃がオルタの頭の毛を逆立てた。

 その時であった。

 ドガァァァァンッ!!!!

 演習室の重厚な木製扉が、爆風のような風圧と共に叩き開かれた。


「...一体、ここで何が起きているのですか...!?」


 入口に立っていたのは、魔法学校の主任教師・ミナであった。

 かつてゼロ期生として過酷な修行を乗り越え、生真面目で厳格な指導者となった彼女の顔は、今や般若も恐れをなして逃げ出すほどの凄まじい怒相に染まっている。

 ミナの視界に飛び込んできたのは、部屋中で七色にピカピカと眩しく発光する己の担当クラスの生徒たち。そして、廊下にまで溢れ出そうになりながら、くしゃみと共に火の玉や風の刃を暴発させている魔犬たちの姿だった。


「み、ミナ先生...! 助けてください、目が眩しくて...!」

「廊下に避難しようとしたら、魔犬ちゃんの雷が飛んできて...!」


 涙目になりながら光る生徒たちの訴えを聞き、ミナの額に青筋がバチバチと浮かび上がった。その視線が、部屋の隅で呑気に羊皮紙へメモを取っているルチアとカノン、そしてタンポポへと向けられる。


「ル・チ・ア・先・生? カ・ノ・ン?...そしてタンポポ?」

「ヒッ...!? ミ、ミナちゃん...あ、ううん、ミナ主任? これはその、非常に学術的価値の高い実証実験の最中でして...」


 ルチア先生が引きつった笑顔で後ずさりする。


「『学術的価値』...? 生徒全員を歩く街道灯のように光らせ、学校を破滅の危機に瀕させることが、あなたの言う学術ですかーーーっ!?」


 演習室全体が震動するほどの怒号が響き渡った。ミナの全身から、凄まじい風の魔力が渦を巻いて立ち上る。


「カノーーーン!! ルチアーーーッ!! 責任を取りなさーーーーい!!」


「キャーーーッ! ミナ先生が本気だわ! 逃げるわよルチア先生、タンポポ!」


「わ、私も教員として...ここは一旦退避しますわ〜っ!」


「わふーーーーんっ!逃げろ〜〜っ!」


 カノン、ルチア、タンポポの「二人と一匹」は、脱兎のごとく演習室の窓を破らんばかりの勢いで廊下へと飛び出した。


「逃がしませんよっ!!」


 ミナは脚部に風魔法を纏わせ、疾風のごとき速度で廊下を急加速。逃げる二人と一匹を猛烈な勢いで追撃し始めた。


「待ちなさい! 生徒たちを元に戻す解毒薬の調合手順を吐き出しなさいっ!」

「無理です〜! 時間が経つのを待つのが一番安全な解毒法なんです〜っ!」

「言い訳無用ーーーっ!」

「きゃー! でも観察データの回収が先でーす!」「ごめなさーい、ミナ〜っ!」


 ベイス=アルカ魔法学校の白亜の校舎内に、悲鳴と怒号、そしてカノンたちの逃走劇の足音がドタバタと響き渡る。校舎中を巻き込んだ決死の鬼ごっこが、ここに幕を開けたのであった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 夕暮れの茜色が、静まり返った実験室の窓から差し込んでいる。

 校舎の遠くの廊下からは、未だに「待ちなさーーーいっ!」「ごめんなさぁぁい!」というミナの怒号とルチアたちの悲鳴、そしてタンポポの賑やかな鳴き声がかすかに響いてきていた。


「...はあ。まったく、うちの妹と来たら...」


 夕闇が迫る室内で、アスタは深く深くため息をついた。

 部屋の灯りは点けていない。なぜなら、アスタとオルタの全身が、いまだに『ピカピカ』と色鮮やかな七色に発光し続けており、部屋全体を十分に照らし出しているからだ。

「...でも、怪我人が出なかったことだけは幸いだったね」


 オルタも眩しく体をピンク色に光らせながら、静かに髪の乱れを直した。その足元では、相棒のシオンとスミレが、未だに尻尾の先からパチパチと小さな電撃を暴発させながら、申し訳なさそうに身をすくめている。


「くぅ〜ん...」

「わふ...」

「いいんだよ、シオン、スミレ。君たちが悪いわけじゃないんだから」


 アスタは優しくシオンの頭を撫でてやった。手が光っているため、シオンの毛並みが怪しくライトアップされている。

 アスタはフラスコと薬草、そして調合器具を手際よく実験机の上に並べ始めた。


「アスタ? 何を始めるんだい?」


 オルタの問いかけに、アスタはフラスコをかざし、真剣そのものの眼差しで力強くつぶやいた。


「...オルタ、次の研究テーマが決まったよ」

「...へえ。どんなテーマだい?」

「『カノンの無鉄砲な性格を直す魔法薬の開発』さ」


 オルタは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにメガネの奥の目を和ませ、静かに頷いた。

「...ふ。それは素晴らしい研究題目だね。僕も全面的に協力するよ。彼女の暴走を止めるのは、僕たちの使命かもしれないからね」

「わんっ!賛成!僕たちも手伝うよ!」


 シオンとスミレも、尻尾からパチパチと火花を散らしながら、強く賛同するように鳴いた。


「よし、まずはこの発光現象を抑えるための中和剤から作ってみよう。濃縮魔力を分解するには、月光草の抽出液と...」


 七色にピカピカと眩しく輝く手で、真面目に薬草の調合を始めるアスタとオルタ。その様子を、尻尾をパチパチさせて応援する魔犬たち。

 窓の外の遠くの廊下からは、


『絶対に許しませんからねーーーっ!!』

『ひえええっ! ミナ先生、風魔法で加速するのは反則でーす!』

『ごめんなさい〜っ! ゼリーの改良版はあげるから許して〜っ!』


 という、ミナの雷のような怒号とカノンたちの悲鳴が、いつまでも夕空に響き渡っていた。

 人と魔犬が共に学び、成長していく魔法都市ベイス=アルカ。その象徴である魔法学校の日常は、今日も少し騒々しく、そしてどこまでも温かな活気に満ちあふれていたのであった。

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町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~作者:あづみ
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