ホーム町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~第三十七話 受け継ぐ槌音と、若き背中
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第三十七話 受け継ぐ槌音と、若き背中

 霊峰ヴァルグヴェルドの深い山に佇む、大魔女モルガナの館。そこには人の言葉を解し、魔法を操る誇り高き『魔犬(クーシー)』たちが数百年の年月を共に暮らしていた。

 ある日、麓のベイスの町に住む、少年ノランと金の魔犬ブランが出会い、やがて故郷の町を守るため大魔女と契約を交わした少年レオンは、白銀の魔犬クゥとともに「町へ降りる魔犬たちの世話役」としての歩みを始める。

 宮廷で孤独を抱えていた第三王女エレアノーリエは、ノランやモルガナとの出会いを経て成長し、やがてノランと絆を結んでベイスの町の領主となり、人と魔犬が共に笑い合う「魔法都市」の礎を築いていく――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ベイスの町の職人通りに、今日も今日とて心地よい金属の音が響き渡る。カン、カン、という澄んだ音色は、人間と魔犬たちが手を取り合って築き上げてきたこの町の繁栄と平和の象徴だった。

 しかし、その中心で長年町を支え続けてきた者たちの歩みには、確実に歳月という名の重みが刻まれていた。

 灰銀色の大きな巨体――かつて微細振動の魔法と圧倒的な精度でベイスの工業を支えた大型魔犬「オヤカタ」は、工房の作業台の端にどっしりと腰を下ろし、ふぅと深い息を吐き出した。

 その隣では、かつて「町一番の頑固者」と恐れられた老鍛冶職人バルトが、白髪交じりのヒゲを揺らしながら使い込まれたハンマーをそっと置いた。


「...ふう、いよいよかねぇ。どうやらこの腕も、昔のようには機嫌を取ってくれなくなったらしい」


 バルトが自らの太い腕をさすりながら苦笑すると、オヤカタは「ワン...」と短く、どこか感慨深げに鳴いた。

 二人の関節は長年の激しい鍛冶仕事ですり減り、かつてのように重い大ハンマーを軽々と振るい、狂いのない寸分違わぬ打撃を何時間も続け続けることは、もはや難しくなっていた。

 思えば、二人の歩んできた道のりは長かった。

 もともと鍛冶の「か」の字も知らなかった魔犬たちが、見よう見真似で炉を暴走させ、爆風で顔も体も真っ黒な煤だらけになっていたあの頃。オヤカタは「硬い金属と対話する技術を学びたい」という一念で、バルトの工房の門を叩いたのだった。

 バルトに鍛冶の腕を認められてからというもの、さらなる業物を生み出そうと、一人と一匹は競うように鍛冶の技術を磨いた。さらに、職人への弟子入りを志願する魔犬や町魔犬がオヤカタを頼るようになり、「職犬ギルド」代表として数多の犬を工房へ送り出した。

 その結果、ベイスの職人通りは人間と犬とが技術を競い、融合させる活気溢れる場所へとなったのであった。


「あのときは、まさかお前が本当に『オヤカタ』と呼ばれる大看板になるとは思わなかったぜ」


 パイプの煙をくゆらせながら、バルトが懐かしそうに目を細める。

 オヤカタは大きく頷き、自分のぶ厚い前脚を見つめた。あの頃に比べれば毛並みに白いものが混じり、魔力の制御にもわずかな揺らぎが生じるようになった。しかし、その胸に一片の悔いもない。なぜなら、自分たちの背中を追いかけ、この町の未来を担うべき「次の世代」が、すでに十分に育っているからだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

 工房の隅では、筋骨隆々とした一人の職人と、一匹のちいさな成犬――町魔犬が息を合わせて鉄を叩く練習に励んでいた。

 バルトが熟考の末後を託したのは、不器用ながらも泥臭く食らいつき、長年バルトの背中を一番近くで見て技を盗んできた一人の人間の職人だった。その手つきには、かつてのバルトを彷彿とさせる確かな熱と誇りが宿っている。

 そして、オヤカタが後を継がせるのは、かつての自分と同じように――いや、それ以上に強い意志を持った一匹の町魔犬だった。

 オヤカタがかつて首根っこをつかんでスカウトし、町中の魔犬たちの才能を見極めて時計屋や仕立て屋など様々な工房へと送り出したあの頃、その小さな体ゆえに何度も鍛冶工房へ弟子入りを門前払いされ続けた子犬がいた。

 体は綿飴のように小さく、重い道具など到底持てない。誰もが「鍛冶や職人の世界には向かない」と言った。しかし、その町魔犬は諦めず、誰よりも勤勉に、誰よりも優秀に先輩たちの技を盗み、魔法の制御と知恵を磨き上げた。

 オヤカタは後を継がせる彼らの姿を眺め、温かく深い声で「ウオゥ」と鳴いた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 引退を決意したその日の午後、工房には町中の職人たちや、かつてオヤカタに救われた魔犬たちが集まっていた。

 オヤカタはゆっくりと立ち上がり、自分のトレードマークであった、ボロボロの大きな革のエプロンをそっと外した。長年、熱い炉の前で火の粉を浴び、無数の業物を共に生み出してきた誇り高き相棒である。

 オヤカタは、自分よりもずっと小さな身体をした後継ぎの町魔犬の前にそれを差し出した。

 そして、フッと鼻を鳴らして笑う。


「お前には、少しばかり大きいな」


 その言葉を聞いた瞬間、町魔犬は驚いたように目を丸くし、それから大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら、その大きな革布を前足でギュッと抱きしめた。

 それは、エプロンと共に重ねたオヤカタの時間ごと、後を託すという意味だった。


「オヤカタ...! ありがとうございます...! 絶対に、この工房とギルドのみんなを守ってみせます!」


 若い後継ぎは、エプロンを体にまとおうとしたが、やはりその小さな身体を覆ってしまうほど大きすぎた。

 それをみたオヤカタ、バルドその他の一同はドッと笑い、工房の空気はしんみりしたものから、新たな時代の到来への期待へと変わっていた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 数日後、バルトの工房の一番目立つ壁には、オヤカタが長年愛用した大きな革のエプロンが、職人たちの手で作られた特製の立派な額縁に収められて、大切に飾られることになった。

 その下のを通るたび、新しい世代の職人たち――人間も魔犬も――は、背筋をピンと伸ばし、仕事への誇りを新たにすることになる。

 そして、この日を境に、ベイスの町の職犬ギルドにおいて一つの新しい伝統が生まれた。

 職犬ギルドの代表を継ぐ犬」は、個人のもとの名前が何であれ、代々こう呼ばれるようになるのだ。


――「オヤカタ」と。


 新しくギルドの代表となった若き町魔犬の威勢の良い声が、ベイスの町の青空の下、新しく力強く響き渡る。

 工房の片隅では、引退した初代オヤカタが、相棒のバルトと共に温かな日差しを浴びながら目を細めていた。


「おい、オヤカタ。お前の名前...いや、役職か。すっかり定着したじゃねえか」


 バルトが煙管の煙をくゆらせながら、からかうように言う。

 オヤカタは誇らしげに鼻を鳴らし、自分たちの繋いできた絆がけっして途切れることなく、未来へとしっかりと根付いていくのを眺めていた。

 人間の長年培った熟練の技術と、魔犬たちの真摯な心と魔法。それらが織りなす温かな槌音は、これからもベイスの町に生きる人々の暮らしを優しく、力強く支え続けていくのだった。

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町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~作者:あづみ
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第三十七話 受け継ぐ槌音と、若き背中

 霊峰ヴァルグヴェルドの深い山に佇む、大魔女モルガナの館。そこには人の言葉を解し、魔法を操る誇り高き『魔犬(クーシー)』たちが数百年の年月を共に暮らしていた。

 ある日、麓のベイスの町に住む、少年ノランと金の魔犬ブランが出会い、やがて故郷の町を守るため大魔女と契約を交わした少年レオンは、白銀の魔犬クゥとともに「町へ降りる魔犬たちの世話役」としての歩みを始める。

 宮廷で孤独を抱えていた第三王女エレアノーリエは、ノランやモルガナとの出会いを経て成長し、やがてノランと絆を結んでベイスの町の領主となり、人と魔犬が共に笑い合う「魔法都市」の礎を築いていく――。

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 ベイスの町の職人通りに、今日も今日とて心地よい金属の音が響き渡る。カン、カン、という澄んだ音色は、人間と魔犬たちが手を取り合って築き上げてきたこの町の繁栄と平和の象徴だった。

 しかし、その中心で長年町を支え続けてきた者たちの歩みには、確実に歳月という名の重みが刻まれていた。

 灰銀色の大きな巨体――かつて微細振動の魔法と圧倒的な精度でベイスの工業を支えた大型魔犬「オヤカタ」は、工房の作業台の端にどっしりと腰を下ろし、ふぅと深い息を吐き出した。

 その隣では、かつて「町一番の頑固者」と恐れられた老鍛冶職人バルトが、白髪交じりのヒゲを揺らしながら使い込まれたハンマーをそっと置いた。


「...ふう、いよいよかねぇ。どうやらこの腕も、昔のようには機嫌を取ってくれなくなったらしい」


 バルトが自らの太い腕をさすりながら苦笑すると、オヤカタは「ワン...」と短く、どこか感慨深げに鳴いた。

 二人の関節は長年の激しい鍛冶仕事ですり減り、かつてのように重い大ハンマーを軽々と振るい、狂いのない寸分違わぬ打撃を何時間も続け続けることは、もはや難しくなっていた。

 思えば、二人の歩んできた道のりは長かった。

 もともと鍛冶の「か」の字も知らなかった魔犬たちが、見よう見真似で炉を暴走させ、爆風で顔も体も真っ黒な煤だらけになっていたあの頃。オヤカタは「硬い金属と対話する技術を学びたい」という一念で、バルトの工房の門を叩いたのだった。

 バルトに鍛冶の腕を認められてからというもの、さらなる業物を生み出そうと、一人と一匹は競うように鍛冶の技術を磨いた。さらに、職人への弟子入りを志願する魔犬や町魔犬がオヤカタを頼るようになり、「職犬ギルド」代表として数多の犬を工房へ送り出した。

 その結果、ベイスの職人通りは人間と犬とが技術を競い、融合させる活気溢れる場所へとなったのであった。


「あのときは、まさかお前が本当に『オヤカタ』と呼ばれる大看板になるとは思わなかったぜ」


 パイプの煙をくゆらせながら、バルトが懐かしそうに目を細める。

 オヤカタは大きく頷き、自分のぶ厚い前脚を見つめた。あの頃に比べれば毛並みに白いものが混じり、魔力の制御にもわずかな揺らぎが生じるようになった。しかし、その胸に一片の悔いもない。なぜなら、自分たちの背中を追いかけ、この町の未来を担うべき「次の世代」が、すでに十分に育っているからだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

 工房の隅では、筋骨隆々とした一人の職人と、一匹のちいさな成犬――町魔犬が息を合わせて鉄を叩く練習に励んでいた。

 バルトが熟考の末後を託したのは、不器用ながらも泥臭く食らいつき、長年バルトの背中を一番近くで見て技を盗んできた一人の人間の職人だった。その手つきには、かつてのバルトを彷彿とさせる確かな熱と誇りが宿っている。

 そして、オヤカタが後を継がせるのは、かつての自分と同じように――いや、それ以上に強い意志を持った一匹の町魔犬だった。

 オヤカタがかつて首根っこをつかんでスカウトし、町中の魔犬たちの才能を見極めて時計屋や仕立て屋など様々な工房へと送り出したあの頃、その小さな体ゆえに何度も鍛冶工房へ弟子入りを門前払いされ続けた子犬がいた。

 体は綿飴のように小さく、重い道具など到底持てない。誰もが「鍛冶や職人の世界には向かない」と言った。しかし、その町魔犬は諦めず、誰よりも勤勉に、誰よりも優秀に先輩たちの技を盗み、魔法の制御と知恵を磨き上げた。

 オヤカタは後を継がせる彼らの姿を眺め、温かく深い声で「ウオゥ」と鳴いた。

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 引退を決意したその日の午後、工房には町中の職人たちや、かつてオヤカタに救われた魔犬たちが集まっていた。

 オヤカタはゆっくりと立ち上がり、自分のトレードマークであった、ボロボロの大きな革のエプロンをそっと外した。長年、熱い炉の前で火の粉を浴び、無数の業物を共に生み出してきた誇り高き相棒である。

 オヤカタは、自分よりもずっと小さな身体をした後継ぎの町魔犬の前にそれを差し出した。

 そして、フッと鼻を鳴らして笑う。


「お前には、少しばかり大きいな」


 その言葉を聞いた瞬間、町魔犬は驚いたように目を丸くし、それから大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら、その大きな革布を前足でギュッと抱きしめた。

 それは、エプロンと共に重ねたオヤカタの時間ごと、後を託すという意味だった。


「オヤカタ...! ありがとうございます...! 絶対に、この工房とギルドのみんなを守ってみせます!」


 若い後継ぎは、エプロンを体にまとおうとしたが、やはりその小さな身体を覆ってしまうほど大きすぎた。

 それをみたオヤカタ、バルドその他の一同はドッと笑い、工房の空気はしんみりしたものから、新たな時代の到来への期待へと変わっていた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 数日後、バルトの工房の一番目立つ壁には、オヤカタが長年愛用した大きな革のエプロンが、職人たちの手で作られた特製の立派な額縁に収められて、大切に飾られることになった。

 その下のを通るたび、新しい世代の職人たち――人間も魔犬も――は、背筋をピンと伸ばし、仕事への誇りを新たにすることになる。

 そして、この日を境に、ベイスの町の職犬ギルドにおいて一つの新しい伝統が生まれた。

 職犬ギルドの代表を継ぐ犬」は、個人のもとの名前が何であれ、代々こう呼ばれるようになるのだ。


――「オヤカタ」と。


 新しくギルドの代表となった若き町魔犬の威勢の良い声が、ベイスの町の青空の下、新しく力強く響き渡る。

 工房の片隅では、引退した初代オヤカタが、相棒のバルトと共に温かな日差しを浴びながら目を細めていた。


「おい、オヤカタ。お前の名前...いや、役職か。すっかり定着したじゃねえか」


 バルトが煙管の煙をくゆらせながら、からかうように言う。

 オヤカタは誇らしげに鼻を鳴らし、自分たちの繋いできた絆がけっして途切れることなく、未来へとしっかりと根付いていくのを眺めていた。

 人間の長年培った熟練の技術と、魔犬たちの真摯な心と魔法。それらが織りなす温かな槌音は、これからもベイスの町に生きる人々の暮らしを優しく、力強く支え続けていくのだった。

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町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~作者:あづみ
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