ホーム町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~第三十四話 魔法学校と、褐色の光(前編)
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第三十四話 魔法学校と、褐色の光(前編)

 霊峰ヴァルグヴェルドの深い山に佇む、大魔女モルガナの館。そこには人の言葉を解し、魔法を操る誇り高き『魔犬(クーシー)』たちが数百年の年月を共に暮らしていた。

 ある日、麓のベイスの町に住む、少年ノランと金の魔犬ブランが出会い、やがて故郷の町を守るため大魔女と契約を交わした少年レオンは、白銀の魔犬クゥとともに「町へ降りる魔犬たちの世話役」としての歩みを始める。

 宮廷で孤独を抱えていた第三王女エレアノーリエは、ノランやモルガナとの出会いを経て成長し、やがてノランと絆を結んでベイスの町の領主となり、人と魔犬が共に笑い合う「魔法都市」の礎を築いていく――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 霊峰ヴァルグヴェルドの麓に広がるベイスの町は、いまやかつての小さな開拓地から、王国全土が注目する「魔法の中心地」へと劇的な変貌を遂げていた。その心臓部にそびえ立つベイス=アルカ魔法学校の評判は、もはや国内全土に完全に定着し、それに伴って国家規模の制度化と法整備が本格的に動き出していた。

 これまでの一年ごとの少数精鋭による選抜から、生徒の受け入れ規模は「一年ごとに300人」へと大幅に拡大されることになった。運営の持続可能性を考慮し、学費や寮費は原則として有料化されたものの、未来を担う若者たちの芽を摘まぬよう、絶妙な救済措置が講じられた。

 「国や領の公的職に就くこと」を厳格な条件と引き換えに、学費の全額免除と、寮生活による衣食住の完全な生活保障を行う「支援制度」が維持されたのである。これにより、経済的な背景に関わらず、真に才能と意志を持つ者たちが広く門を叩ける環境が整えられた。

 学内のシステムも、規模の拡大に合わせて大きく刷新された。日々の授業は、専門的な技術を教え込む「魔法指導」と、豊かな人間性を育む「教養指導」に分業化され、それぞれ経験豊富な卒業生たちが数十名体制で教壇に立っている。

 また、学校の日常には、人間と魔犬たちの関係性がもたらした心温まる風景が定着していた。かつて人間の生活や魔術を支える「サポート役」として共に歩んできた魔犬たちは、その厳密な役割から一歩離れ、今や学校の敷地内を自由気ままに遊び歩くようになっていた。

 講義の合間の廊下で生徒と日向ぼっこをしたり、中庭で一緒に駆け回ったりして友になるという、ベイス=アルカ魔法学校ならではの微笑ましい風習が自然発生的に根付いていったのである。

 そんな学校の躍進の只中、一つの大きな転機が訪れる。

 山上のモルガナの屋敷へ、学長であり愛弟子であるエレアノーリエが、学校の視察に訪れていた国王リアリシウスを連れてきたときのこと。厳かな空気が漂う書斎の中で、国王と大魔女が数十年越しに向かい合っていた。


「以前お会いしてから、25年ほどか、モルガナ殿」

「そうね、あなたは王の貫禄がでてきたものね」


 大魔女モルガナがからかうように微笑すると、国王リアリシウスは束の間緊張をとき、五十の齢に差し掛かり、白髪の増えてきた頭をかきながら参ったように答えた。


「やめてくれ、貴女様に比べれば私など赤子同然であろう。以前ここに来た私の度胸が、今では信じられないほどだ」

「あら、なかなかの良い目をしていたわよ?...未来を貫くようなその視線は、今も変わらずね。今日はどんな『我が儘』を持ってきたのかしら?」


 モルガナは、温かな紅茶を口に含み、続きを促す。リアリシウスは、エレアノーリエに一つ軽く頷くと、モルガナに向き合い背筋を正した。


「モルガナ殿、毎年輩出される首席の者たちに、直接手解きをしてやってはいただけないか」


 大魔女の眉がピクリと跳ねる。しかし、リアリシウスは構わず続けた。


「この魔法学校は、いまや間違いなく我が国に変革をもたらす要所となった。卒業生たちの足跡は必ずや魔法の未来を変えるであろう」

「その未来へ羽ばたく若者たちに、貴女様から、アイゼンハルトの伝説となり、ノランやエレアという希代の魔法使いを送り出した貴女様から魔法をご教授いただきたいのだ」


 リアリシウスは、「頼む」と深々と頭を下げた。

 国の最高権力者からの直々の、そしてあまりに真っ直ぐな頼みに対し、モルガナはしばし思案した。そして、静かに紅茶のカップを置く。


「いいわ。『等価交換』はとうに済んでいるものね。あのときの契約に従い、その願い受け入れましょう」


 リアリシウスはガバッと顔をあげ、エレアノーリエを見る。そして、国王と領主、二人そろって大魔女に頭を垂れたのだった。

 こうして、大魔女モルガナが学校の「名誉学長」に就任することが正式に決定する。

 この日から、各代の首席卒業生たちにとって、大魔女モルガナの元で過ごす一年間の過酷かつ至高の修行こそが、この魔法学校における最高峰の誉れ、そして何よりの試練となっていくのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 全土からの生徒受け入れが始まったその記念すべき年、新たな「支援制度」を利用して、遠く南の辺境伯地、ラインハルトの領地から一人の平民少女がベイスの地へとやってきた。

 少女の名は アイラ。

 彼女の容貌は、北方の者たちの目にはひときわ鮮烈に映った。まばゆいプラチナブロンドの髪と、遠き南の海を思わせる神秘的な琥珀色の目。そして何より、強い太陽と潮風にじっくりと焼かれた、健康的で美しい褐色の肌が、彼女の快活な気質を物語っていた。

 もともと、アイラは南の騎士団への入団を強く夢見ていた。剣を振るい、国を守る最前線に立ちたい。しかし、当時の騎士団における女性の枠は絶望的に少なく、その限られた門は「魔法が使えるなどの特別な才能」がないと叩けないという過酷な現実を突きつけられた。

 夢を諦めざるを得なかった彼女は、それでも戦いに身を置き、己の肉体を極めたいという一心で、15才の成人と同時に自ら冒険者としての荒々しい道を歩み始めていたのだ。

 転機が訪れたのは、数年後、いつものように冒険者ギルドへと足を運んだ日のことだった。


「おう!アイラ!!一杯ひっかけていくかい?」

「今日はやめとくわ、実入りがすくなかったもんでね」


 賑やかな酒場の喧騒から離れ、習慣になっている情報収集を始める。壁際に置かれた掲示板の前に立ったアイラは、そこに新しく貼り出された一枚の羊皮紙に目を留めた。

 ――『ベイス=アルカ魔法学校、全土からの支援制度生募集』

 その文字を見た瞬間、アイラの心臓が大きく跳ねた。食い入るように羊皮紙を見つめる彼女の中で、かつて心の奥底に押し殺したはずの熱い情熱が、激しく疼き出す。

 もう抑えきれない。衝動のままに、アイラは勢いよく羊皮紙を掲示板からビリッと剥ぎ取った。そのまま足音も荒くギルドのカウンターへと歩み寄ると、手にした羊皮紙をドンッと音を立てて木製の机に叩きつけた。


「行く!これだよ!!これだ!!私は魔法学校へ行く!」


 突然の叫びに、手続きをしていた職員が腰を抜かす勢いで目を丸くする。しかし、アイラの琥珀色の目は本気の色に燃えていた。その勢いに気圧されつつも職員に手続きを強行させ、後日行われた適正試験では、周囲が驚嘆するほどの見事な魔法の素養を示してみせた。

 こうして、身一つで夢への切符を掴み取ったアイラは、ベイス=アルカ魔法学校の門を叩くこととなったのである。

 晴れて魔法学校の一員となったアイラだったが、その学生生活は一般的な生徒の想像を遥かに超えたものだった。

 学校に入ってからは持ち前の熱心さと泥臭いガッツで机と実習場に向かい、魔法の才覚をぐんぐんと伸ばしていく。誰もがその頭角の早さに驚いたが、当の本人は別の焦燥感を抱えていた。


(こんな学生様の生活なんざ続けていたら、腕が鈍っちまうねーー)


 アイラは講義の合間を縫ってはコードリア領の冒険者ギルドにも足繁く通い、変わらず魔物狩りを続けるという、周囲が呆れるような奇特なダブルワークの学生生活を送っていた。

 そんな、昼間は魔法を学び、夜は森や荒野で魔物を狩るという異様な行動力と、ひときわ目を引く美しい褐色の肌は、やがて一頭の若き魔犬の強い興味を惹きつけることになる。

 ある日の中庭で、深い山から下りてきていた白銀の毛皮を持つ若魔犬が、アイラの前に姿を現し、その冒険に同行したいと申し出たのだ。


「お前、気に入ったぞ!!俺もその『ぼうけんしゃぎるど』に連れていけ!」

「――悪いがあたしは一人で狩るタイプでね、犬の世話なんざ必要ないんだわ」


 アイラは取り付く島もなく若魔犬を追い払おうとしたが、白銀の魔犬は負けじと鼻を鳴らした。そして、百聞は一見にしかずとばかりに、その場でアイラの足元ギリギリの場所に魔法の氷の刃を円を描くように発射した。


(腕試しってわけね、なめられるのは好きじゃないんだよね)


 アイラは腰に巻いていた冒険者稼業用のポーチから素早くナイフを取り出し、若魔犬に向かって疾走。背後にまわって首もとを狙い、ナイフを振り下ろした。

 このとき、アイラは魔犬を傷つけるつもりは毛頭なかった。寸前のところで刃を止め、反応できなかった魔犬に本物の冒険者としての格を見せつけようとしたのだった。

 しかし、その公算は強固な精霊魔法の結界によって砕かれる。魔犬は振り向きもせずにナイフの振り下ろされる箇所――手のひら程度の範囲に結界を張ったのだった。


バキンッーーーー


 驚いたアイラは力を入れる角度を誤り、ナイフは折れてしまった。それを呆然と見つめるアイラと、得意気に振り返る魔犬。勝負はあったのだ。

 ここまで見せられては、一人を好む気性のアイラも認めざるを得なかった。


「わかった。着いてくるのを認めよう」

「本当か?!やったぞ!...そうだな、そうしたらお前と俺は友だ!名前をくれないか?」


 同行を許された魔犬は、フンフンと鼻をならし尻尾を大きく振りながら名前をねだった。


「名前か...銀色ーーよし、『ギン』にしよう!」

「おい、ちょっと待て! いくらなんでも安直すぎやしないか!?」


 あまりの直球すぎるネーミングに、魔犬は思わず声を荒げて猛抗議した。しかし、アイラは豪快に笑い飛ばしてまったく取り合わない。結局、その強引さに押し切られる形で魔犬も名前を受け入れることとなった。

 ギンとアイラ、この一匹と一人は数々の魔獣、魔物を討伐し、冒険者タッグとして名を馳せていく。

 そしてもちろん、学園内で許可のない戦闘行為を行った彼らはミナ主任教授の長い説教を食らう羽目になったのであった。
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町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~作者:あづみ
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 霊峰ヴァルグヴェルドの深い山に佇む、大魔女モルガナの館。そこには人の言葉を解し、魔法を操る誇り高き『魔犬(クーシー)』たちが数百年の年月を共に暮らしていた。

 ある日、麓のベイスの町に住む、少年ノランと金の魔犬ブランが出会い、やがて故郷の町を守るため大魔女と契約を交わした少年レオンは、白銀の魔犬クゥとともに「町へ降りる魔犬たちの世話役」としての歩みを始める。

 宮廷で孤独を抱えていた第三王女エレアノーリエは、ノランやモルガナとの出会いを経て成長し、やがてノランと絆を結んでベイスの町の領主となり、人と魔犬が共に笑い合う「魔法都市」の礎を築いていく――。

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 霊峰ヴァルグヴェルドの麓に広がるベイスの町は、いまやかつての小さな開拓地から、王国全土が注目する「魔法の中心地」へと劇的な変貌を遂げていた。その心臓部にそびえ立つベイス=アルカ魔法学校の評判は、もはや国内全土に完全に定着し、それに伴って国家規模の制度化と法整備が本格的に動き出していた。

 これまでの一年ごとの少数精鋭による選抜から、生徒の受け入れ規模は「一年ごとに300人」へと大幅に拡大されることになった。運営の持続可能性を考慮し、学費や寮費は原則として有料化されたものの、未来を担う若者たちの芽を摘まぬよう、絶妙な救済措置が講じられた。

 「国や領の公的職に就くこと」を厳格な条件と引き換えに、学費の全額免除と、寮生活による衣食住の完全な生活保障を行う「支援制度」が維持されたのである。これにより、経済的な背景に関わらず、真に才能と意志を持つ者たちが広く門を叩ける環境が整えられた。

 学内のシステムも、規模の拡大に合わせて大きく刷新された。日々の授業は、専門的な技術を教え込む「魔法指導」と、豊かな人間性を育む「教養指導」に分業化され、それぞれ経験豊富な卒業生たちが数十名体制で教壇に立っている。

 また、学校の日常には、人間と魔犬たちの関係性がもたらした心温まる風景が定着していた。かつて人間の生活や魔術を支える「サポート役」として共に歩んできた魔犬たちは、その厳密な役割から一歩離れ、今や学校の敷地内を自由気ままに遊び歩くようになっていた。

 講義の合間の廊下で生徒と日向ぼっこをしたり、中庭で一緒に駆け回ったりして友になるという、ベイス=アルカ魔法学校ならではの微笑ましい風習が自然発生的に根付いていったのである。

 そんな学校の躍進の只中、一つの大きな転機が訪れる。

 山上のモルガナの屋敷へ、学長であり愛弟子であるエレアノーリエが、学校の視察に訪れていた国王リアリシウスを連れてきたときのこと。厳かな空気が漂う書斎の中で、国王と大魔女が数十年越しに向かい合っていた。


「以前お会いしてから、25年ほどか、モルガナ殿」

「そうね、あなたは王の貫禄がでてきたものね」


 大魔女モルガナがからかうように微笑すると、国王リアリシウスは束の間緊張をとき、五十の齢に差し掛かり、白髪の増えてきた頭をかきながら参ったように答えた。


「やめてくれ、貴女様に比べれば私など赤子同然であろう。以前ここに来た私の度胸が、今では信じられないほどだ」

「あら、なかなかの良い目をしていたわよ?...未来を貫くようなその視線は、今も変わらずね。今日はどんな『我が儘』を持ってきたのかしら?」


 モルガナは、温かな紅茶を口に含み、続きを促す。リアリシウスは、エレアノーリエに一つ軽く頷くと、モルガナに向き合い背筋を正した。


「モルガナ殿、毎年輩出される首席の者たちに、直接手解きをしてやってはいただけないか」


 大魔女の眉がピクリと跳ねる。しかし、リアリシウスは構わず続けた。


「この魔法学校は、いまや間違いなく我が国に変革をもたらす要所となった。卒業生たちの足跡は必ずや魔法の未来を変えるであろう」

「その未来へ羽ばたく若者たちに、貴女様から、アイゼンハルトの伝説となり、ノランやエレアという希代の魔法使いを送り出した貴女様から魔法をご教授いただきたいのだ」


 リアリシウスは、「頼む」と深々と頭を下げた。

 国の最高権力者からの直々の、そしてあまりに真っ直ぐな頼みに対し、モルガナはしばし思案した。そして、静かに紅茶のカップを置く。


「いいわ。『等価交換』はとうに済んでいるものね。あのときの契約に従い、その願い受け入れましょう」


 リアリシウスはガバッと顔をあげ、エレアノーリエを見る。そして、国王と領主、二人そろって大魔女に頭を垂れたのだった。

 こうして、大魔女モルガナが学校の「名誉学長」に就任することが正式に決定する。

 この日から、各代の首席卒業生たちにとって、大魔女モルガナの元で過ごす一年間の過酷かつ至高の修行こそが、この魔法学校における最高峰の誉れ、そして何よりの試練となっていくのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 全土からの生徒受け入れが始まったその記念すべき年、新たな「支援制度」を利用して、遠く南の辺境伯地、ラインハルトの領地から一人の平民少女がベイスの地へとやってきた。

 少女の名は アイラ。

 彼女の容貌は、北方の者たちの目にはひときわ鮮烈に映った。まばゆいプラチナブロンドの髪と、遠き南の海を思わせる神秘的な琥珀色の目。そして何より、強い太陽と潮風にじっくりと焼かれた、健康的で美しい褐色の肌が、彼女の快活な気質を物語っていた。

 もともと、アイラは南の騎士団への入団を強く夢見ていた。剣を振るい、国を守る最前線に立ちたい。しかし、当時の騎士団における女性の枠は絶望的に少なく、その限られた門は「魔法が使えるなどの特別な才能」がないと叩けないという過酷な現実を突きつけられた。

 夢を諦めざるを得なかった彼女は、それでも戦いに身を置き、己の肉体を極めたいという一心で、15才の成人と同時に自ら冒険者としての荒々しい道を歩み始めていたのだ。

 転機が訪れたのは、数年後、いつものように冒険者ギルドへと足を運んだ日のことだった。


「おう!アイラ!!一杯ひっかけていくかい?」

「今日はやめとくわ、実入りがすくなかったもんでね」


 賑やかな酒場の喧騒から離れ、習慣になっている情報収集を始める。壁際に置かれた掲示板の前に立ったアイラは、そこに新しく貼り出された一枚の羊皮紙に目を留めた。

 ――『ベイス=アルカ魔法学校、全土からの支援制度生募集』

 その文字を見た瞬間、アイラの心臓が大きく跳ねた。食い入るように羊皮紙を見つめる彼女の中で、かつて心の奥底に押し殺したはずの熱い情熱が、激しく疼き出す。

 もう抑えきれない。衝動のままに、アイラは勢いよく羊皮紙を掲示板からビリッと剥ぎ取った。そのまま足音も荒くギルドのカウンターへと歩み寄ると、手にした羊皮紙をドンッと音を立てて木製の机に叩きつけた。


「行く!これだよ!!これだ!!私は魔法学校へ行く!」


 突然の叫びに、手続きをしていた職員が腰を抜かす勢いで目を丸くする。しかし、アイラの琥珀色の目は本気の色に燃えていた。その勢いに気圧されつつも職員に手続きを強行させ、後日行われた適正試験では、周囲が驚嘆するほどの見事な魔法の素養を示してみせた。

 こうして、身一つで夢への切符を掴み取ったアイラは、ベイス=アルカ魔法学校の門を叩くこととなったのである。

 晴れて魔法学校の一員となったアイラだったが、その学生生活は一般的な生徒の想像を遥かに超えたものだった。

 学校に入ってからは持ち前の熱心さと泥臭いガッツで机と実習場に向かい、魔法の才覚をぐんぐんと伸ばしていく。誰もがその頭角の早さに驚いたが、当の本人は別の焦燥感を抱えていた。


(こんな学生様の生活なんざ続けていたら、腕が鈍っちまうねーー)


 アイラは講義の合間を縫ってはコードリア領の冒険者ギルドにも足繁く通い、変わらず魔物狩りを続けるという、周囲が呆れるような奇特なダブルワークの学生生活を送っていた。

 そんな、昼間は魔法を学び、夜は森や荒野で魔物を狩るという異様な行動力と、ひときわ目を引く美しい褐色の肌は、やがて一頭の若き魔犬の強い興味を惹きつけることになる。

 ある日の中庭で、深い山から下りてきていた白銀の毛皮を持つ若魔犬が、アイラの前に姿を現し、その冒険に同行したいと申し出たのだ。


「お前、気に入ったぞ!!俺もその『ぼうけんしゃぎるど』に連れていけ!」

「――悪いがあたしは一人で狩るタイプでね、犬の世話なんざ必要ないんだわ」


 アイラは取り付く島もなく若魔犬を追い払おうとしたが、白銀の魔犬は負けじと鼻を鳴らした。そして、百聞は一見にしかずとばかりに、その場でアイラの足元ギリギリの場所に魔法の氷の刃を円を描くように発射した。


(腕試しってわけね、なめられるのは好きじゃないんだよね)


 アイラは腰に巻いていた冒険者稼業用のポーチから素早くナイフを取り出し、若魔犬に向かって疾走。背後にまわって首もとを狙い、ナイフを振り下ろした。

 このとき、アイラは魔犬を傷つけるつもりは毛頭なかった。寸前のところで刃を止め、反応できなかった魔犬に本物の冒険者としての格を見せつけようとしたのだった。

 しかし、その公算は強固な精霊魔法の結界によって砕かれる。魔犬は振り向きもせずにナイフの振り下ろされる箇所――手のひら程度の範囲に結界を張ったのだった。


バキンッーーーー


 驚いたアイラは力を入れる角度を誤り、ナイフは折れてしまった。それを呆然と見つめるアイラと、得意気に振り返る魔犬。勝負はあったのだ。

 ここまで見せられては、一人を好む気性のアイラも認めざるを得なかった。


「わかった。着いてくるのを認めよう」

「本当か?!やったぞ!...そうだな、そうしたらお前と俺は友だ!名前をくれないか?」


 同行を許された魔犬は、フンフンと鼻をならし尻尾を大きく振りながら名前をねだった。


「名前か...銀色ーーよし、『ギン』にしよう!」

「おい、ちょっと待て! いくらなんでも安直すぎやしないか!?」


 あまりの直球すぎるネーミングに、魔犬は思わず声を荒げて猛抗議した。しかし、アイラは豪快に笑い飛ばしてまったく取り合わない。結局、その強引さに押し切られる形で魔犬も名前を受け入れることとなった。

 ギンとアイラ、この一匹と一人は数々の魔獣、魔物を討伐し、冒険者タッグとして名を馳せていく。

 そしてもちろん、学園内で許可のない戦闘行為を行った彼らはミナ主任教授の長い説教を食らう羽目になったのであった。
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