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第三話 あかいきつねとあおいきつね

 次第にざわめきは遠く小さくなっていく。
 それは、台座に座った二体の狐の像だった。比較的小ぶりで蓮太の目線の先に狐の鼻先がある。ずいぶんと昔からそこにあるのだろう。すっかり苔むして台座にはひびが入っていた。

 なんといっても目を引くのが、それぞれの狐の目尻と尻尾の先が鮮やかな赤と青ということだ。蓮太は物珍しげに二体の像を上から下まで観察した。

「......あかいきつねと、あおいきつね」

 無意識につぶやいていた。あの、母の歌だ。 

 ――あかいきつねに こんにちは
 ――あおいきつねに こんにちは

 赤い尻尾の狐の前に駆け寄ると、ぺこりと頭を下げた。続けて青い狐の前へ行き同じく頭を下げる。

 ――ちいさなとりいを みつけたら

 すぐに思い浮かんだのは神社の入り口にある立派な石造りの鳥居だ。違う。蓮太は首を振る。小さな鳥居――。

「あっ」

 それは、二匹の狐の真後ろ。生い茂った草木の中にひょっこりと頭を出していた。
 蓮太は高く伸びた草を払いよけながら前へ進む。
 ようやくたどり着いたその鳥居は蓮太の背丈ほどの高さで、石造りとはいえ細く頼りなく、蓮太が体当たりしたら簡単に壊れてしまいそうだった。

 お母さんの歌の通りだ! 蓮太は頬を上気させた。

 ――とんとんとんって あしならし

 確かめたい。あの歌が何なのか。蓮太はなにかに憑りつかれたかのように、鳥居の前で数をかぞえながら足踏みをする。

 ――ぱんぱんぱんって てをたたく

 大きく三回拍手してみる。

 ――とりいのしたを くぐったら

 四つん這いになり、無我夢中で鳥居の下をくぐる。

 変化は一瞬だった。

 チカリとろうそくの炎のような橙色の光が視界いっぱいに広がった。
 反射で両目をきつく閉じる。それもつかの間、すぐに光は消え失せ、蓮太はそっと目を開けた。

「――え」

 つい先ほどまでの土と草の感触がなくなり、固く冷やりとした石の質感が手足に伝わってくる。目前には長い石段が迫っていた。
 蓮太は、神社の入り口の鳥居の真下で、四つん這いの姿で動きを止めていた。

「ママ―、このお兄ちゃんなんでお馬さんみたいになってるのー?」
「こら、お客様に失礼なこと言うんじゃないの!」

 隣を通り過ぎざまに交わされる親子の会話が耳に飛び込んでくる。
 はっとして顔を上げた蓮太と、母親に手を引かれて歩く女の子の目が合った。

「――っ!」

 蓮太は声にならない悲鳴を上げた。お面の下を嫌な汗が一筋流れていく。
 女の子の顔には、大きな目が一つしかなかった。
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夏祭りの向こうがわ作者:すずひろ
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第三話 あかいきつねとあおいきつね

 次第にざわめきは遠く小さくなっていく。
 それは、台座に座った二体の狐の像だった。比較的小ぶりで蓮太の目線の先に狐の鼻先がある。ずいぶんと昔からそこにあるのだろう。すっかり苔むして台座にはひびが入っていた。

 なんといっても目を引くのが、それぞれの狐の目尻と尻尾の先が鮮やかな赤と青ということだ。蓮太は物珍しげに二体の像を上から下まで観察した。

「......あかいきつねと、あおいきつね」

 無意識につぶやいていた。あの、母の歌だ。 

 ――あかいきつねに こんにちは
 ――あおいきつねに こんにちは

 赤い尻尾の狐の前に駆け寄ると、ぺこりと頭を下げた。続けて青い狐の前へ行き同じく頭を下げる。

 ――ちいさなとりいを みつけたら

 すぐに思い浮かんだのは神社の入り口にある立派な石造りの鳥居だ。違う。蓮太は首を振る。小さな鳥居――。

「あっ」

 それは、二匹の狐の真後ろ。生い茂った草木の中にひょっこりと頭を出していた。
 蓮太は高く伸びた草を払いよけながら前へ進む。
 ようやくたどり着いたその鳥居は蓮太の背丈ほどの高さで、石造りとはいえ細く頼りなく、蓮太が体当たりしたら簡単に壊れてしまいそうだった。

 お母さんの歌の通りだ! 蓮太は頬を上気させた。

 ――とんとんとんって あしならし

 確かめたい。あの歌が何なのか。蓮太はなにかに憑りつかれたかのように、鳥居の前で数をかぞえながら足踏みをする。

 ――ぱんぱんぱんって てをたたく

 大きく三回拍手してみる。

 ――とりいのしたを くぐったら

 四つん這いになり、無我夢中で鳥居の下をくぐる。

 変化は一瞬だった。

 チカリとろうそくの炎のような橙色の光が視界いっぱいに広がった。
 反射で両目をきつく閉じる。それもつかの間、すぐに光は消え失せ、蓮太はそっと目を開けた。

「――え」

 つい先ほどまでの土と草の感触がなくなり、固く冷やりとした石の質感が手足に伝わってくる。目前には長い石段が迫っていた。
 蓮太は、神社の入り口の鳥居の真下で、四つん這いの姿で動きを止めていた。

「ママ―、このお兄ちゃんなんでお馬さんみたいになってるのー?」
「こら、お客様に失礼なこと言うんじゃないの!」

 隣を通り過ぎざまに交わされる親子の会話が耳に飛び込んでくる。
 はっとして顔を上げた蓮太と、母親に手を引かれて歩く女の子の目が合った。

「――っ!」

 蓮太は声にならない悲鳴を上げた。お面の下を嫌な汗が一筋流れていく。
 女の子の顔には、大きな目が一つしかなかった。
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