第18話 朝
翌日の朝食は目玉焼きだった。とろりとした黄身を箸で割って白いご飯の上に乗せて丁寧に食べていく。白米とは本当に不思議なものだ、単体で食べても十分な味わいを誇るのに大抵のものに見事に調和する。確かな実力と他人を立てることも出来る主役と名脇役の両方を兼ね備えたスーパーヒーローだ。
「すいません輪さん、あたしまで毎日ご飯いただいちゃって」
紅魅が味噌汁をすすっている輪に語り掛けた。
「いいのよ。今は紅魅ちゃんも色々大変でしょう。それに暁人の友達を今の島で一人ぼっちにさせるわけにはいかないもの。ねぇ、お母さん」
いつもの調子で会話を振られた心寧さんだったがぼんやりとしている様子であった。もう一度輪からの呼びかけがありようやくこちらに意識が向く。
「え、ええそうだね。紅魅ちゃん、ゆっくりしていていいからね。ここが家だと思ってもいいから」
「はい、ありがとうございます」
口の中の黄身と白米をしっかりと感じつつ気を配る。
心寧さんもこの連続殺人のせいで相当まいっているのかもしれないな。いや、人間としてあるべき姿と言えるか。
「ところで暁人、今日は暇かしら?」
「あん? お誘いか?」
「ええ、良かったら一緒に江川さんのところに行かないかしら?」
「江川さんのところだと」
答えたのは輪であった。分かりやすく首を傾げて紅魅の方に大きな瞳を向ける。
「はい。江川さんにちょっとお話することがありまして、良かったら暁人にもいてもらえるといいなって」
「ふーん。それはもちろんいいって言うか、そもそも今紅魅ちゃんを単独行動させるわけにはいかないから望むところなんだけど」
勝手に望むな。いや、やるけどさ。
「でもそれって電話とかじゃ駄目なの?」
「はい、どうしても直接会ってお話しないといけないことがありまして。暁人、良いわよね」
「ああ」
このタイミングで江川さんに会いに行くってことは、つまり斗鬼和姫に関する話を聞きに行くということだろう。斗鬼和姫は夕斗の死にも、そして今回の連続殺人事件にも大きくかかわっているはず。見識を深めて困ることは一切ない。
「よろしい」
なんで上から目線なんだお前。
「心寧さんも良いですよね」
「ええ......ええ。暁人ちゃん、紅魅ちゃんを頼んだわよ」
「うん。任せといて」
心寧さんの態度に一抹の違和感を覚えながらも僕はその辺で買ってきた安物の紅茶を喉に流し込んだ。
うん、美味い。