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第5話 発見

 噎せかえるような暑さが太陽から放たれていた。日光のことが大好きな島の植物たちもあまりの過剰摂取により心なしか元気がなさそうだ。道路に伸びていた雑草たちも、その志高い魂を忘れてしまったかのようにしなびてしまっている。是非とも年がら年中そうあって欲しいものだ。

 8月に入り、僕にとっては顔も名前も知らないご先祖様たちが茄子の牛に乗って僕も一回行ったかもしれないところに帰っていった。

 高校2年となった僕は紅魅や原田と一緒に獣たちへも使用を許可している黒いアスファルト舗装の道路を歩いている。きっと靴を持たない獣たちは、よくもこんな焼肉プレートみたいに熱くなるもんを設置しやがってと文句を叫んでいることだろう。弱肉強食の世の中であることをせいぜい恨んでくれたまえ。

「はぁ、疲れた。こんなクソ暑いのになんで学校になんて行かないといけないんだか」

 僕の愚痴に原田がバスケで鍛え上げた体躯を大袈裟に動かしながら言葉を返してくる。

「だよな。しかも今夏休みだぞ、伝統だか何だか知らねーけど何で一週間に一回学校に顔出して生存報告しなきゃなんねーんだよ。だいたいんなことしなくても斗鬼和島にいりゃどっかで顔会わせるだろうによぉ」

 立て板に水どころか、滝壺に落ちる水のように言葉を流しながらもチラチラと紅魅の方に目を向ける。紅魅はそんな視線に気づいているだろうに、そよ風にでも吹かれているように気にも留めずにペットボトルに入ったミルクティーを喉に流し込んだ。

 それにしても紅魅もすっかり大きくなった。女性にしては身長が高く165センチ程度はあるだろうし、スポーツなんて校庭にある鉄棒でやっている懸垂と軽いランニングくらいしかやっていないのにスタイルもやたらと良い。

 なぜ僕がそんなことを知っているのかと言われれば、女子の尊厳というものをサッパリ考えていない斗鬼和島の高校では係の人間が男女分け隔てなく身長も体重も測るという悪習が残っている。測った男から話を聞いたのだ。ちなみにではあるが体重は45キロしかないのだとか。スリーサイズまでは流石に知らない。

「龍臣、そんなに口動かしても喉渇くだけよ」

「だけどよぉ、何の意味があるか分かんねーじゃん」

「無意味な伝統くらいこの島にはいくつも残っているでしょう。いちいち考えても疲れるだけよ。時代遅れの制度も骨身に染みこんでいる人たちからすれば代えがたいものなのよ」

「そりゃそうだけどよぉ、変わらないってのは刺激がねーもんじゃん。だったらせめてそうしたもんを有効活用して、不満をぶつけあうことで俺たちの仲を深めるのも乙なもんじゃねーのか?」

「この前も似たようなこと言ってたから、今日はいつもの帰り道と違う道を歩いてるじゃないの」

 そう言えばこの辺の道って紅魅の爺さんである怜人さんが散歩コースにしてたところだな。連れてきてもらったことでもあるんだろうか? いやでも、最近あの人がこの辺歩いているところを見たことない。

「紅魅が気を使ってくれたのはありがたいんだけどよ。やっぱ俺にはこの程度の変化じゃないのと同じだな」

「はぁ......」

 小さく溜息をついて僕の方に妙に格調高い視線を向けた。どうやら面倒だから適当に応対しておけと命令を下しているようである。お姫様の命令に従い、面倒ながら適当に原田と四方山話を続けているとようやく原田との分かれ道にやってきた。人生の岐路と言うわけでもあるまいに、名残惜しそうに止まって手を振った。

「おっ、じゃあなお前ら。そうだ、俺夏祭り行くんだけど、お前らどうする?」

「どうするもこうするもないわ。夏祭りには皆来るんだからわざわざ約束する必要もないでしょう」

「右に同じ」

「いやまぁそうかもしれねーけどさ」

 餌を先に食われた猫のような顔を見て紅魅が微笑む。

「まぁでも、楽しみにはしてるわよ。龍臣」

「お、おう! じゃ、そういうことでじゃあな」

 小学生のように元気いっぱいに手を振り去っていった。

「龍臣はまだまだ子供ね」

「結構なことじゃねーか。童心を持ち続けられるなんて素敵なことだと思うけどな」

「皮肉にしか聞こえないわね」

「童心の鼓膜を使って聞けよ」

「そんなもん、初めてが来た時に捨てたわ」

「生々しい話止めてくれる?」

 紅魅は体温を奪い取るような眼差しを僕に向ける。こいつとはなんやかんやで10年の付き合いになるが、どうにも輪の時のように懇ろな仲になれている気がしない。子供の心を失った僕がまともな友人関係を築けなかったせいなのかもしれないが。

「ふふふ」

「なんで急に笑ったんだ?」

「暁人の間の抜けた顔見ていると自然に綻んじゃうのよ」

「さいですか」

 下を向きながら大気中の二酸化炭素濃度をたっぷりと増やしてしまいそうなため息を吐いた。

 その時、僕の目に何かが入った。

「.........ん?」

「どうかしたの?」

「いや、なんでもない。それより紅魅、僕は先にお暇するから。じゃあな」

「ええ......またね」

 そうして適当なところまで行った後に身を隠し紅魅をやり過ごす。そうして先ほどの場所まで帰っていった。

「さっきのやつ......まさか」

 日光に反射したもの......あれ、まさか。

 夕斗の時代は乱視に苦しめられたものであるが、暁人の目はすこぶるよく恐らく視力は2を超えているであろう。そんな暁人の目に映ったものはやはり間違っていなかったらしい。膝を曲げて雑草に隠れていた青柳色の眼鏡を拾う。フレームはひしゃげており、レンズも相当に壊れていた。素手で触るのは少々憚られる程度には薄汚れているが、それが何かは十分に判別できる。僕は良くなった瞳でしっかりとそれを観察した。

「......これ、僕の眼鏡だ」

 不意に心臓が大きく高鳴った。一拍一拍に火山の噴火のような勢いが宿っており、にわかに息が熱くなる。

「つまり......この辺は......」

 僕が、夕斗が車に轢かれた場所......ってことか。

 空気が熱く、重くなりまるで太陽のすぐ近くにいるかのようだ。つい数分前まで学友たちとバカ話をしながら歩いていたはずと同じ場所だとは到底思えない。

「.........」

 何かに取り憑かれたかのように僕が飛んでいったであろう方角に向けて歩を進めていく。舗装された道路はすぐに終わり、獣道に近い道へと変わっていった。足に触れる雑草も、靴で踏まれる小石や土までもが平坦を微かに害しており、普段よりも生々しい感触として身体に染みこんでくる。

 どのくらい歩いたのか、数時間だったようにも思えるし、ほんの数分のようにも思える。そうして見覚えのない神社が僕の前に現れた。神社と言っても相当に古く、石段と色褪せてほとんど赤のない鳥居が無ければ単なるあばら家だとしか思えなかったであろう。水のない手水所を横切り少し行くと賽銭箱のようなものが見えた。すっかり風化しており手を伸ばせば容易に中の銭を手に入れられるであろう。

 そして何気なくなのか、それとも僕の魂がそうさせたのか僕はそんな不用心極まりない賽銭箱の後ろに目をやった。

「!?」

 そこには......あった。

 今より約17年前に確かにこの世に存在していた岩寄夕斗の姿が。身体中に数多くの擦過傷を負い元々良くなかった面がさらに不細工に変わってしまっている。その身を覆う衣服はただの一つもなく、その代わりなのか一輪の紅い花が腹から咲いていた。

 青々とした生命力に満ちた野太く長い茎。血のように赤く、だが生命の美しさを多分に携えている幾重にも集まった花弁からは瑞々しい血が滴り落ちていた。今の僕の身長ほどの大きさのあるこの官能的なまでに美しく、そして不気味な雰囲気を放つ花を見て僕は確信した。

「斗鬼和花だ」

 僕の......岩寄夕斗の死体から斗鬼和花が咲いている。とても歪で、何なら滑稽で、狂気的なまでに僕の目を惹きつける光景であった。
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第5話 発見

 噎せかえるような暑さが太陽から放たれていた。日光のことが大好きな島の植物たちもあまりの過剰摂取により心なしか元気がなさそうだ。道路に伸びていた雑草たちも、その志高い魂を忘れてしまったかのようにしなびてしまっている。是非とも年がら年中そうあって欲しいものだ。

 8月に入り、僕にとっては顔も名前も知らないご先祖様たちが茄子の牛に乗って僕も一回行ったかもしれないところに帰っていった。

 高校2年となった僕は紅魅や原田と一緒に獣たちへも使用を許可している黒いアスファルト舗装の道路を歩いている。きっと靴を持たない獣たちは、よくもこんな焼肉プレートみたいに熱くなるもんを設置しやがってと文句を叫んでいることだろう。弱肉強食の世の中であることをせいぜい恨んでくれたまえ。

「はぁ、疲れた。こんなクソ暑いのになんで学校になんて行かないといけないんだか」

 僕の愚痴に原田がバスケで鍛え上げた体躯を大袈裟に動かしながら言葉を返してくる。

「だよな。しかも今夏休みだぞ、伝統だか何だか知らねーけど何で一週間に一回学校に顔出して生存報告しなきゃなんねーんだよ。だいたいんなことしなくても斗鬼和島にいりゃどっかで顔会わせるだろうによぉ」

 立て板に水どころか、滝壺に落ちる水のように言葉を流しながらもチラチラと紅魅の方に目を向ける。紅魅はそんな視線に気づいているだろうに、そよ風にでも吹かれているように気にも留めずにペットボトルに入ったミルクティーを喉に流し込んだ。

 それにしても紅魅もすっかり大きくなった。女性にしては身長が高く165センチ程度はあるだろうし、スポーツなんて校庭にある鉄棒でやっている懸垂と軽いランニングくらいしかやっていないのにスタイルもやたらと良い。

 なぜ僕がそんなことを知っているのかと言われれば、女子の尊厳というものをサッパリ考えていない斗鬼和島の高校では係の人間が男女分け隔てなく身長も体重も測るという悪習が残っている。測った男から話を聞いたのだ。ちなみにではあるが体重は45キロしかないのだとか。スリーサイズまでは流石に知らない。

「龍臣、そんなに口動かしても喉渇くだけよ」

「だけどよぉ、何の意味があるか分かんねーじゃん」

「無意味な伝統くらいこの島にはいくつも残っているでしょう。いちいち考えても疲れるだけよ。時代遅れの制度も骨身に染みこんでいる人たちからすれば代えがたいものなのよ」

「そりゃそうだけどよぉ、変わらないってのは刺激がねーもんじゃん。だったらせめてそうしたもんを有効活用して、不満をぶつけあうことで俺たちの仲を深めるのも乙なもんじゃねーのか?」

「この前も似たようなこと言ってたから、今日はいつもの帰り道と違う道を歩いてるじゃないの」

 そう言えばこの辺の道って紅魅の爺さんである怜人さんが散歩コースにしてたところだな。連れてきてもらったことでもあるんだろうか? いやでも、最近あの人がこの辺歩いているところを見たことない。

「紅魅が気を使ってくれたのはありがたいんだけどよ。やっぱ俺にはこの程度の変化じゃないのと同じだな」

「はぁ......」

 小さく溜息をついて僕の方に妙に格調高い視線を向けた。どうやら面倒だから適当に応対しておけと命令を下しているようである。お姫様の命令に従い、面倒ながら適当に原田と四方山話を続けているとようやく原田との分かれ道にやってきた。人生の岐路と言うわけでもあるまいに、名残惜しそうに止まって手を振った。

「おっ、じゃあなお前ら。そうだ、俺夏祭り行くんだけど、お前らどうする?」

「どうするもこうするもないわ。夏祭りには皆来るんだからわざわざ約束する必要もないでしょう」

「右に同じ」

「いやまぁそうかもしれねーけどさ」

 餌を先に食われた猫のような顔を見て紅魅が微笑む。

「まぁでも、楽しみにはしてるわよ。龍臣」

「お、おう! じゃ、そういうことでじゃあな」

 小学生のように元気いっぱいに手を振り去っていった。

「龍臣はまだまだ子供ね」

「結構なことじゃねーか。童心を持ち続けられるなんて素敵なことだと思うけどな」

「皮肉にしか聞こえないわね」

「童心の鼓膜を使って聞けよ」

「そんなもん、初めてが来た時に捨てたわ」

「生々しい話止めてくれる?」

 紅魅は体温を奪い取るような眼差しを僕に向ける。こいつとはなんやかんやで10年の付き合いになるが、どうにも輪の時のように懇ろな仲になれている気がしない。子供の心を失った僕がまともな友人関係を築けなかったせいなのかもしれないが。

「ふふふ」

「なんで急に笑ったんだ?」

「暁人の間の抜けた顔見ていると自然に綻んじゃうのよ」

「さいですか」

 下を向きながら大気中の二酸化炭素濃度をたっぷりと増やしてしまいそうなため息を吐いた。

 その時、僕の目に何かが入った。

「.........ん?」

「どうかしたの?」

「いや、なんでもない。それより紅魅、僕は先にお暇するから。じゃあな」

「ええ......またね」

 そうして適当なところまで行った後に身を隠し紅魅をやり過ごす。そうして先ほどの場所まで帰っていった。

「さっきのやつ......まさか」

 日光に反射したもの......あれ、まさか。

 夕斗の時代は乱視に苦しめられたものであるが、暁人の目はすこぶるよく恐らく視力は2を超えているであろう。そんな暁人の目に映ったものはやはり間違っていなかったらしい。膝を曲げて雑草に隠れていた青柳色の眼鏡を拾う。フレームはひしゃげており、レンズも相当に壊れていた。素手で触るのは少々憚られる程度には薄汚れているが、それが何かは十分に判別できる。僕は良くなった瞳でしっかりとそれを観察した。

「......これ、僕の眼鏡だ」

 不意に心臓が大きく高鳴った。一拍一拍に火山の噴火のような勢いが宿っており、にわかに息が熱くなる。

「つまり......この辺は......」

 僕が、夕斗が車に轢かれた場所......ってことか。

 空気が熱く、重くなりまるで太陽のすぐ近くにいるかのようだ。つい数分前まで学友たちとバカ話をしながら歩いていたはずと同じ場所だとは到底思えない。

「.........」

 何かに取り憑かれたかのように僕が飛んでいったであろう方角に向けて歩を進めていく。舗装された道路はすぐに終わり、獣道に近い道へと変わっていった。足に触れる雑草も、靴で踏まれる小石や土までもが平坦を微かに害しており、普段よりも生々しい感触として身体に染みこんでくる。

 どのくらい歩いたのか、数時間だったようにも思えるし、ほんの数分のようにも思える。そうして見覚えのない神社が僕の前に現れた。神社と言っても相当に古く、石段と色褪せてほとんど赤のない鳥居が無ければ単なるあばら家だとしか思えなかったであろう。水のない手水所を横切り少し行くと賽銭箱のようなものが見えた。すっかり風化しており手を伸ばせば容易に中の銭を手に入れられるであろう。

 そして何気なくなのか、それとも僕の魂がそうさせたのか僕はそんな不用心極まりない賽銭箱の後ろに目をやった。

「!?」

 そこには......あった。

 今より約17年前に確かにこの世に存在していた岩寄夕斗の姿が。身体中に数多くの擦過傷を負い元々良くなかった面がさらに不細工に変わってしまっている。その身を覆う衣服はただの一つもなく、その代わりなのか一輪の紅い花が腹から咲いていた。

 青々とした生命力に満ちた野太く長い茎。血のように赤く、だが生命の美しさを多分に携えている幾重にも集まった花弁からは瑞々しい血が滴り落ちていた。今の僕の身長ほどの大きさのあるこの官能的なまでに美しく、そして不気味な雰囲気を放つ花を見て僕は確信した。

「斗鬼和花だ」

 僕の......岩寄夕斗の死体から斗鬼和花が咲いている。とても歪で、何なら滑稽で、狂気的なまでに僕の目を惹きつける光景であった。
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