第7話 考察
太陽が雲で隠れながらも、隙間からなお存在感を主張している。僕はそんな日光を遮るように今の根城にしている家屋――要するに自宅――に帰った。輪の趣味で全体的に青系の家具が揃えられており、カーペットからカーテンまで衣服以外の布製品には基本的にどこかに青色が紛れ込んでいる。目に優しいのか厳しいのか暮らしてみても分からない屋内だ。
「お帰り~~」
「ああ、ただいま」
「暑かったでしょ、コーラ冷やしといたから飲んどきなさい」
すでにアラフォーとなった輪は流石に少し歳を取った容貌をしているが、それでも凛とした大樹のような気配は失われずまだまだ十分な美しさを誇っていた。そんな輪に僕は一瞥もくれずに「ありがと」とだけ言ってコーラを掴み自室に一直線に向かうと「今から母さんちょっと出てくるわね」と紙袋を持って外へと出ていった。
そう言えば毎月この時期になると同じようにどこかに行っている気がするが、今はそんなことどうでもいい。
僕は自室に入り、ドアを閉めたのと同時にたった今閉めたばかりのドアを背もたれ代わりにして床に座り込む。
「......なんなんだよ」
脳裏に浮かぶなんてものではない、ずっと脳みそには夕斗の死体が映っている。息を大きく吐いた後、制服を脱ぎ捨ててベッドに転がり込んだ。
「僕の死......なんでこんなことが起こっている?」
辛うじて張っていた糸が切れてしまった。口では冷静になるよう努めているくせにマットレスに何度も頭突きを喰わらしてしまう。無為どころか、損しかない行為だが除夜の鐘のように一突きごとに何かが少し消えていく感触がある。
そうしてどれだけかの時間が経った後、今度は意識的に夕斗の死体、そしてその死体から生えていた花のことを思い起こした。目を閉じると、目の前にあるような不穏でねっとりとしたそれらが瞼に映る。
「僕の眼鏡が落ちていたところからあの死体まではだいたい1分くらいだった......近いとはいえいくら何でも車かなんかに轢かれただけであそこまで飛ぶとは考えられない」
仮にあの眼鏡があった場所を僕が轢かれた場所だと仮定したら夕斗の死体を賽銭箱の裏に隠した存在がいることになる。そいつが夕斗を殺した犯人か?
それに一番訳が分からないのは紅魅が夕斗の死体を見られなかったってことだ。紅魅だけに見ることが出来ないのか? それとも僕だけが見ることが出来るのか?
そもそもあの花はなんだ? 本当に斗鬼和花なのか? 死骸だらけの土壌に根を張る植物は数多いるだろうが、死体そのものに咲く花なんて聞いたことが無いぞ......それに、あの花から零れ落ちていたものは血のように見えた。花が血を流すわけがない。
「......ふざけてやがんな」
脳に巡っている血管が痛みを訴えかけていた。髪を掻きむしっても茶色の髪の毛が落ちるだけで天啓なんて落ちてこない。
「舐めんじゃねーぞ、クソ花が」
岩寄夕斗のことを調べたこともある。だが、17年前に行方不明になったきりと言う情報以外は聞いたことが無い。今、本腰入れて調べたとしても早々に良い情報が手に入るとは思えない。死んだときの記憶も、霞がかったようにほとんど思い出せない。だとすると、今僕がすべきことは。
「斗鬼和花だな」
この島に根付く斗鬼和花の謎を調べる。そうすれば僕の死についても何か分かるかもしれない。
僕はスマホを取り出し夕斗時代の僕を可愛がってくれた相手でもある、江川卓一さんに連絡をした。
『明日、斗鬼和花についてちょっと聞きたいことがあるんですがお時間よろしいでしょうか?』
指で無理やり口角をあげて笑う。
「ちょうどいいや、夏休みの自由研究でもするとするか」
そうして送信ボタンを押した時、窓の外でカラスが我が物顔で甲高く鳴いていた。睨みつけてやるとそそくさと黒い羽を落としながら逃げていく。
ざまーみやがれ。