第23話 今日も鳴らないドアベル
雨上がりの午後は、いつもより喫茶店「ミチクサ」は、客足が鈍かった。
ジョウは窓を拭きながら、なんとなく通りに目をやる癖がついていた。
理由は分かっている。分かっているからこそ、意識しないようにしていた。
「今日も来ないねー、爽やかイケメン」
カウンターを拭いていた空が、思い出したように言った。
「べ、別に気にしてないけど」
「気にしてる顔してるじゃん」
「してない!」
即座に否定したが、窓の外を見る手が止まっていたことには、
ジョウ自身も気づいていた。
「常連になるとか言ってたのに、薄情だよなー」
片桐さんが厨房から欠伸交じりに言った。
「まあ、客商売だ。来ない日もあるさ」
「そうですよね......」
ジョウは布巾を握ったまま、少しだけ肩を落とした。
あの男が何者なのか、まだ何も分かっていない。
警戒すべき相手なのかもしれない。それなのに――
姿を見せないというだけで、こんなにも落ち着かない気持ちになるのは、
自分でもうまく説明がつかなかった。
「あの人が来たら出そうと思ってた新作ブレンド、また今度でいいから頑張れよ」
片桐さんの適当な励ましに、ジョウは苦笑いで頷いた。
夕方になっても、ドアベルは一度も、あの軽やかな音を立てなかった。
閉店作業をしながら、ジョウは何度か無意識に入り口へ目をやった。
――べつに、待っていたわけじゃない。
そう自分に言い聞かせながら、伝票を数える手が一瞬止まった。
それでもジョウはその日の売上を淡々と締めていった。