ホーム›法鍵士は夕暮れに鳴る›第20話 招かれざる声
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第20話 招かれざる声

*

トウゴの相手は二人。囲むつもりだろう。
左右に開き、正面から一人が仕掛ける。
段々と挟み込む――その展開を読んだトウゴは、溜息を噛み殺した。
動きが教科書通りすぎる。封印派の末端はいつもそうだ。
型を教わり、型通りに動く。先が読めすぎて退屈過ぎて笑いそうになる。

「行くぞ、統護トウゴ!」

正面の男が声を張った。かつての名で呼ばれるたびに、耳の奥がざらつく。
だが今は、それを噛み潰す方が先な気がした。
トウゴは動かない。 二人の位置を網膜に焼き付ける。

(来い。教わった通りに、来い)

正面の一人が踏み込み、鍵が伸びる。
トウゴは半歩だけ横にズレた。間髪入れずに空を切る鍵。
その腕が伸びきる、刹那。

「――クローズ」

息を吐き出すような呟き。瞬時に、腕ごと動きを「封印」した。
静かに、逃げ場なく、完全停止。

「なっ――」

男の驚愕の声が、途中で途切れる。声帯まで固まったのだろう。
すかさず左が肉薄する。速さは悪くないが 、これもトウゴは読んでいる。

(お前もだ)

トウゴは群青を手放さないまま、重心だけを垂直に沈めた。
床すれすれを這う光が、左の足元をさらう。 完全な無音。
相手はトウゴが動いたことすら気づかない。

「ば、化け物か......ッ」

戸惑いの声が、体勢を崩す間抜けな呻きへと変わった。
崩れた体勢へ――トウゴは沈めていた腰をそのまま伸ばし上げ、
その勢いを乗せて群青の鍵の柄を振り上げた。
柄が、容赦なく横面を打つ。鈍い衝撃音とともに、男が膝から崩れ落ちる。
肺から空気が漏れる、くぐもった声。
そのまま崩れ落ちるその体を、トウゴは振り返りもしない。
ふと、その動きの端々に、誰かの背中の記憶が重なった。
教わった記憶ではない。ただ隣で、何百回と見てきた誰かの型。

「二人がかりで、型通りに来る方が悪い」

誰へ向けたでもない、独り言のような呟き。
歩き出す横顔に、一瞬だけ笑みが浮かんだ。
鍵が思い通りに動いた。型をなぞるだけの連中を、型ごと圧殺した。
それだけの事だったが今夜は――少しだけ、気持ちよかった。

ジョウの相手は一人。だが、鍵の引きが速い。
間合いを広く取り、遠距離から削ってくるタイプだ。
近づこうとすれば鍵が走り、下がればまた距離を開けられる。
そのループにハメる気だろう。

「ほら、どうした。届かないなぁ?」

相手が軽い調子で挑発を飛ばす。実際、届いていなかった。
ジョウの鍵は、三度連続で虚しく空を切っている。

(くそ、同じ手には乗るかよ......いや、待て)

三回、その軌道をおとりで繰り返させた時点で、ジョウは仕掛けを見切った。
一秒だけ、思考。いや、結論はハナから出ていた。
――前だ。
下がるフリから、一転して爆発的な踏み込み。相手の予測の逆を突く。

「――は?」

男の声が、一瞬で戸惑いに変わった。
すれ違う鍵。届かない。いや、届かせる気などない。
低く潜り込み、一気に懐へ。鍵の死角。
引き戻そうとする相手の焦りより、ジョウの突進が勝った。

「――っ」

言葉になりきらない叫び。胸元へ容赦なく肩をぶつける。
止まらない。足を踏ん張り、体重のすべてを乗せて押し込んだ。

(下がるな。下がったら、もう終わりだ)

よろめき、後退する相手。一歩、二歩――。
その二歩目が地面に着く前に、ジョウの鍵が横一線に薙いだ。
淡いゴールドの光が一閃。
考えて動いたわけじゃない。気づけば、鍵が走っていた。

「がっ......!」

手元から鍵を弾き飛ばされた相手が、床に膝を突く。
ジョウは立ち尽くしたまま、深く息を吐いた。
ぶつかった肩が鈍く痛む。喉が鳴る。

「な......なんで......型を崩されたのは、こっちのはずなのに......」

膝をついた男が、掠れた声で呟いた。ジョウはそれに答えなかった。
答える余裕も、答える言葉も、今は持ち合わせていなかった。
見下ろした敗者に、かける言葉はない。
ただ――次がどこにいるか、その身体はもう、戦闘の続行を求めていた。

ヨシの相手が間合いを詰めてきた。
迷いのない、最速の踏み込み。
ヨシの持つ『白銀の鍵』のリーチが長いことを見越した動きだ。
懐に入れば長物は死ぬ――その計算。

「懐に入られたら、終わりだと思ってる?」

ヨシが飄々と呟いた。
相手の耳には届かなかっただろう。
別に届かせるつもりもなかったが。

(なら、歓迎するよ?)

相手が間合いを潰した瞬間、ヨシは白銀の鍵を逆手に持ち替えた。
柄を下に向け、そのまま床へ突き立てる。
両手でグリップを握り、全体重を預けた。

遠心力。

鍵を軸に、ヨシの身体が宙を舞った。
ブレードのようにしなる右足が、
猛烈な弧を描いて相手の顎を真横から蹴り上げる。

「――え」

男の間抜けな声が、宙で途切れる。
衝撃で顎が跳ね上がり、首が反る。
重力を失った相手の身体が、垂直に浮き上がった。
ヨシは着地と同時に床から柄を蹴り上げ、片手でそれを掴み取る。
回転の残像をまとったまま、空中へ放り出された肉体めがけて
白銀を容赦なく突き出した。

(そこっ!)

ピンポイント。切っ先が、相手の鍵の核を空中で貫く。
光が四散し、ガラスのように砕け散る鍵。
男が床に激突し、ぴくりとも動かなくなった 。
着地の衝撃が膝から腰へ抜け、右足の付け根が熱を持っていた。
だが、指先はまだ冷徹に鍵を握っている。
一拍置いて、片手で鍵を軽く回すと、そのまま慣れた手つきで肩に担いだ。

「......思ったより、決まったね」

息一つ乱れていない、飄々とした声。口角は楽しげに上がっている。
向こうから三人に仕掛けてきたはずの戦いは、驚くほど呆気なく終わってしまった。

「次は誰かな」

聞かせるつもりのない一言を漏らし、ヨシは軽い足取りで肩の鍵を持ち直していた。
その時。

「あれー、随分と物騒なことになってるねぇ」

呑気な声が、路地の入り口の方から響いた。
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法鍵士は夕暮れに鳴る作者:福天六(ふくたむ)
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第20話 招かれざる声

*

トウゴの相手は二人。囲むつもりだろう。
左右に開き、正面から一人が仕掛ける。
段々と挟み込む――その展開を読んだトウゴは、溜息を噛み殺した。
動きが教科書通りすぎる。封印派の末端はいつもそうだ。
型を教わり、型通りに動く。先が読めすぎて退屈過ぎて笑いそうになる。

「行くぞ、統護トウゴ!」

正面の男が声を張った。かつての名で呼ばれるたびに、耳の奥がざらつく。
だが今は、それを噛み潰す方が先な気がした。
トウゴは動かない。 二人の位置を網膜に焼き付ける。

(来い。教わった通りに、来い)

正面の一人が踏み込み、鍵が伸びる。
トウゴは半歩だけ横にズレた。間髪入れずに空を切る鍵。
その腕が伸びきる、刹那。

「――クローズ」

息を吐き出すような呟き。瞬時に、腕ごと動きを「封印」した。
静かに、逃げ場なく、完全停止。

「なっ――」

男の驚愕の声が、途中で途切れる。声帯まで固まったのだろう。
すかさず左が肉薄する。速さは悪くないが 、これもトウゴは読んでいる。

(お前もだ)

トウゴは群青を手放さないまま、重心だけを垂直に沈めた。
床すれすれを這う光が、左の足元をさらう。 完全な無音。
相手はトウゴが動いたことすら気づかない。

「ば、化け物か......ッ」

戸惑いの声が、体勢を崩す間抜けな呻きへと変わった。
崩れた体勢へ――トウゴは沈めていた腰をそのまま伸ばし上げ、
その勢いを乗せて群青の鍵の柄を振り上げた。
柄が、容赦なく横面を打つ。鈍い衝撃音とともに、男が膝から崩れ落ちる。
肺から空気が漏れる、くぐもった声。
そのまま崩れ落ちるその体を、トウゴは振り返りもしない。
ふと、その動きの端々に、誰かの背中の記憶が重なった。
教わった記憶ではない。ただ隣で、何百回と見てきた誰かの型。

「二人がかりで、型通りに来る方が悪い」

誰へ向けたでもない、独り言のような呟き。
歩き出す横顔に、一瞬だけ笑みが浮かんだ。
鍵が思い通りに動いた。型をなぞるだけの連中を、型ごと圧殺した。
それだけの事だったが今夜は――少しだけ、気持ちよかった。

ジョウの相手は一人。だが、鍵の引きが速い。
間合いを広く取り、遠距離から削ってくるタイプだ。
近づこうとすれば鍵が走り、下がればまた距離を開けられる。
そのループにハメる気だろう。

「ほら、どうした。届かないなぁ?」

相手が軽い調子で挑発を飛ばす。実際、届いていなかった。
ジョウの鍵は、三度連続で虚しく空を切っている。

(くそ、同じ手には乗るかよ......いや、待て)

三回、その軌道をおとりで繰り返させた時点で、ジョウは仕掛けを見切った。
一秒だけ、思考。いや、結論はハナから出ていた。
――前だ。
下がるフリから、一転して爆発的な踏み込み。相手の予測の逆を突く。

「――は?」

男の声が、一瞬で戸惑いに変わった。
すれ違う鍵。届かない。いや、届かせる気などない。
低く潜り込み、一気に懐へ。鍵の死角。
引き戻そうとする相手の焦りより、ジョウの突進が勝った。

「――っ」

言葉になりきらない叫び。胸元へ容赦なく肩をぶつける。
止まらない。足を踏ん張り、体重のすべてを乗せて押し込んだ。

(下がるな。下がったら、もう終わりだ)

よろめき、後退する相手。一歩、二歩――。
その二歩目が地面に着く前に、ジョウの鍵が横一線に薙いだ。
淡いゴールドの光が一閃。
考えて動いたわけじゃない。気づけば、鍵が走っていた。

「がっ......!」

手元から鍵を弾き飛ばされた相手が、床に膝を突く。
ジョウは立ち尽くしたまま、深く息を吐いた。
ぶつかった肩が鈍く痛む。喉が鳴る。

「な......なんで......型を崩されたのは、こっちのはずなのに......」

膝をついた男が、掠れた声で呟いた。ジョウはそれに答えなかった。
答える余裕も、答える言葉も、今は持ち合わせていなかった。
見下ろした敗者に、かける言葉はない。
ただ――次がどこにいるか、その身体はもう、戦闘の続行を求めていた。

ヨシの相手が間合いを詰めてきた。
迷いのない、最速の踏み込み。
ヨシの持つ『白銀の鍵』のリーチが長いことを見越した動きだ。
懐に入れば長物は死ぬ――その計算。

「懐に入られたら、終わりだと思ってる?」

ヨシが飄々と呟いた。
相手の耳には届かなかっただろう。
別に届かせるつもりもなかったが。

(なら、歓迎するよ?)

相手が間合いを潰した瞬間、ヨシは白銀の鍵を逆手に持ち替えた。
柄を下に向け、そのまま床へ突き立てる。
両手でグリップを握り、全体重を預けた。

遠心力。

鍵を軸に、ヨシの身体が宙を舞った。
ブレードのようにしなる右足が、
猛烈な弧を描いて相手の顎を真横から蹴り上げる。

「――え」

男の間抜けな声が、宙で途切れる。
衝撃で顎が跳ね上がり、首が反る。
重力を失った相手の身体が、垂直に浮き上がった。
ヨシは着地と同時に床から柄を蹴り上げ、片手でそれを掴み取る。
回転の残像をまとったまま、空中へ放り出された肉体めがけて
白銀を容赦なく突き出した。

(そこっ!)

ピンポイント。切っ先が、相手の鍵の核を空中で貫く。
光が四散し、ガラスのように砕け散る鍵。
男が床に激突し、ぴくりとも動かなくなった 。
着地の衝撃が膝から腰へ抜け、右足の付け根が熱を持っていた。
だが、指先はまだ冷徹に鍵を握っている。
一拍置いて、片手で鍵を軽く回すと、そのまま慣れた手つきで肩に担いだ。

「......思ったより、決まったね」

息一つ乱れていない、飄々とした声。口角は楽しげに上がっている。
向こうから三人に仕掛けてきたはずの戦いは、驚くほど呆気なく終わってしまった。

「次は誰かな」

聞かせるつもりのない一言を漏らし、ヨシは軽い足取りで肩の鍵を持ち直していた。
その時。

「あれー、随分と物騒なことになってるねぇ」

呑気な声が、路地の入り口の方から響いた。
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法鍵士は夕暮れに鳴る作者:福天六(ふくたむ)
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