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第19話 路地裏の対峙

チームとしての巡回は、法鍵士の本部から週に二回と決められていた。
封印空間の歪みが周囲に広がっていないか、
異型の気配が紛れ込んでいないか――
拠点周辺のエリアを、三人で満遍なく確認して回る。
地味で地道な作業。けれどヨシはいつも「これが一番大事な基礎なんだよ」と言っていた。
トウゴは何も言わなかった。それはつまり、全面的な同意を意味していた。
その夜も、何事もなく終わる予定で三人が拠点に戻ろうとしたその時。
最初の異変に気づいたのはトウゴだった。

「待て」

地を這うような低い声。三人が同時に足を止めた。
キャンパスから少し離れた、古い雑居ビルが乱立する細い路地の奥。
そこから、確かに封印空間特有のピリついた気配が漂ってきていた。
しかし、いつも体感するものとは決定的に違っていた。

気配が、二重に重なっている。
一つの限られた座標に対して、全く質の異なる二種類の声紋が
猛烈に干渉し合っていた。

「......喧嘩してるね」

ヨシが呟いた。声は静かに伝えたが、奥の目はすでに鋭く細められている。

「誰が?」
「聞こえない? 二つの声紋が、互いを押し潰そうと激しくぶつかり合っている音だよ」

ジョウは全神経を耳に集中させた。だが、物理的な音としては何も聞こえない。
代わりに――自身の喉が、かつてない異常な振動を起こして反応していた。
いつもの単一の共鳴じゃない。
左右二方向から強引に引っ張られ、引き裂かれるような奇妙な感覚だ。

どん詰まりの広場には、四人の影があった。二対二の睨み合い。
片方は――隙のない黒い衣服を身に纏っていた。
一目でそれと分かる、封印派の末端の法鍵士たちだ。
その姿を視界に捉えた瞬間、トウゴの身体が一瞬だけ硬直したのを
ジョウは見逃さなかった。

そして、もう片方は――夜闇に浮かび上がるような白いシャツを着ていた。
二人とも、まだ若い。彼らが構える声紋鍵は、
見たこともない禍々しい「緑がかった色」に不気味に発光していた。

「......『解放派』だ」

ヨシが至近距離で小さく囁いた。解放派。解放派の組織の総称――
その単語が耳に飛び込んできた刹那、ジョウの喉が凄まじい勢いで鳴動した。
だが、それは拒絶の振動ではなかった。
もっと血の深い場所、記憶の底から湧き上がるような、懐かしさに似た共鳴。

(知っている......。俺は、この言葉を知っている。でも、一体どこで――)
「巻き込まれるぞ、引け!」

トウゴが鋭く制止したが、すでに遅かった。
封印派の法鍵士の一人が鋭敏にこちらの気配を察知し、
冷徹な視線を向けてきたのだ。

「――統護(とうご)!」

男が、トウゴの本名を呼び、トウゴの足が完全に止まる。

「封印派の由緒正しき家系の人間が――なぜ、このような場所にいる」

冷酷な声がトウゴを突き刺した。

「任務だ」
「その任務とやらは、とっくに終わったはずだ。
お前は今、B-ブロードという名の野良犬みたいな集まりに身を置いている。
封印派の正義を裏切った人間が、いまさら俺たちの前に現れた理由を――」
「裏切ってなんかいない」

短く重い決意の籠もった声でトウゴが遮る。

「封印派の家系として生まれた事実、それは変わらない。
だが、俺は今、俺の意志でここにいる。......それだけだ」
「それだけで、済むと思っているのか」

ドッ、と空間の圧力が跳ね上がった。
封印派の末端が構える漆黒の鍵の切っ先が、
明確な敵意とともにトウゴへと向けられる。
その前に、ヨシが滑り込むようにして割り込んだ。
白銀の鍵が夜闇を鮮烈に切り裂き、その優美な輪郭を現す。

「ちょっと待ってよ」

口調こそ穏やかに返したが、
白銀の光紋はカミソリのように鋭く研ぎ澄まされていた。

「ここで仲間割れをしてる場合じゃないと思うんだけど?」
「どちらの陣営でもないお前には関係のないことだ。退け、由士」
「大いに関係あるさ。ごーさんは今、B-ブロードの仲間だからね」

対峙する黒と緑――封印派と解放派。

双方の声紋鍵がジリジリと出力を上げ、
ジョウたちの退路を塞ぐように包囲網を狭めてくる。
圧倒的な殺気の奔流が、狭い路地裏の空気を爆発寸前まで膨らませていく。

「これは......流石にまずいな......」

ジョウはゴールドの鍵の引き鉄に指をかけ、
全身の筋肉を限界まで緊張させた。
トウゴが群青の鍵を低く構え直し、
獣のような鋭い眼光で敵の配置を射抜く。

「――三つに分かれて片付けるぞ!」
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法鍵士は夕暮れに鳴る作者:福天六(ふくたむ)
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第19話 路地裏の対峙

チームとしての巡回は、法鍵士の本部から週に二回と決められていた。
封印空間の歪みが周囲に広がっていないか、
異型の気配が紛れ込んでいないか――
拠点周辺のエリアを、三人で満遍なく確認して回る。
地味で地道な作業。けれどヨシはいつも「これが一番大事な基礎なんだよ」と言っていた。
トウゴは何も言わなかった。それはつまり、全面的な同意を意味していた。
その夜も、何事もなく終わる予定で三人が拠点に戻ろうとしたその時。
最初の異変に気づいたのはトウゴだった。

「待て」

地を這うような低い声。三人が同時に足を止めた。
キャンパスから少し離れた、古い雑居ビルが乱立する細い路地の奥。
そこから、確かに封印空間特有のピリついた気配が漂ってきていた。
しかし、いつも体感するものとは決定的に違っていた。

気配が、二重に重なっている。
一つの限られた座標に対して、全く質の異なる二種類の声紋が
猛烈に干渉し合っていた。

「......喧嘩してるね」

ヨシが呟いた。声は静かに伝えたが、奥の目はすでに鋭く細められている。

「誰が?」
「聞こえない? 二つの声紋が、互いを押し潰そうと激しくぶつかり合っている音だよ」

ジョウは全神経を耳に集中させた。だが、物理的な音としては何も聞こえない。
代わりに――自身の喉が、かつてない異常な振動を起こして反応していた。
いつもの単一の共鳴じゃない。
左右二方向から強引に引っ張られ、引き裂かれるような奇妙な感覚だ。

どん詰まりの広場には、四人の影があった。二対二の睨み合い。
片方は――隙のない黒い衣服を身に纏っていた。
一目でそれと分かる、封印派の末端の法鍵士たちだ。
その姿を視界に捉えた瞬間、トウゴの身体が一瞬だけ硬直したのを
ジョウは見逃さなかった。

そして、もう片方は――夜闇に浮かび上がるような白いシャツを着ていた。
二人とも、まだ若い。彼らが構える声紋鍵は、
見たこともない禍々しい「緑がかった色」に不気味に発光していた。

「......『解放派』だ」

ヨシが至近距離で小さく囁いた。解放派。解放派の組織の総称――
その単語が耳に飛び込んできた刹那、ジョウの喉が凄まじい勢いで鳴動した。
だが、それは拒絶の振動ではなかった。
もっと血の深い場所、記憶の底から湧き上がるような、懐かしさに似た共鳴。

(知っている......。俺は、この言葉を知っている。でも、一体どこで――)
「巻き込まれるぞ、引け!」

トウゴが鋭く制止したが、すでに遅かった。
封印派の法鍵士の一人が鋭敏にこちらの気配を察知し、
冷徹な視線を向けてきたのだ。

「――統護(とうご)!」

男が、トウゴの本名を呼び、トウゴの足が完全に止まる。

「封印派の由緒正しき家系の人間が――なぜ、このような場所にいる」

冷酷な声がトウゴを突き刺した。

「任務だ」
「その任務とやらは、とっくに終わったはずだ。
お前は今、B-ブロードという名の野良犬みたいな集まりに身を置いている。
封印派の正義を裏切った人間が、いまさら俺たちの前に現れた理由を――」
「裏切ってなんかいない」

短く重い決意の籠もった声でトウゴが遮る。

「封印派の家系として生まれた事実、それは変わらない。
だが、俺は今、俺の意志でここにいる。......それだけだ」
「それだけで、済むと思っているのか」

ドッ、と空間の圧力が跳ね上がった。
封印派の末端が構える漆黒の鍵の切っ先が、
明確な敵意とともにトウゴへと向けられる。
その前に、ヨシが滑り込むようにして割り込んだ。
白銀の鍵が夜闇を鮮烈に切り裂き、その優美な輪郭を現す。

「ちょっと待ってよ」

口調こそ穏やかに返したが、
白銀の光紋はカミソリのように鋭く研ぎ澄まされていた。

「ここで仲間割れをしてる場合じゃないと思うんだけど?」
「どちらの陣営でもないお前には関係のないことだ。退け、由士」
「大いに関係あるさ。ごーさんは今、B-ブロードの仲間だからね」

対峙する黒と緑――封印派と解放派。

双方の声紋鍵がジリジリと出力を上げ、
ジョウたちの退路を塞ぐように包囲網を狭めてくる。
圧倒的な殺気の奔流が、狭い路地裏の空気を爆発寸前まで膨らませていく。

「これは......流石にまずいな......」

ジョウはゴールドの鍵の引き鉄に指をかけ、
全身の筋肉を限界まで緊張させた。
トウゴが群青の鍵を低く構え直し、
獣のような鋭い眼光で敵の配置を射抜く。

「――三つに分かれて片付けるぞ!」
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