第43話 隣に座っていた人
*
その頃、B-ブロードの拠点。
ジョウは長椅子に寝転がり、天井を見上げていた。記憶の断片が戻るたびに、胸の奥に、懐かしいような切ないような何かが滲む。うまく言葉にならない。
「ジョウ」
ヨシが声をかけてきた。
「何してるの、そんなところで」
「考え事」
「珍しいね」
「ワシだって考え事くらいするよ」
ヨシが隣に腰を下ろした。いつもの表情のまま、少しだけ遠い目をしている。
「よっさん」
「うん」
「ワシの母さん、どんな人だった?」
ヨシの手元が、ほんの少し止まった。
「......莢さんの記憶、あるの?」
「ある。子供の頃に、少しだけ」
ヨシは視線を落とし、記憶を探るように黙ってから、言葉を零した。
「真っ直ぐな人だったよ」
言葉を選ぶ間があった。
「僕が泣いてると、何も言わずに、隣に座ってた。それだけなのに、不思議と泣き止むんだ」
「......ワシ、そういうの、できないな」
「うん。ジョウは、隣でうるさいから」
「ひど」
ヨシの口元が、柔らかく緩んだ。
「でも、ジョウみたいな人かな」
喉の奥が、かすかに鳴っていた。
戦いの振動とは違う、もっと深い場所から来る、温かい共鳴。
「そっか」
ジョウは目を閉じた。扉の向こうの母のことは、まだ正確に思い出せない。
でも、ヨシの言葉が、その面影をほんの少しだけ鮮明にしてくれた。
「よっさん」
「うん」
「ワシ、全部思い出したとき、ちゃんと前を向けるかな」
ヨシは、少し答えなかった。
「向けるよ」
「根拠は?」
「莢さんの息子だから」
「それ、根拠になってる?」
「なってるよ。大真面目にね」
部屋の奥から、トウゴの声が飛んできた。
「うるさい。寝るなら寝ろ、話すなら話せ。どっちかにしろ」
「両方同時にやってるんだよ、ごーさん」
「そんな器用なことが出来るか」
「ジョウはできるんだよね、なぜか」
「......意味が分からん」
ジョウは、そのやり取りを聞きながら、深く息をした。
来縁が話してくれる日が、もうすぐ来る。
宝璽との決着も、扉との向き合い方も、全部まだこれからだ。
記憶が戻るたびに、世界が少しずつ重くなる。
それでも今夜は、この声たちがここにあった。
トウゴの低音が、ヨシの高音が、ジョウの中音が、
小さな部屋の中で、静かに重なっていた。