ep115 "サーカス"のセキュリティ担当
階段を上り、右に曲がると蒼達は手を繋ぎながら並んで進む。
「人全然いないな」
「ここは共用ということもあり、みなさん森の中にある自室の方にいることが多いので、私も話し合い等以外ではそこまでここには来ていないです」
「そうなんだ。セキュリティは?」
「パソコンに詳しい方がいた為、その方にお願いしています。そういえば、彼だけはここに住んでいますね」
昴は思い出したように、言う。天音は周りを気にしながら歩いている。流石に能力で姿を消してるとはいえ、敵地で両手が使えないのは精神的にくるものがあるのか、手は若干汗ばんでいる。
蒼は気にせず、天音の奥にいる昴を見ながら話を続ける。
「へぇー、その人は信頼できる?」
「信頼はできます。ただ、少し性格に難がありまして......。島から出るって気はないみたいですから、今回の件には関わっていないと思いますよ」
「ふーん」
無言になる。
潜入中だから、それが正解ではあるのだが響く音が足音だけになる。
蒼は昴の言った"サーカス"のセキュリティ担当について考える。性格に難があるということは、好きなこと以外に興味が極端にないタイプなのかと考えを巡らせる。仮にそうだった場合は、ノアズ計画について知った上でスルーしてる可能性もある。
昴がこちらにいる。信頼関係があるなら、上手くこちらに引き摺り込めないかなと蒼は思う。そうしたら、コソコソせずにもっと潜入がしやすいし、計画によっては潰しやすい。
そんな事を考えていると、目的地に着いた。
「中から人の気配はするな。微かな話し声も聞こえるけど、聞き取れねぇ」
器用に扉に耳を当てながら天音が中の様子を伺う。今回は協力者がいないので、扉を開けることができない。
天音は諦めた様子で扉から耳を離した。
「こりゃ、無理だ。どうすっか」
「ねぇ、すーさん」
蒼は先程考えていたことを昴達に伝える。昴は少し考えてから頷いた。
「確かに、彼なら何か知ってる可能性があります」
「......昴クン、本当に信用できるのか?」
「以前、話をした時にこの施設にセキュリティを最適化したので、ここから離れたくないと話していたので、大丈夫だと思います」
「なるほど。それはいいこと聞いた。いい取引材料があるな」
蒼は笑った。そして、昴の案内の元移動を開始する。
セキュリティ担当の部屋は1階の奥にあるらしい。3人は先ほど上った階段を下ると、建物の奥へと進んだ。
奥に進むにつれ、電球が消えて、廊下は薄暗い。
「ここを左です」
そして、迷路のように入り組んでいる。この廃屋は昔、工場かなんかだったのだろうと今更ながら蒼は思った。
「次を右に回った先にある扉が、彼の部屋です。蒼さん、最初に私だけ中に入ってもいいですか? きちんと彼に説明をします」
昴が硬い表情で蒼を見る。蒼は首を傾げた。しかし、すぐに聞かれた理由が蒼が今は昴の監督者だからだということに気付き、真面目だなと内心で笑う。
「問題ない。俺の目的はノアズ計画について知ることだから、それさえ達成できればいいしな!」
「今の目的はノアズ計画に危険がないかの確認だしな、昴クンも止める側なら、こいつが止める理由はない。1人で入るってことは、姿は隠せないぜ?」
「大丈夫です。彼と2人で話がしたいので」
表情も声も昴は固かった。それだけで、覚悟は伝わってくる。仮に逃げるにしても唯華がすぐに手を打つだろうしと蒼は一切問題には感じていなかった。
そして、3人で仲良く右に曲がるとすぐに目的の扉が現れた。
「あそこ?」
「はい」
昴は覚悟を決めた顔をしていた。天音が確認のためか、蒼を見る。蒼は頷く。
「まあ、頑張れよ。昴クン」
天音はそう伝えると昴の手を離した。視覚的には変わらないが、これで他の人達にも昴の姿が見えるようになったのだろう。
昴がキョロキョロと周りを見回す。蒼達が見えないことを確認しているようだ。そして、扉をノックして昴は扉の中へと消えていった。
◇◇◇◇
昴は2人から離れて、室内に入る。廊下と同様に室内も薄暗い。部屋の壁の一画はモニターで埋め尽くされており、モニターの光が部屋全体を照らしている。
特に大きなモニターの前にはゲーミングチェアが陣取っており、昴が室内に入ると、クルリと回った。
椅子には1人の男が座っていた。男は昴を見ると気怠そうに手を上げた。
「あっ、リーダー。無事出所......はしてたから、なんでいえばいいんだろ?」
「お久しぶりです、レンさん。やはり、知っていましたか」
「まあーね、無事そうだったから連絡も取らなかったし、他の人にも言ってないけど」
「そうだと思いました」
のんびりと話す男――藤澤蓮の通常運転な様子を見て、昴は詰めていた息を吐いた。
蓮はクルリと椅子を回すと昴に背を向けて、モニターに向き直る。
「他に能力者の協力を得て、ここに来た感じ? 一応施設内監視してたけどついさっきまで人影なかったから」
「そうなりますね。協力者が2人います。今は外で待機して頂いている状態です」
「へぇ、で、リーダーは俺に何の用なん?」
机の上に置いてある、エナジードリンクに手を伸ばしながら蓮は興味なさげに尋ねる。昴は1年以上会っていないのに変わらない様子に、自然と口角が緩む。
モニターの方に近付きながら、昴は単刀直入に本題へ入る。
「ノアズ計画について、知っていますか?」
昴の問いに、振り返りながらエナジードリンクを飲む蓮の瞳が少し怪しく光った。