ep116 RENとアビス
エナジードリンクを後ろ手で机に置くと蓮は昴を見つめた。
「まさか、リーダーからその単語を聞くとは思わなくて、驚いた。知ってたんだ?」
「......他の方から聞きまして」
「なるほどねー。まあ、ある程度は知ってるよ。あいつら、ここで作戦会議してるから俺には全部筒抜け。お仲間さんにも入ってもらいなよ、何度も説明するのめんどいし」
蓮はガシガシと頭をかきながら本当に面倒そうに言う。
昴は頷くと扉の入り口に近付くと、扉を開けた。しかし、2人の姿は見えない。
「蒼さん、天童さん中に入ってください」
扉の前にいることを祈って昴は小声で伝える。しかし、反応がない。不安になっていると、誰も触ってないはずの扉が勝手に閉まる。
「あははっ。すーさん、不安を顔に出しすぎだって」
突然、蒼の姿が現れてケラケラと笑っている。そして同じく突然現れた天音が蒼の頭をはたく。
「――っ、天音さん、叩くことないだろ!?」
「止めないと、話が進まないのが目に見えていたからな」
「酷い! 俺やばい時はちゃんと空気読むぞ!?」
「だったら、今は黙ってるだろうが!」
昴の目の前で蒼と天音は言い合いを始めてしまう。どうしようかと視線を逸らすと蓮と目が合った。
蓮の目は早くなんとかしろと語っている。たくさんのモニターがあるため、冷房の効いた室内がさらに寒くなったように感じた。昴は覚悟を決めて2人の間に入る。
「あの、話をしたいので落ち着いていただいてもよろしいですか?」
昴が恐る恐ると言うように話しかけると2人はピタッと止まる。そして、何事もなかったように横に並ぶ。
「そっちの人が、セキュリティ担当者?」
蒼はそのまま蓮の方を指さしながら昴に尋ねてきた。先程まで天音と言い合っていたのが嘘のようだ。チラリと昴は天音を見る。天音も気にしている様子はなかった。
いつものことなのだろうかと昴は2人の関係がわからなくなる。
というよりも、蒼と言う人間がわからなくなった。
「えっ、ええ、そうです。こちらの彼が――」
「どうも、RENです」
「ん? RENってもしかしてエナドリ中毒の?」
昴が紹介しようとする前に、蓮がくるりと椅子を回して挨拶する。その自己紹介を聞き、蒼が驚きの声をあげていた。
「俺、アビス!」
「えっ、うそ......」
蓮が驚いたように立ち上がり、蒼に近付く。
「えっ、あの不幸体質の?」
「待って、その覚え方やめて!」
「月に1回段ボールに突っ込んでいるアビス? ニックスがいると嬉々としてKillを仕掛ける?」
「間違ってないけども!!」
何やら知り合いのようで盛り上がっている様子の2人に昴は呆気に取られた。
「まさか、こんなところでオフ会することになるとは思わなかった! RENも"サーカス"の一員なんだな!」
「ちょっと待ってください、蒼さん。レンと知り合いなのですか?」
慌てて尋ねると蒼と蓮は似たような悪戯っ子のような笑みを浮かべて声をそろえた。
「オンラインゲーム仲間!」
「オンラインゲーム、ですか」
「なーんだ、リーダーが改まってたから何事かと思ってた」
「いえ、私としては結構な覚悟を持って、ここまで来たのですが......」
嬉々として話している2人に昴は脱力感を覚えた。ポンっと誰かが昴の右肩に手を置く。振り向くと天音が同情するような顔で昴を見ていた。
「蒼と関わるってことはこういうことだ。諦めが肝心になってくるぞ、昴クン」
「......はい、それは少し理解できました」
昨日からの蒼の行動を昴は思い出す。駿河家で散々、蒼の厄介話は聞いていたが、このレベルだったとはと言葉を失いたくなった。
そんな昴の様子には全く気づかず、蓮と蒼は楽しそうに話している。
「あの......」
話が進まないと、昴は控えめに声をかける。2対の瞳が昴を捉える。
「あっ、そうだった! まさかのRENに会えた嬉しさで忘れてたわ!」
蒼はポンっと手を打つと、それまでの賑やかさはなりを潜めて、真剣な表情になった。そして、横に立っている蓮を見ると、単刀直入に尋ねる。
「ねぇ、ノアズ計画って知ってる?」
「......あー、過激派が立ててる計画な。知ってるけど、それがどうかしたん?」
「俺達、それの全貌が知りたくてここに来たんだけど」
「そうなん? リーダーも? 止める派? 便乗派?」
「......状況がわかりませんので、断言はできませんが、他者に迷惑が掛かるのならば止めたいと思っています」
何かを探るように昴を見る蓮に、思っていることをそのまま伝える。
他者に迷惑をかけない、それが昴が"サーカス"に唯一求める条件だ。そこだけは何があってもブレさせる気はなかった。
昴は蓮の瞳をしっかりと見つめて返す。
すると、蓮は安心したように笑った。
「1年も会ってなかったから、リーダーの考えが変わったんじゃないか少し心配だったんよ」
蓮はスタスタとゲーミングチェアに戻り、腰をかけるとマウスを使い、1番大きなモニターに一つの映像を映し出した。
ノアズ計画に関しての映像だろうかと、昴達はモニターに近付く。
それを確認して蓮は口を開いた。
「一応、この部屋は俺の能力で防音になってるがあまり大声は出さんようにして」
そして、モニターに映し出された映像を再生した。