ep134 今、できること
蒼が珠来への既視感について考えている間に映像は終わった。
モニターは黒く染まっている。
「とりあえず、ノアズ計画系はこれで全部だな。RENがまとめてくれたから思ったよりも早く終わったな!」
思考を一度止めて、蒼は後ろを振り返った。神妙な顔をしている隼斗と、顎に手を当てて考え込んでいる道徳。そして、少し影があるものの笑顔を保っている琉架が順番に目に入る。
一番状況が分かっていないのに、笑顔を保っている琉架が大物に思えた。
「これとは別に誘拐事件の話もあったけど、それはカメラじゃないから録画して送るのは無理だって」
「......そうか、そこは別に吹雪から情報を買うとするか」
道徳は深く頷きながら漏らす。やっぱり、唯華と繋がっていたかと蒼は驚くこともなく思った。
道徳は、蒼にもきっと情報共有をしてくれるだろう。蓮の情報と唯華の情報。この2つが入るのなら、ノアズ計画と並行して能力者誘拐事件への対策も神庭会と連携して動くことができる。
道徳は既に蒼が使えることを知っているのだから、のけ者にされる心配もない。蒼は確かな足掛かりを感じた。
「オヤジ、とりあえず俺達はノアズ計画実行時に、潰す方向で考えれば良いのか?」
「そうだな。まだ実態について不明なものについては、一旦横に置いておこう。まずは、確実に起こるものからだ。......といっても、本当に禍月組が関わってくるなら慎重に行かないといけない」
天音の確認に、道徳は頷く。そして室内にいる他のメンツの顔を一人ずつ見ていった。
「とりあえず、隼斗はそのまま"サーカス"内で状況を探ってくれ。さっき言っていたセキュリティ担当のガキにはある程度こっちの情報を流しても良いから、協力をさせろ。琉架はとりあえず、今見たやつらがうちの監視カメラに映ってるかの確認と、報告」
道徳の指示に2人は頷いた。そして、道徳は天音を見る。
「吹雪の情報次第では、能力を使用して禍月組に潜入して欲しい。頼めるか?」
「ああ、問題ねぇ。言われなくてもそのつもりだった」
「悪いな。お前の能力は潜入に向きすぎている」
「役に立てるなら、願ってもねぇことだから、気にしなくていいですよ」
蒼はその会話を見守りながら考える。自分も禍月組への侵入に巻き込まれに行こうかとも思った。しかし、ノアズ計画を潰すに当たり、蒼は珠来への引っかかりを先に解消することが先決だと判断し、喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
「蒼は......今日は泊まっていくだろう? あとで少し話をしよう」
「そうだな。了解!」
道徳は最後に蒼に話しかける。蒼も道徳とサシで話したいことがあったため、同意する。
隼斗からなんとも言えない視線を感じたが無視をする。
「とりあえず、俺は抜けてきたからそろそろ帰るわ。蓮に協力を仰げたら、オヤジや琉架さんに連絡すれば良いんすよね?」
「おい、隼斗。俺にまず、連絡しろよ! オヤジ達の手を煩わせるな」
「は? テンには禍月に潜入中の可能性あるから、今後下手に連絡できないだろう」
「あははっ。そうだな。天音の危険は最小限にしたい。動きがあれば、まずは俺に連絡しろ」
道徳は笑いながら有無を言わせない瞳で天音を見た。やや不服そうな表情を隠しもせずに天音は頷く。
「隼斗、とりあえず今回映っていたメンバーに関しては特に注意して見張ってろ。何かあればすぐに報告だ」
「わかってるっす。ついでに、俺の知っている範囲にはなるっすけど名前と能力、人格とかをまとめたのを早めに作成して送ります」
「おう。頼んだ」
道徳に任されて隼斗は嬉しそうに笑う。そして、琉架にも頭を下げて部屋の扉へと向かうと、天音と何かを小声で少し話して、扉を開けて去って行った。
いまから"サーカス"へ戻るのだろう。
「ねぇ、父さん」
隼斗が去って行く背中を見つめながら、琉架がおもむろに口を開いた。
道徳は視線だけで先を促す。
「守るためには、危険なこともしないといけないって分かってはいるよ。でも......」
考えながら言葉にしている様子の琉架を、蒼は椅子に座った状態で見守る。言いたいことは分かる。でも、その発言は伝え方次第では侮辱にもなりうる。きっと、琉架もそれが分かっているから言葉を選ぼうと考えているのだろうと察する。
「おい、琉架。覚悟が決まっていないならそれ以上は口に出すな。いずれはお前も上に立たないといけない。不安は下へと伝播する。堂々としていろとは言わねぇが、不安を下に気付かせるな。今回は、隼斗がいなくなってからだからまだ良いがな」
道徳も蒼と同じことを思ったようで、忠告していた。道徳の肩越しに見える天音は表情を読ませない。蒼にとっては揶揄いがいのある青年であるが、若くして神庭会の若頭に抜擢された経緯があるのをどこか納得させる表情管理に思わず、息をこぼす。
「そうだね、僕の考えが甘かった」
琉架は少し考えてから言葉を飲み込んだようにそう伝えると、視線をそらしていた。
神庭会の信条には向いている。でも、トップになるには優しすぎて向いていないんだろうなと蒼は心の中で判断する。
「まぁ、そこが琉架の良いところですよ、オヤジ。俺も補佐はするしさ」
天音が明るい声で2人に近付く。蒼は椅子に座りながら3人を観察した。現在の神庭会、そして未来の神庭会、どちらもを繋ぐ架け橋が天音だと実感した。
道徳は小さく息を吐くと、頭をガシガシとかく。
「そうだな、俺もまだ引退する気はねぇしな。だが、いずれお前は上に立つことだけは忘れるなよ?」
道徳は小さく琉架に釘を刺すと部屋を出て行った。
「あはは、厳しいね」
「それだけ、期待しているってことだろ」
「ふふ、ありがとね、天音」
慰めとも違う、信頼し合った空気を2人から感じる。蒼も自分は邪魔だろうなと判断して、椅子から立ち上がる。
「じゃ、俺も食べ物調達してくるから、また後でね!」
蒼はそう告げて、返事も聞かずに部屋を出た。近くのスーパーかコンビニで食料を調達して、ついでに時間を潰せるものも仕入れよう。
神庭会の何人かとは仲が良いが、決して安心できる環境ではないことを蒼は直感で知っていた。自分がこの家では決して寝ることができないと分かっている蒼は、それでも情報収集のためにこの家に泊まることを決めたのだ。
蒼は適当に歩きながら、今後の自分の行動についてを頭の中で整理した。