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ep107 常識

固まる昴の手を蒼は取った。そもそも蒼が昴の部屋に来た目的は明日の相談じゃない。ハッキングした映像の確認をしてもらうためだ。

「じゃ、すーさん、行くよ!」
「待ってください、行くってどこにですか!?」
「俺の部屋! 見て欲しいものがあってさ」

 戸惑う昴に蒼は最低限の説明だけする。グイグイと急かすように昴の手を引く。控えめなため息と共に諦めたような声が後ろから漏れ聞こえる。

「わかりました。行きますので腕を離してもらってもいいですか? ......その、歩きづらくて」

 最後の方は少し言葉を詰まらせながら言う。不思議に思い、蒼は振り返った。身体を前屈みにして確かに歩きづらそうだ。
 少し考え、身長差からかと納得する。昴は蒼が身長を気にしてると思っているから気を遣ったのかと確信する。

 別に蒼は身長は気にしていない。蒼が気にするのは見た目だけで判断されることだ。身長から小学生だろう、一人称が俺で短髪に見えるから少年だろう。そういう決めつけが嫌いなだけだ。
 しかし、わざわざ昴に説明する理由もない。だから蒼は腕を離して笑う。

「悪い、じゃあ改めて俺の部屋に行くからついてきて」

 自分でかけた部屋の鍵を開け、扉を開く。そして後ろを振り向き、どこか戸惑っている昴に再度声をかけると先に部屋を出た。
 すぐに慌てて追いかけてくる気配を感じながら、蒼は今度は振り向かずに階段を降りる。
 
 部屋に着くと、後ろをついてきていた昴を招き入れて鍵もしっかりと閉める。
 そして、部屋の奥へと案内する。
 スリープモードにしていたパソコンを切り替えて、先程まで見てた防犯カメラのハッキング映像を表示する。

「すーさんには、これを見て欲しくてさ。知り合いだったりする?」

 蒼の後ろから昴がパソコン画面を覗き込む。そして、息を呑む音がした。
 蒼は振り返る。そして、拡大された4人の写真を見て目を見開いている昴を見てバレないように笑う。
 
「――っ、こ、この方達は?」

 昴は冷静を取り繕おうとしているが、全くできていない。

「右の2人が、警察に引き渡した奴らで、残りの2人はお仲間だと思われる奴ら」
「......思われる、ですか?」
「話していたから仲間とは決めつけられないし、ミサンガもタトゥーも見つけられなかったから、暫定」
「......」

 昴の疑問に蒼はなんでもないことのように答える。蒼の目は拳を握り震えている昴を捉えていた。
 
 籠の中の鳥。

 時折、昴に対してそんな印象を抱くことはあった。今の様子はまさにそれだ。さらに1年以上籠の中にいたから、飛び方すら忘れているのではないかとさえ思える。
 
「で、すーさんの知り合いか?」
「――っ!?」

 蒼の問いに昴は後退り、視線を逸らした。その行動だけで知り合いって言ってるようなものだろうと蒼は内心で笑う。

「でもこいつらが何か知ってる気はするから、聞き出そうと思ってさ。......ほら、ミサンガの特性をどれだけ知ってるかとかさ」

 それでも昴の心情を察して、気を使うなんてことを蒼はしない。だから、思ったことをそのまま口にする。昴の動揺など知ったことがないとでもいうように。
 わずかに蒼とパソコンから距離をとっている昴をただ感情の読めない瞳で見つめる。

「ゆいが放置すると面倒になると自主的に動いている時点で、ノアズ計画ってのは碌なもんじゃないだろうしな」
「......そうですね。選ばれた物だけが、という意味でしたら本来の"サーカス"の思想ともズレます。迷惑をかけずに島を出るだけなら、少し話は変わってきますが」

 少しだけ冷静になったのか蒼の独り言に昴が少しぎこちなく答えが返ってくる。その内容を頭の中で噛み砕き、蒼は一つ訂正することにした。
 蒼の中では当たり前だが、この島の常識からは逸脱した情報を迷わずに口にする。

「ん? 別に島から出るのは難しくないと思うけど?」
「......はい?」

 一瞬時が止まったような、不自然な沈黙が流れる。見つめている昴は珍しく表情を繕えないようで、信じられないものを聞いたような顔で固まっている。
 しかし、それはすぐに解けた。焦ったような表情に変わったと思った瞬間、昴の両手は蒼の肩に置かれた。

 避けようと思えば避けられたそれを蒼は敢えて避けなかった。必要性を感じなかったし、危険性もない。
 それに変に昴の中にある疑問をそのまま放置して変な方向に暴走された方が大変だと判断した。

「待ってください。島から抜け出すのが難しくないとはどういうことですか」
「そのまんまの意味。というか、俺もゆいもたまにそのルートで本島に行ってるぜ?」
「――!? 待ってください。吹雪能力者が島の外に普通に出ているって事ですか?」

 なんでそんなに驚愕しているのだろうと蒼は疑問に思う。島での常識と蒼の中での常識はかなりズレている。その自覚はあったが、根本的に規格外の唯華を基準にしているせいで能力者に対する常識はさらにおかしなことになっていた。

「出れるよ? 実際にゆい......吹雪に依頼して島から一時的に出た人も知ってるし。隠蔽が面倒だから確実に戻ってくる奴らからしか依頼は受けてないみたいだけど」

 蒼の言葉に今度こそ、昴は何も返さなかった。ただ肩を掴む力が少し強くなる。痛くないからいいやと蒼はしばらくその様子を眺めていた。
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ぱんどら ―治外法権の島で巻き起こる異能サスペンスと秘された謎―作者:星川宙
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ep107 常識

固まる昴の手を蒼は取った。そもそも蒼が昴の部屋に来た目的は明日の相談じゃない。ハッキングした映像の確認をしてもらうためだ。

「じゃ、すーさん、行くよ!」
「待ってください、行くってどこにですか!?」
「俺の部屋! 見て欲しいものがあってさ」

 戸惑う昴に蒼は最低限の説明だけする。グイグイと急かすように昴の手を引く。控えめなため息と共に諦めたような声が後ろから漏れ聞こえる。

「わかりました。行きますので腕を離してもらってもいいですか? ......その、歩きづらくて」

 最後の方は少し言葉を詰まらせながら言う。不思議に思い、蒼は振り返った。身体を前屈みにして確かに歩きづらそうだ。
 少し考え、身長差からかと納得する。昴は蒼が身長を気にしてると思っているから気を遣ったのかと確信する。

 別に蒼は身長は気にしていない。蒼が気にするのは見た目だけで判断されることだ。身長から小学生だろう、一人称が俺で短髪に見えるから少年だろう。そういう決めつけが嫌いなだけだ。
 しかし、わざわざ昴に説明する理由もない。だから蒼は腕を離して笑う。

「悪い、じゃあ改めて俺の部屋に行くからついてきて」

 自分でかけた部屋の鍵を開け、扉を開く。そして後ろを振り向き、どこか戸惑っている昴に再度声をかけると先に部屋を出た。
 すぐに慌てて追いかけてくる気配を感じながら、蒼は今度は振り向かずに階段を降りる。
 
 部屋に着くと、後ろをついてきていた昴を招き入れて鍵もしっかりと閉める。
 そして、部屋の奥へと案内する。
 スリープモードにしていたパソコンを切り替えて、先程まで見てた防犯カメラのハッキング映像を表示する。

「すーさんには、これを見て欲しくてさ。知り合いだったりする?」

 蒼の後ろから昴がパソコン画面を覗き込む。そして、息を呑む音がした。
 蒼は振り返る。そして、拡大された4人の写真を見て目を見開いている昴を見てバレないように笑う。
 
「――っ、こ、この方達は?」

 昴は冷静を取り繕おうとしているが、全くできていない。

「右の2人が、警察に引き渡した奴らで、残りの2人はお仲間だと思われる奴ら」
「......思われる、ですか?」
「話していたから仲間とは決めつけられないし、ミサンガもタトゥーも見つけられなかったから、暫定」
「......」

 昴の疑問に蒼はなんでもないことのように答える。蒼の目は拳を握り震えている昴を捉えていた。
 
 籠の中の鳥。

 時折、昴に対してそんな印象を抱くことはあった。今の様子はまさにそれだ。さらに1年以上籠の中にいたから、飛び方すら忘れているのではないかとさえ思える。
 
「で、すーさんの知り合いか?」
「――っ!?」

 蒼の問いに昴は後退り、視線を逸らした。その行動だけで知り合いって言ってるようなものだろうと蒼は内心で笑う。

「でもこいつらが何か知ってる気はするから、聞き出そうと思ってさ。......ほら、ミサンガの特性をどれだけ知ってるかとかさ」

 それでも昴の心情を察して、気を使うなんてことを蒼はしない。だから、思ったことをそのまま口にする。昴の動揺など知ったことがないとでもいうように。
 わずかに蒼とパソコンから距離をとっている昴をただ感情の読めない瞳で見つめる。

「ゆいが放置すると面倒になると自主的に動いている時点で、ノアズ計画ってのは碌なもんじゃないだろうしな」
「......そうですね。選ばれた物だけが、という意味でしたら本来の"サーカス"の思想ともズレます。迷惑をかけずに島を出るだけなら、少し話は変わってきますが」

 少しだけ冷静になったのか蒼の独り言に昴が少しぎこちなく答えが返ってくる。その内容を頭の中で噛み砕き、蒼は一つ訂正することにした。
 蒼の中では当たり前だが、この島の常識からは逸脱した情報を迷わずに口にする。

「ん? 別に島から出るのは難しくないと思うけど?」
「......はい?」

 一瞬時が止まったような、不自然な沈黙が流れる。見つめている昴は珍しく表情を繕えないようで、信じられないものを聞いたような顔で固まっている。
 しかし、それはすぐに解けた。焦ったような表情に変わったと思った瞬間、昴の両手は蒼の肩に置かれた。

 避けようと思えば避けられたそれを蒼は敢えて避けなかった。必要性を感じなかったし、危険性もない。
 それに変に昴の中にある疑問をそのまま放置して変な方向に暴走された方が大変だと判断した。

「待ってください。島から抜け出すのが難しくないとはどういうことですか」
「そのまんまの意味。というか、俺もゆいもたまにそのルートで本島に行ってるぜ?」
「――!? 待ってください。吹雪能力者が島の外に普通に出ているって事ですか?」

 なんでそんなに驚愕しているのだろうと蒼は疑問に思う。島での常識と蒼の中での常識はかなりズレている。その自覚はあったが、根本的に規格外の唯華を基準にしているせいで能力者に対する常識はさらにおかしなことになっていた。

「出れるよ? 実際にゆい......吹雪に依頼して島から一時的に出た人も知ってるし。隠蔽が面倒だから確実に戻ってくる奴らからしか依頼は受けてないみたいだけど」

 蒼の言葉に今度こそ、昴は何も返さなかった。ただ肩を掴む力が少し強くなる。痛くないからいいやと蒼はしばらくその様子を眺めていた。
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ぱんどら ―治外法権の島で巻き起こる異能サスペンスと秘された謎―作者:星川宙
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