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ep106 悪魔の囁き

4人の男達の1週間程の行動を洗った蒼は、一度パソコンをスリープモードにすると立ち上がる。そして床に落ちていた帽子を手に取り、ぐるぐると回す。

「よしっ、とりあえずすーさんのところに行くか!」

 昴がこの家に来た経緯、本人は隠している様子があるが、条件付きの自由行動、そして今日の"サーカス"の名を聞いた後の顔色の悪さ。
 これだけ情報が揃っていれば昴が"サーカス"の関係者だということを察するには十分だ。きっと昴は聞いても答えてはくれないだろう。

 やろうと思えば、嵌めて聞き出す方法も何個か思いついた。しかし、それを実行するには昴はこの家に馴染みすぎている。
 やったら住人に軽蔑される自信はかなりある。蒼にとっても駿河家は第二の実家だ。気まずくて来れなくなるのは避けたい。

 だから、蒼は攻め方を変えることにした。ノアズ計画を暴くのに昴を巻き込もうと決める。きっと、中原や美月の目の届く範囲でという縛りがあるであろうということは想像が容易い。
 蒼は回していた帽子を髪を隠しながら被り直すと、大きく伸びをした。

「屁理屈で丸め込めばいいよな? ゆいにバレても俺は痛くも痒くもないし!」

 口元を緩めながら蒼は部屋から出ると昴に振り分けられた部屋へと向かう。
 階段を上りながら蒼はどうやって昴を巻き込むかを考える。中原は知らないが、唯華や美月は蒼がいることで昴が巻き込まれる可能性は考慮しているはず。
 なら、なんの問題もないはずだと勝手に結論付ける。

 軽やかな足取りで階段を上り終わると蒼は迷わずに昴の部屋の扉をノックもせずに開けた。

「すーさん、いるー?」
「――っ!? 蒼さん、いきなりどうされましたか?」

 突然開いた扉に昴はビクリと体を震わせている。先程までベッドに座っていたのか、ベッドの前で開いた扉を色素の薄い瞳を見開きながら立ち尽くしている。
 扉が開いた瞬間に立ち上がったのがそれだけでわかる。しかし、蒼は気にしない。

 迷わずに部屋の中に入ると扉を閉めて念の為に鍵もかける。かけながらも、ここの住人で迷わずに扉を開けるのは自分だけだよなと蒼は内心で笑う。

「すーさん、明日暇?」
「明日、ですか? えっ、明日って平日ですよね? 蒼さん、学校は?」

 蒼が入ってきてからずっと驚いている様子の昴は、戸惑いながらも壁に掛かっているカレンダーと蒼を交互に見ている。
 明日は木曜日、普通なら学校に行くところだろう。しかし、蒼は元々保健室登校をしており、テストにさえ出て結果を出せばいいと校長から言われている。
 だから蒼が学校に行かなくても問題はない。しかし、昴はそれを知らない。
 わざわざ言う必要もないため、蒼は昴の真っ当な疑問をスルーすることにした。

「学校に関しては、問題ない! で、すーさん、予定ある? ないよね?」
「いえ、問題はあるのでは......? 確かに私は明日の予定はありませんが......」
「よし! なら決まり」
「えっ、待ってください。勝手に決められても困ります」

 戸惑った様子で昴は蒼に向けて、左掌を向ける。右手は頭を抱えている。蒼は一旦、口を開いた状態で止まるもすぐに口を閉じた。
 そして昴の様子を観察する。微かに震えている左手、動揺に揺れる白銀の瞳、呼吸の様子も気持ち速くなっているように感じる。心拍数も上がっているのか? と蒼は不思議に思う。

 とりあえず蒼は一度話を進めるのをやめて、昴の様子を見守ることにした。昴もそれを感じたのか、両手を横に下ろすと深呼吸をした。
 少しすると落ち着いたのか、蒼をしっかりと見つめる。

「蒼さんの学校の件は、とりあえず納得はします。ですが、私はこの家を出るには――」
「あー、中原さんとかみぃさんの監視が必要って感じのやつ?」
「......知っていたんですか?」
「いや、聞いてはないけど。1年も見てたら流石に推測はできるって」

 話を聞きながら、どんどんと深刻な顔をする昴を見て蒼は首を傾げる。そんなに不思議なことかと蒼には理解できない。
 これまでの行動で必要な情報は揃っている。そこから推測するのはあまりにも容易だ。

「......そうですか」

 どこか陰のある表情で昴は蒼から視線を外す。その行動に、蒼の中にあった仮説が一つ真実味を帯びてきた。
 少し考えてから蒼は視線を逸らす昴を見つめながら口を開く。

「やっぱり、すーさんって"サーカス"の創始者とか創設メンバーとか?」
「――っ!?」

 バッと勢いよく昴が蒼を見る。見開かれた瞳は驚愕に震えていた。隠すんなら、そんなに素直に反応したらダメだろうと蒼は思った。

 唯華が支配下に置いている時点で普通の人間ではないことは明白だ。そして能力者であること、思考は善人よりなのに特対の監視も必要。
 そこから"サーカス"には辿り着くのは難しくない。さらに創始者は一般人への被害を出さないようにしていると聞いたことがあった。普段の昴の様子からその思想ともブレない。

 こんなに揃っていたら、気付いてくださいと言ってるものなのになと蒼は思う。普通の人はそこまで気にして人を見ないし、観察もしないと蒼は知らない。
 感情が芽生える前から人間のふりをするために人間観察をしていた。その結果、人の機敏には聡い方だ。しかし、比較対象が圭哉と唯華の2人のため、蒼は徹底的に無自覚にズレている。

「まあ、俺にとってはそれはどうでもいいんだけどさ」

 だから蒼は笑う。そして、昴に手を差し伸べながら悪魔の囁きをする。

「協力して欲しいことがあるから、明日はここを抜け出そう!」

 蒼の言葉に今度こそ、昴は固まった。
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ぱんどら ―治外法権の島で巻き起こる異能サスペンスと秘された謎―作者:星川宙
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4人の男達の1週間程の行動を洗った蒼は、一度パソコンをスリープモードにすると立ち上がる。そして床に落ちていた帽子を手に取り、ぐるぐると回す。

「よしっ、とりあえずすーさんのところに行くか!」

 昴がこの家に来た経緯、本人は隠している様子があるが、条件付きの自由行動、そして今日の"サーカス"の名を聞いた後の顔色の悪さ。
 これだけ情報が揃っていれば昴が"サーカス"の関係者だということを察するには十分だ。きっと昴は聞いても答えてはくれないだろう。

 やろうと思えば、嵌めて聞き出す方法も何個か思いついた。しかし、それを実行するには昴はこの家に馴染みすぎている。
 やったら住人に軽蔑される自信はかなりある。蒼にとっても駿河家は第二の実家だ。気まずくて来れなくなるのは避けたい。

 だから、蒼は攻め方を変えることにした。ノアズ計画を暴くのに昴を巻き込もうと決める。きっと、中原や美月の目の届く範囲でという縛りがあるであろうということは想像が容易い。
 蒼は回していた帽子を髪を隠しながら被り直すと、大きく伸びをした。

「屁理屈で丸め込めばいいよな? ゆいにバレても俺は痛くも痒くもないし!」

 口元を緩めながら蒼は部屋から出ると昴に振り分けられた部屋へと向かう。
 階段を上りながら蒼はどうやって昴を巻き込むかを考える。中原は知らないが、唯華や美月は蒼がいることで昴が巻き込まれる可能性は考慮しているはず。
 なら、なんの問題もないはずだと勝手に結論付ける。

 軽やかな足取りで階段を上り終わると蒼は迷わずに昴の部屋の扉をノックもせずに開けた。

「すーさん、いるー?」
「――っ!? 蒼さん、いきなりどうされましたか?」

 突然開いた扉に昴はビクリと体を震わせている。先程までベッドに座っていたのか、ベッドの前で開いた扉を色素の薄い瞳を見開きながら立ち尽くしている。
 扉が開いた瞬間に立ち上がったのがそれだけでわかる。しかし、蒼は気にしない。

 迷わずに部屋の中に入ると扉を閉めて念の為に鍵もかける。かけながらも、ここの住人で迷わずに扉を開けるのは自分だけだよなと蒼は内心で笑う。

「すーさん、明日暇?」
「明日、ですか? えっ、明日って平日ですよね? 蒼さん、学校は?」

 蒼が入ってきてからずっと驚いている様子の昴は、戸惑いながらも壁に掛かっているカレンダーと蒼を交互に見ている。
 明日は木曜日、普通なら学校に行くところだろう。しかし、蒼は元々保健室登校をしており、テストにさえ出て結果を出せばいいと校長から言われている。
 だから蒼が学校に行かなくても問題はない。しかし、昴はそれを知らない。
 わざわざ言う必要もないため、蒼は昴の真っ当な疑問をスルーすることにした。

「学校に関しては、問題ない! で、すーさん、予定ある? ないよね?」
「いえ、問題はあるのでは......? 確かに私は明日の予定はありませんが......」
「よし! なら決まり」
「えっ、待ってください。勝手に決められても困ります」

 戸惑った様子で昴は蒼に向けて、左掌を向ける。右手は頭を抱えている。蒼は一旦、口を開いた状態で止まるもすぐに口を閉じた。
 そして昴の様子を観察する。微かに震えている左手、動揺に揺れる白銀の瞳、呼吸の様子も気持ち速くなっているように感じる。心拍数も上がっているのか? と蒼は不思議に思う。

 とりあえず蒼は一度話を進めるのをやめて、昴の様子を見守ることにした。昴もそれを感じたのか、両手を横に下ろすと深呼吸をした。
 少しすると落ち着いたのか、蒼をしっかりと見つめる。

「蒼さんの学校の件は、とりあえず納得はします。ですが、私はこの家を出るには――」
「あー、中原さんとかみぃさんの監視が必要って感じのやつ?」
「......知っていたんですか?」
「いや、聞いてはないけど。1年も見てたら流石に推測はできるって」

 話を聞きながら、どんどんと深刻な顔をする昴を見て蒼は首を傾げる。そんなに不思議なことかと蒼には理解できない。
 これまでの行動で必要な情報は揃っている。そこから推測するのはあまりにも容易だ。

「......そうですか」

 どこか陰のある表情で昴は蒼から視線を外す。その行動に、蒼の中にあった仮説が一つ真実味を帯びてきた。
 少し考えてから蒼は視線を逸らす昴を見つめながら口を開く。

「やっぱり、すーさんって"サーカス"の創始者とか創設メンバーとか?」
「――っ!?」

 バッと勢いよく昴が蒼を見る。見開かれた瞳は驚愕に震えていた。隠すんなら、そんなに素直に反応したらダメだろうと蒼は思った。

 唯華が支配下に置いている時点で普通の人間ではないことは明白だ。そして能力者であること、思考は善人よりなのに特対の監視も必要。
 そこから"サーカス"には辿り着くのは難しくない。さらに創始者は一般人への被害を出さないようにしていると聞いたことがあった。普段の昴の様子からその思想ともブレない。

 こんなに揃っていたら、気付いてくださいと言ってるものなのになと蒼は思う。普通の人はそこまで気にして人を見ないし、観察もしないと蒼は知らない。
 感情が芽生える前から人間のふりをするために人間観察をしていた。その結果、人の機敏には聡い方だ。しかし、比較対象が圭哉と唯華の2人のため、蒼は徹底的に無自覚にズレている。

「まあ、俺にとってはそれはどうでもいいんだけどさ」

 だから蒼は笑う。そして、昴に手を差し伸べながら悪魔の囁きをする。

「協力して欲しいことがあるから、明日はここを抜け出そう!」

 蒼の言葉に今度こそ、昴は固まった。
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ぱんどら ―治外法権の島で巻き起こる異能サスペンスと秘された謎―作者:星川宙
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