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ep136 後悔先に立たず

 食堂には住人達が揃っていた。みんな、昴を見ると声をかけてくる。
 返答をしながらも、昴は先程の唯華との会話を思い出した。
 "サーカス"か、駿河家かどちらかを選ぶ。昴の考えは変わってはいない。それでも、この暖かな食卓にいられるのも期限付きなんだなと思うとどこか寂しさを覚える。

「お疲れ様、昴君。蒼に振り回されて大変じゃなかった?」

 皿出しをしながら、昴に気付いた美月が少し心配そうに尋ねてきた。

「大丈夫でしたよ。知らないといけないことも、知ることができました。......許可を出してくださって、ありがとうございます」
「そんなに、改まらなくて大丈夫よ。ゆいは思惑があるみたいだけど、私達は気にしてないしね。それにここまで放置してる時点で、問題視してないと思うから正直、蒼発案じゃなければ私も気にしなかったと思うの」

 美月はウィンクしながら、昴にだけ聞こえる声で話す。

 敵わないなと昴は思った。
 一部例外はいるが、駿河家の人間は成熟した考えの住人が多い。差別的な考えはせず、能力者ばかりのコミュニティといえども、能力者もそれ以外にも平等に接する。
 それがこの場所の特殊性なのか、元からの資質なのかは昴には測れない。それでも後者だったらいいなといつも思ってしまう。

 食事が終わると、昴はいつも通り美月の片付けの手伝いをする。

「チラッと聞こえたんだけど、昴さんは今日蒼に連れ回されてたの? お疲れ様」

 同じく皿を片付けていた理人が少し同情するように昴に声をかけた。
 昴は手を止めずに理人を見る。

「いえ、私も得るものがあったので......」

 内容は話せないが、それは本心だった。それが通じたのか、理人の笑顔から少しだけ同情が消える。

「そう、得るものがあったならよかったよ。蒼は場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、自分だけ得をして終わることが多いからさ」

 笑いながらも遠い目をする理人にきっと様々なことに巻き込まれてきたんだろうなと少しだけ同情した。

「本当にね。この家に辿り着く前に蒼と知り合っていたらと思うと、ここはこんな場所じゃなかったかもしれないものね」
「本当だよね、美月ちゃん。......あの頃に蒼と知り合っていたら俺はやさぐれてた自信あるよ」
「そうだね。少なくとも別の意味で修羅場になっていただろうね」

 美月と理人は懐かしそうに微笑みあう。

「修羅場......ですか?」

 こことは不釣り合いなその単語に昴は首を傾げた。

「うん。昴さんは今のここしか知らないから信じられないかもしれないけどさ」

 理人は前置きをするようにして笑う。

「俺はさ、この島生まれなんだけど小さい頃に能力が発芽したと同時に暴走して、まあ家族に捨てられたんだよね。不幸中の幸いは、化け物が家族にいると知られたくないっていう両親のプライドで俺が能力者だってことに口をつぐんでくれたことかな?」

 すでに理人の中ではケリがついているのだろう。なんてことのないように笑う。
 昴はそれに胸が締め付けられるような思いだった。
 自分よりも年下の少年がそんな目にあっていたということに。

 昴の能力は使用してもほとんどの人は感知できない。しかし、理人の能力はどうだろうか、サイコキネシスは目に見える。発芽した頃ならそれこそ制御すら難しい。
 普段は笑顔の理人からは考えられない過去にかける言葉も見つけられない。

「あっ、そんなに深刻にならなくて大丈夫だよ? 幸運なことに、捨てられてすぐにゆいと会って......まあ、色々とあったけど今は普通に幸せだからさ」
「そう......ですか」
「うん、その色々が結構な修羅場でさ。主にゆいが今の安寧よりも未来の安寧って考えで、気付いたら裏組織に喧嘩売ってるわ、何だってさ。俺も月陽ちゃんもそれである程度は裏に片足突っ込むことになってさ」

 話しながらもどんどん目は遠くを見始めた理人に、昴は心労を察した。
 1年以上お世話になっていながら、表の部分しか見ていなかった自分が少し恥ずかしくなる。

 "サーカス"を自分が仲間と作った時はどうだっただろうか? と考える。
 ただ、能力者の安寧だけを考えて、居場所さえ作れば何とかなるとそれだけを考えて、来るもの拒まず、去るもの追わずの精神でまとめてきていた。
 その結果が、今の自分だ。
 蓮など、いまだに慕ってくれている人達もいる。
 それでも、思想の違いから自分は裏切られている。

 ――何を間違えたのだろう。
 
 そう考えて、昴はハッとした。自分は間違えたわけではない。"サーカス"に救われた人間は確かにいる。それは昴の妄想ではなく事実だと知っている。
 だから決して、昴だけは間違えたと思ってはいけないのだ。

 それでも、自分が唯華ほどの危機管理能力があればまた違ったのかなと思ってしまう。後悔は先に立たない。それでも、自分が中心となって創設した。全てのメンバーに見捨てられるまでは昴は、"サーカス"を作ったことだけは後悔してはいけない。
 裏切りを知ってから、もう何度目かわからなくなった自己暗示を行う。

 ただ、少しでも助け合えればという思想は駿河家ここと一緒のはずだ。しかし、何故こんなにも理想と変わってしまったのか。
 昴は矛盾を抱えながら、それでも自分の信念を曲げることはできなかった。
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ぱんどら ―治外法権の島で巻き起こる異能サスペンスと秘された謎―作者:星川宙
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ep136 後悔先に立たず

 食堂には住人達が揃っていた。みんな、昴を見ると声をかけてくる。
 返答をしながらも、昴は先程の唯華との会話を思い出した。
 "サーカス"か、駿河家かどちらかを選ぶ。昴の考えは変わってはいない。それでも、この暖かな食卓にいられるのも期限付きなんだなと思うとどこか寂しさを覚える。

「お疲れ様、昴君。蒼に振り回されて大変じゃなかった?」

 皿出しをしながら、昴に気付いた美月が少し心配そうに尋ねてきた。

「大丈夫でしたよ。知らないといけないことも、知ることができました。......許可を出してくださって、ありがとうございます」
「そんなに、改まらなくて大丈夫よ。ゆいは思惑があるみたいだけど、私達は気にしてないしね。それにここまで放置してる時点で、問題視してないと思うから正直、蒼発案じゃなければ私も気にしなかったと思うの」

 美月はウィンクしながら、昴にだけ聞こえる声で話す。

 敵わないなと昴は思った。
 一部例外はいるが、駿河家の人間は成熟した考えの住人が多い。差別的な考えはせず、能力者ばかりのコミュニティといえども、能力者もそれ以外にも平等に接する。
 それがこの場所の特殊性なのか、元からの資質なのかは昴には測れない。それでも後者だったらいいなといつも思ってしまう。

 食事が終わると、昴はいつも通り美月の片付けの手伝いをする。

「チラッと聞こえたんだけど、昴さんは今日蒼に連れ回されてたの? お疲れ様」

 同じく皿を片付けていた理人が少し同情するように昴に声をかけた。
 昴は手を止めずに理人を見る。

「いえ、私も得るものがあったので......」

 内容は話せないが、それは本心だった。それが通じたのか、理人の笑顔から少しだけ同情が消える。

「そう、得るものがあったならよかったよ。蒼は場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、自分だけ得をして終わることが多いからさ」

 笑いながらも遠い目をする理人にきっと様々なことに巻き込まれてきたんだろうなと少しだけ同情した。

「本当にね。この家に辿り着く前に蒼と知り合っていたらと思うと、ここはこんな場所じゃなかったかもしれないものね」
「本当だよね、美月ちゃん。......あの頃に蒼と知り合っていたら俺はやさぐれてた自信あるよ」
「そうだね。少なくとも別の意味で修羅場になっていただろうね」

 美月と理人は懐かしそうに微笑みあう。

「修羅場......ですか?」

 こことは不釣り合いなその単語に昴は首を傾げた。

「うん。昴さんは今のここしか知らないから信じられないかもしれないけどさ」

 理人は前置きをするようにして笑う。

「俺はさ、この島生まれなんだけど小さい頃に能力が発芽したと同時に暴走して、まあ家族に捨てられたんだよね。不幸中の幸いは、化け物が家族にいると知られたくないっていう両親のプライドで俺が能力者だってことに口をつぐんでくれたことかな?」

 すでに理人の中ではケリがついているのだろう。なんてことのないように笑う。
 昴はそれに胸が締め付けられるような思いだった。
 自分よりも年下の少年がそんな目にあっていたということに。

 昴の能力は使用してもほとんどの人は感知できない。しかし、理人の能力はどうだろうか、サイコキネシスは目に見える。発芽した頃ならそれこそ制御すら難しい。
 普段は笑顔の理人からは考えられない過去にかける言葉も見つけられない。

「あっ、そんなに深刻にならなくて大丈夫だよ? 幸運なことに、捨てられてすぐにゆいと会って......まあ、色々とあったけど今は普通に幸せだからさ」
「そう......ですか」
「うん、その色々が結構な修羅場でさ。主にゆいが今の安寧よりも未来の安寧って考えで、気付いたら裏組織に喧嘩売ってるわ、何だってさ。俺も月陽ちゃんもそれである程度は裏に片足突っ込むことになってさ」

 話しながらもどんどん目は遠くを見始めた理人に、昴は心労を察した。
 1年以上お世話になっていながら、表の部分しか見ていなかった自分が少し恥ずかしくなる。

 "サーカス"を自分が仲間と作った時はどうだっただろうか? と考える。
 ただ、能力者の安寧だけを考えて、居場所さえ作れば何とかなるとそれだけを考えて、来るもの拒まず、去るもの追わずの精神でまとめてきていた。
 その結果が、今の自分だ。
 蓮など、いまだに慕ってくれている人達もいる。
 それでも、思想の違いから自分は裏切られている。

 ――何を間違えたのだろう。
 
 そう考えて、昴はハッとした。自分は間違えたわけではない。"サーカス"に救われた人間は確かにいる。それは昴の妄想ではなく事実だと知っている。
 だから決して、昴だけは間違えたと思ってはいけないのだ。

 それでも、自分が唯華ほどの危機管理能力があればまた違ったのかなと思ってしまう。後悔は先に立たない。それでも、自分が中心となって創設した。全てのメンバーに見捨てられるまでは昴は、"サーカス"を作ったことだけは後悔してはいけない。
 裏切りを知ってから、もう何度目かわからなくなった自己暗示を行う。

 ただ、少しでも助け合えればという思想は駿河家ここと一緒のはずだ。しかし、何故こんなにも理想と変わってしまったのか。
 昴は矛盾を抱えながら、それでも自分の信念を曲げることはできなかった。
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ぱんどら ―治外法権の島で巻き起こる異能サスペンスと秘された謎―作者:星川宙
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