ep137 それぞれの思惑
昴は理人達と分かれて、部屋に戻った。扉の鍵をかけると一息つく。
ポケットから、刑務所を出てから美月に渡された携帯を取り出す。そして、"サーカス"のアジトで蓮から渡されたメモを開く。
もしかしたら、携帯の中に情報を抜かれるかもしれないと使用を渋っていた。しかし、先程訪れた唯華の発言を考えると、昴が警戒するほど唯華はこちらに興味がなかったようにも感じた。
昴は少し考えてから、蓮のアドレスを打ち込みメールを送る。
――仮に蒼に頼まれても、能力で録画した珠来と慎吾の動画は送らないで欲しい。
昴の直感が告げていた。ノアズ計画において、あの情報は不要なものなのではないかと。理由までは分からない。ただ、あまり大勢にあの会話を流出させるのは良くない気がした。
少ししてから、蓮から返事があった。
《画面録画したつもりだったんだけど、押し忘れてたみたい》
その、内容を見て息を吐く。
「良かった......」
口から自然と言葉が漏れた。今後の予定は蓮の連絡があってからだ。それまでの間に、自分がどうしたいかを考える。昴はベッドに横になると、腕で目を覆った。
「私が、"サーカス"のためにできることは......」
すぐには答えが出ないことは分かっていた。それでも少しでも良い方向に導けるように、昴は考えることしかできない。
◇◇◇◇
人通りのない、真っ暗な夜道を歩きながら唯華は携帯に番号を打ち込み電話をかける。数コールで相手は出た。
「神庭道徳だな?」
『......吹雪か』
相手の警戒する声を聞き、唯華はにやりと笑う。電灯もない道を月灯りだけが照らしている。
『何のようだ?』
「いや、今日の動きからこちらに用があると思ってな。こっちもこれから忙しくなる。連絡が取れなくなる前に商売でもしておこうかとね」
『......相変わらずの、金の亡者だな。どこまで知っている?』
「だいたいは知っている。貴方達が、勘違いをしていることもな」
『何だと?』
さらに低くなる道徳の声を聞きながら、唯華はチラリと視線を右に逸らす。先程まではなかった小さな洞窟の入口がそこにはあった。
唯華は口の中でため息を処理すると、視線を逸らして夜空を見上げた。
「貴方達は、どうせ春宮珠来を警戒しているんだろ? あれはただの小物だ」
『禍月と繋がっているのにか......?』
「へぇ、そこまで掴んでいたのか。それは予想外だった。春宮珠来の能力は禍月に利用価値がある、ただ泳がされているだけの小物だ。ついでに、貴方のところの若頭――天童天音だったか? を禍月組に潜入させる気なら、時間の無駄だからやめておけ」
唯華は寂れた灯台の下まで来ると、月明かりに照らされた海を柵に体を預けながら見る。微かに潮の香りが鼻腔をくすぐった。視界を灯台の方に移すと、唯華についてきたかのように、先程と同じ大きさの洞窟の入口があった。
少し呆れたように息を吐く。
『どういうことだ?』
「本島と禍月組関連は既に特対が動いている。それに、今の禍月の内部には重要なものはほとんどない。今は、本島で作戦会議中だ」
『......本当か?』
「嘘をつく理由がない。それにこの件はこちらでなんとかできる。下手に関わられると面倒だ。既に失敗が確定しているノアズ計画で"サーカス"の膿出しでもやっていてくれ」
『失敗が確定している......だと?』
そこから説明が必要かと唯華はため息をつきたくなったのを堪える。知っている情報量が違う以上、これは仕方がない。逆に蒼が侵入して気付かなかったことに微かに驚いた。しかし、必要な情報は全て開示されなかったのかとすぐに納得する。
どうせ、あとでハッキングで必要なピースをそろえて結論を出すだろうと当たりをつける。
「ああ、そもそも禍月の本当のスパイが紛れ込んでるからな、能力者と偽った無能力者がな。いいか? 本当に警戒するべきものは春宮珠来じゃない。―――――だ」
「――っ」
唯華は一人の人名を伝える。電話口から息をのむ声が聞こえた。しかし、唯華には既に興味がない。電話を切ると、情報料の請求をメールで行う。
「で、なんで君達は今ここに現れたわけ?」
どこからともなく現れた三毛猫を抱えながら唯華は洞窟に目を向ける。洞窟内から風が吹いてきて、唯華に返事を伝える。
「はぁ、そんなこと......。わかった。そっちに行くから少し待ってて」
唯華はため息をつくと、三毛猫を顔の高さまで持ち上げる。ガラス玉のような瞳を、そして体を確認すると地面に下ろす。
「問題ないみたいだね、なら、引き続き頼んだよ。便利な人形使いがいて本当に助かった」
「にゃぁ」
唯華のつぶやきに答えるように人形は、唯華から離れて暗闇の中に消えていった。
「さてと、あらかた今できることは終わった。後は本島での工作か。......面倒だな」
唯華は今度こそため息を吐き出すと、洞窟の中へと向かう。唯華が中に入った瞬間に、灯台の横にあった洞窟はまるで幻のように消えた。
◇◇◇◇
買い物が終わった後、蒼は琉架の趣味用の部屋をノックした。
「蒼さん、どうしました?」
中から不思議そうな表情で現れた琉架に蒼は笑顔で言い放つ。
「ねぇ、俺と悪巧みしようぜ」
驚いた様子の琉架を気にせず、蒼は強引に部屋の中へと入り、扉を閉めた。