ep102 検証その3
被験体が到着するまでは、先に無能力者で検証をしようという事で、また蒼がミサンガをつける。
「でも、リビングに何も知らない無能力者いなくないか?」
「問題ない、朽梨を呼ぶ」
「? アイさんはすでに知ってるんじゃないのか?」
パソコンを片付けながら眞琴は蒼の疑問に答える。眞琴の後ろでは美月と理人が少し警戒するように2人を見ている。
朝陽は椅子に座ったまま、両人差し指を頭に当てて「うーん」と唸り続けている。
サーカスの名前が出てから、昴は明らかに顔色が悪くなった。中原は頭を抱えている。話の流れから、先程の男も関係していると気付いたようだ。
「朽梨には何も言わずに、一緒に検証現場に行き、終わったからお前に伝言を頼んだだけだから、何も知らない」
「おー、流石、アイさん! ゆいに振り回されすぎて説明不要に疑問がない」
蒼はケラケラと笑う。眞琴と朝陽以外はなんとも言えない表情で蒼達を見ていた。朝陽はまだ理解出来ずに唸っている。
「......来宮、俺は署に戻る。ミサンガの件は分かったら共有しろ」
中原は頭を掻きながら、昴を見る。
「日向、変な気は起こすなよ?」
「......わかっていますよ」
昴が歯切れ悪く答えたのを確認すると、中原は念押しするようにもう一度「いいな?」と確認すると、客間から出て行った。
忙しいんだなと治安が悪くなる予感がしながら、蒼は昴を盗み見る。
昴は斜め下を見て、握っている拳は震えている。心中の葛藤が表面にも出ており、深刻具合が測れた。少し、動きを見張った方がいいかもしれないと蒼は結論を出す。
「まったく、中原はせっかちだな」
パソコンを抱えて眞琴が入口へと向かう。そして、客間に残る全員に声をかけた。
「それでは検証の準備話に入る。椎名以外は移動しろ。駿河妹は朽梨を呼んでこい。椎名、10分程したら来い」
指示をすると返事も聞かずに眞琴は行ってしまった。蒼は近くのソファに座り、時計を確認する。蒼以外の3人はなんとも言えない表情で顔を見合わせていた。
「朝陽、無理に理解しようとしなくていいと思うからね」
「うー、りっくん。ありがとう。頭がグルグルするぅ」
「大丈夫?」
「うん、モーマンタイ!」
まだ頭を抑えながらも朝陽は元気に笑う。美月は小さく息を吐いた。そしてソファの肘掛けに頭と足を預けて横座りしている蒼に話しかけた。
「状況は理解したけど、あまりみんなを変なことに巻き込んだらダメよ?」
「今回は主導者はまこっさんだからな! 俺も巻き込まれてる側!」
「......」
疑うような瞳から逃げるように、理人に助けを求める。理人は少し考えてから口を開いた。
「美月ちゃん、主導は眞琴さんなのは間違い無いと思う」
「りっひー、流石!」
「でも、共犯者であることは否定できないかな?」
「酷い! りっひーの裏切り者!!」
助けてくれたと思ったら、すぐに手のひらを返されて蒼は吠える。しかし、理人は無視して朝陽を連れて客間を出て行った。
蒼はソファに座り直し、ブーブーと文句を言う。
その様子に美月が呆れた声を出す。
「なんとなく、想像がついたわ。あまり迷惑をかけないように気をつけようね?」
美月はそう言うと扉を開けて客間を後にした。残された蒼は、腑に落ちない気持ちで扉を見つめていた。
そして結局文句を言いながらも協力するから、また利用されるんじゃないのかと思った。しかし声に出して言い、運悪く誰かに聞かれたら面倒な美月の雷が落ちるのが目に見えていたので、誰もいない空間だが、蒼は口を噤む。
時計をチラチラと見ながら時間を潰し、10分経ったのを確認してから蒼は客間を出る。
内心では自分は透明人間だ、誰にも見られないと自己暗示をかけながら。
リビングに戻ると、階段付近で美月と葵が話している。理人はいつもの椅子に座り、昴は大地に勉強を教えている。朝陽は何故か、月陽に説教をされていた。この時間に何があったんだと、蒼は不思議に思う。普段だったら絡みに行くのになと少し残念に思った。
しかし、今はやるべき事がある。キョロキョロと眞琴を探す。
眞琴も先程検証していたソファに優雅に座り、室内を何度も見回しながら、端末をいじっている。眞琴の横には何かの機械が設置されている。
サーモグラフィーでも見ているのか? と思いながら、蒼は堂々と室内の中央に向かって歩く。
理人と目が合った......気がした。確認するために理人に手を振ると頷かれる。蒼は一つ仮説を立てて、確かめたい事ができた。迷わずに理人のもとに向かった。
「りっひー、声は出さなくていいからさ、聞こえてたら頷いて」
蒼が普通に声をかけると理人は少し周りを見ながら、頷いた。蒼の声に近くにいた昴と朝陽が反応する。しかし大地や月陽には蒼の声が聞こえていないようだ。
もう一つ確認しようと、今度は美月達に近付く。
「みぃさん、ゆいがまた金儲けで変なことしようとしてたよ! 注意するなら俺より先にゆいでしょ!」
「えっ?」
「......どうした、美月」
蒼の言葉に反応する美月と不思議そうにする葵。これで、声が聞こえるのもミサンガを装着していることを知ってる人だけということが判明する。
蒼は頷くと、そのまま眞琴の元に向かう。そして先に眞琴の手元の端末を確認した。
端末には、サーモグラフィーの映像が予想通り映し出されている。蒼は機械の前へと移動して、全身が映るように調節して、眞琴を見る。
しかし、眞琴に反応はない。機械さえも騙すことがこれで確定した。
これで最後だと、蒼は眞琴の肩に触れて、揺さぶる。
「まこっさーん、聞こえてる? ってか気付いてる?」
少し待つが反応がない。蒼は思わずミサンガを見る。
犯人達はこの性能をどこまで知っている? これは偶然の産物なのか、それともここまで想定されていたのか。島での常識が変わる、その事実に蒼の口角は自然と上がる。
楽しくなりそうだと思いながら、チラリと室内にある監視カメラを確認する。位置的にばっちりと蒼の動きは認識阻害さえ受けていなければ映っているだろう。蒼は自己暗示を解いた。早く、眞琴と共有しなければならない。
この事実とあともう1つの検証でミサンガの大まかな性能は丸裸になるだろう。きっと、天才研究者の眞琴が打開方法を編み出す、蒼はそれを疑いすらしなかった。