ep103 被験体の変更
蒼は眞琴の肩を揺するのをやめた。そして、透明人間だと思い込むのをやめる。
「俺の検証はこれで終わりだな!」
「ほお、全く気付かなかった。いつからいた?」
「さっきから! 面白いことがわかったぜ!」
眞琴に親指を突きつけながら、蒼はたった今わかったことについてを説明する。
ミサンガの存在を知っている能力者のみが、声と姿を見ることができたという事実を。眞琴は興味深気に、「ふむ」と端末を弄ろうとした。
そのタイミングで眞琴の携帯が着信を伝える。
「来たか」
眞琴は発信者を確認すると楽しそうに笑う。そして蒼に視線で外に来るように伝えると電話を受けて、話しながら玄関に向かう。蒼も特に疑問にも思わず、その後に続いた。
きっと、何も知らない能力者が到着したのだろう。
眞琴から少し遅れて外に出ると、屋敷の門の前には、眞琴と高校生ぐらいの挙動不審な少年がいた。突然呼び出された場所が、大きな屋敷だったら驚くよなと蒼は勝手に納得する。
そのまま2人に近付いた。
「来宮さん、流石にこんなお屋敷入れないですって」
「何を言う、風見。頼みたいことがあるといったら、納得しただろ」
「いや、位置情報だけ送られて、こんな家だとは思わないじゃないですか!」
言い争いをしている2人に蒼は近付いた。
「まこっさん、このお兄さんが?」
「椎名か、ミサンガを風見に渡せ」
「えっ? ミサンガって何?」
少年は戸惑ったように一瞬、蒼を見るもすぐに視線を逸らす。逸らされた理由を正確に判断した蒼はとりあえず、ミサンガを渡しながら、名乗ることにした。
「ミサンガはこれ! 俺は椎名蒼。中1だからな!」
「えっ? 中1......?」
慣れた反応をされる。小学生とまでは言われなかったので蒼は堪えた。少年はミサンガと蒼を交互に見ている。
そして、チラリと眞琴を確認した。蒼もつられて眞琴を見た。彼女は、早くしろと言うようにジト目で2人を見ていた。
諦めたように眞琴から視線を蒼に戻して、ミサンガを受け取る。
「えっと、俺は風見零です。高2です」
「風見さんな! とりあえずどっちの腕でもいいからミサンガを......」
「あっ、しまった」
蒼が零に説明しようとした瞬間、眞琴がやらかしたというように顔を顰めた。
2人の動きが一度止まり、ゆっくりと眞琴の方を向く。
「まこっさん、どうした?」
「利用しやすい能力者で思いついて呼んだが、こいつの能力は認識阻害だ。検証には使えない」
「マジか! なんでよりにもよって認識阻害!?」
「えっ? 来宮さん、この子も能力者?」
当たり前のように自分の能力を暴露されたことに零は驚いたのか、今度は蒼と眞琴を何度も見る。首を横に動かしまくって忙しいなと蒼は思った。そして、すぐに訂正する。
「俺は能力者じゃないぜ! 知り合いはいっぱいいるけど!」
「えっ? ......え?」
蒼の発言に零は戸惑う。しかし、蒼も眞琴も気にしない。
「うむ、被検体を新たに調達しないといけないな」
「というか、まこっさん! そもそも検証しやすい能力者じゃないと」
「わかっている。連絡先を知っていて、口先八丁で丸めこめる一番チョロい奴をと思って選んだから、普通に忘れていた」
「まあ、ピンポイントで効果が同じ能力者がいるとは思わないもんな」
一切、零に説明せずで話を続ける。呼び出されたのに好き放題言われた零はなんとも言えない表情をする。原因の1つではあるが、可哀想だなと他人事のように蒼は思う。
しかし、蒼以上に人の心がないらしい眞琴は、零からミサンガを回収する。
「ご苦労、もう帰っていいぞ」
「......流石にその扱いは酷すぎません?」
「あっ、りっひー! どうした?」
「いや、2人が出て行ったの見て、被害者が増える前にと思ってさ」
いつの間にか外に出てきていた理人がなんとも言えない表情で蒼達を見た。そして、視線が零に映ると「えっ?」と驚いた声を出す。
「あれ? 零?」
「理人先輩?」
「ん? 2人は知り合いだったのか?」
お互いの顔を見て固まる2人に蒼は笑う。
「中高の後輩だよ。でも、呼び出されたってことは零も能力者?」
先に状況を理解したのは理人だった。流石、駿河家に馴染んでるだけあるなと思う。眞琴は興味なさそうに塀に背中を預けて携帯を触り始めた。代わりの被検体を探しているのだろう。
「俺もってことは、先輩も?」
「ああ。俺だけ知ってるのはイーブンじゃないからね。あまり外でこの話は良くないから、中に入りなよ」
「えっ、でも......」
「大丈夫。見た目だけで、住人は普通だから」
理人が零を家に案内しようとした。その時、屋敷に向かって歩いてくる少年が蒼の視界に入った。
迷わずに蒼は駆け出した。
「やっくん! いいところに」
出掛けていた八楽は、突然走ってきた蒼にびくりと肩を震わせた。しかし、蒼は気にせずに突進する。
八楽の前に着くと迷わずに右手を取り、「早く早く!」と歩くのを急かす。何も知らない能力者ゲットと、内心でほくそ笑む。
「花巻か、確かにこいつで問題ないな」
「あの、当たり前のように八楽巻き込むのやめてくれません?」
前方から同じ結論に至ったと思われる眞琴とそれを止める理人の声が聞こえる。眞琴の元に八楽を連れて行く。
「花巻、これをつけろ」
「はい......?」
戸惑っている様子の八楽に有無を言わさず、眞琴はミサンガとインカム代わりのイヤホンを渡す。
状況がわからないながらも、引っ込み思案の八楽は言われるままに、ミサンガを右腕に、イヤホンを右耳に装着する。
それを確認すると眞琴は頷いた。
「あとは、イヤホンの指示に従え」
そして、そのまま眞琴は屋敷に戻る。蒼も八楽の腕を引っ張りながら、後に続く。
「零、とりあえず中で話そうか? 俺もあの2人の暴走を止めないといけないからさ」
背後から、どこか諦めたような理人の声が聞こえた。