第六十話 過剰
怒涛の半年間。
ハイハイが始まり、リビングを動き回る多伊奈。
「こうも勝手に動き回られるのは厄介だな」
「え~、チカチカなんで? 元気があっていいじゃん~」
弧見が多伊奈を抱き寄せ、千佳伊がノートパソコンを取りだす。
「創作論だ。キャラが勝手に動くのは、解像度が低いからだという輩がいたな」
「違うの?」
「全く違う。むしろキャラの解像度が高いからだ」
いまいち掴めないのか、弧見は首を傾げる。
「でもでもプロットと違う話になってっちゃうんだよね? 収拾つかないよ?」
「プロットと違う話になるのは、思いつきのトリガーを組みこむからだ」
さらに首を傾ける弧見。
千佳伊がノートパソコンにイラストを表示した。
「本来は部屋に連れ込まれシャワーでラッキースケベ。だが買い物になった」
「この〝泥水〟から〝ウンコ〟になったトリガー変化ってなに?」
「説明しよう」
プロットでは雨が降っていて、車が水たまりを通って泥水を被る展開。
初稿では、晴れていて鳥のフンが降ってきて、着替えを買いに行く展開。
「これは作者が体験したことをベースに、キッカケを思いつきで変えたケースだ」
「フンがついたのだから、シャワーの流れで良かったんじゃない?」
「そこが高すぎるキャラ解像度の弊害でもある」
元は風邪をひいてはいけないと連れ込む流れ。
心配されて折れるのも含む。
そこが取り払われ、晴天の下でキャラがベストのアドリブをした結果──。
「初の連れ込みとラッキースケベが消失したわけだ」
「フンの方が面白そうと思いつきで変えたのが発端ってことだね~」
満足げに二人は頷いた。
「あっ! ウチの子もいま勝手に蹴ったよ!」
千佳伊が弧見のお腹を見る。
「弧見もずいぶん大きくなったな。予定日まではかなりあるのにアレはなんだ?」
部屋の隅に積み上がった赤ちゃん服を指し示す。
弧見がにへらと笑う。
「今から20歳までの衣類をぜんぶ手編みするの!」
「重いわ!」
「ウチの旧姓をいじらないで! もう黄泉弧見なんだから!」
「誰も弧見の名字なぞ覚えておらん! 自意識過剰も大概にしろ!」
それから大ゲンカになり、仕事を終えた仙が仲裁することに。
「自意識過剰と言えば、分刻みでPV増えていないか確認する作者もいるよな」
「赤ちゃんはそんくらいマメに見ないとダメだよね~」
「......だってPVが1つ増えているかも知れないだろう?」
そう言った千佳伊は、自分の作品のPVチェックを始めた。