第六十一話 仕草
仙のヘアサロン。
営業中であるのに、千佳伊がのり込んできた。
「聞け! 創作論だ。弧見と多伊奈が寝てしまい暇なのだ!」
「うるさい。お客さんに迷惑だろ。帰れ!」
「いいじゃない。私は聞いてみたいなー。ところでなんで割烹着?」
客が許可を出してしまい、千佳伊が堂々と居座りだす。
「これは白衣のつもりだ。論文が完成したぞ」
「論題は?」
仙が嫌そうに問い、千佳伊が最高の笑顔をみせる。
「オッサン作品は伸びます!」
「なんで敬体?」
「そこは〝あります!〟じゃないの?」
客にもつっこまれ、塩をかけられたナメクジの千佳伊。
しかし、一瞬で不死鳥のごとく蘇る。
「おっさんの描写が上手い作品は伸びる!」
「需要が多いってことか?」
「私もイケオジは好きよ」
カット客の共感も得られ、千佳伊がスマホを取りだす。
論文に対し、ネットでは酷評が並ぶ。
「私のおっさん描写のどこが嘘くさいのか教えろ!」
「人間観察が足りてないんじゃね? 知らんけど」
「モデルだから、仙が嘘くさいってことか?」
仙のカットの手が止まる。
「聞いてないんだけど?」
「言ってなかったからな」
「えー、黄泉くんっておしぼりで顔を拭いて『ふぃー』って言っちゃうの?」
客もスマホで小説を読んでいた。
赤面した仙は顔を隠す。
「それは架空の人物です」
「でも奥さん二人いるみたいよ。三人で愛し合っているのね」
「完全なるフィクションです!」
どうやら客が読了したようでスマホを仕舞った。
千佳伊が興味ありげに身をのりだす。
「どうだった? 名もなき客よ」
「そうね。加齢臭が問題かもね」
「え!? 俺、そんな匂ってました?」
自分の服を嗅ぎ始める仙。
客は笑いながら手をふった。
「違う違う。この小説の文章からにじみ出る加齢臭よ。語彙が全体的に古いわ」
「いや、これは文芸的に優れていてだな......」
「作者の言い訳は結構よ。文の着飾り、表現の若作り、どれも年配の発想ね」
仙がカットを再開し、客も笑みを深める。
「貴女。愛する旦那の良いところを見落としていてよ」
「名無しの客よ。どういうことだ?」
「今の動き見なかったの? 手元を確認せずにハサミを持ち替えたわ」
数瞬遅れで千佳伊の顔が驚きの白さに。
「何気ない熟練の技......」
「そうよ。さりげない普段の仕草がイケオジの真骨頂なの」
「私の......完敗、だ」
カットを終え、仙が謝罪をする。
「うるさくてすみません」
「結婚したいくらい素敵な人じゃない。私も男だし分かるわ~」
「「え?」」
キャッシュトレーにお金を置き、立ち去る客。
「お客さん! お代が多いです!」
「話が面白かったし、チップにとっといて。またくるわ!」
「あれがイケオジの所作か。勉強になったな」