第六十二話 都会
深夜。
寝室で夜泣きを寝かしつける千佳伊。
それを仙が後ろから見ていた。
「千佳伊。母親になったからか、丸くなったな」
「なんだと!? 以前より絞ったはずだが?」
千佳伊が服をたくし上げ、くびれを確認する。
視線を逸らす仙。
「そっちじゃねーよ。攻撃的じゃなくなったってこと」
「バ、バカな!? この私が守りに入ったというのか? 認めんぞーー!」
「お前はどこぞの戦闘民族の王子か!?」
究極戦闘形態へと移行した千佳伊が、パソコンで㊙と書かれたフォルダを開く。
「これからはオールレンジ全方向フルアタックで殺しにいく所存だ!」
「そんな覚悟より、完結させる方向で決意表明してくれ!」
「むにゃ......二人ともどしたん? 多伊奈ちゃんを起こしちゃうよ?」
弧見を起こしてしまい、二人は声量をさげる。
「本日は、純文学を分かっていないのに手を出す作者についてだ」
「危険な匂いがするな」
「ウチ、純文学わかんない~。何が言いたいのかさっぱりだし?」
弧見をビッと指差す千佳伊。
「大抵の作者が勘違いしている」
「「自己紹介かな?」」
千佳伊の放つ殺気オーラにあてられ、二人は両手で口を押さえる。
「まず大都会東京を舞台とした一節。これを読んで作者の意図が分かるか?」
提示された文章は次の内容。
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深夜の中野坂上の交差点。
白昼とは違う喧噪、眩しいランプ、赤の流れは円環とクラクション。
コンビニ袋には缶コーヒー。
歩きながらそれを開け、眠らない夜空を見上げた。
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「う~んう~ん。地元よりも明るい夜で故郷の静けさを思っている......とか?」
「わかんねー、難問すぎんだろ」
「答えは〝何かを書けた気になってちょっと気分がいい〟だ!」
仙と弧見は見事なまでのハニワ顔になった。
さらに千佳伊が攻勢を強める。
「銘文引用を乱用する作者が何を考えているか分かるか?」
「名著や聖書からの引用を使いまくるアレか......」
「ウチ、分かったかも! こんなのも知ってるぞって知識マウントでしょ?」
自信ありげな弧見。
それを千佳伊が鼻で笑う。
「不正解。〝名句が多くあればなんだか格があがったような気がする〟だ!」
「うわぁ~、チカチカそれ私怨はいってない?」
「そういや純文学作家に馬鹿にされたのを根に持っていたよな?」
騒ぎすぎたからか、多伊奈の夜泣きが再び始まってしまう。
菩薩のような笑みで抱き寄せた千佳伊が宣言する。
「私怨ではない。大衆文芸の総意だ」
「総意じゃなくて志向の相違じゃね?」
「相変わらずチカチカの主語、デカ!」