第六十三話 不明
見渡す限りの白の景色。但し、ホワイトルームではない。
千佳伊が今日も荒ぶる。
「字書きは言葉を尽くしたがるから、捻くれ具合が具体的に顕在化しやすい!」
「千佳伊、ここに鏡はない。それよりもこの素晴らしい景色を見ろよ」
「端的に言えばバカが見つかりやすい! とくにネットではな!」
仙の言葉を無視し、吠え続けていた。
にこやかな弧見が、景色が見えるように赤子を抱き上げる。
「ほ~ら、多伊奈ちゃ~ん。良い眺めでちゅね~」
「曇って良かったよな」
「おい、多伊奈は私の娘だぞ」
どこまでも続くかに思える雲海。
千佳伊たちは雲海テラスを一日貸切っていた。
各ジャンルの有名料理人たちに、出張サービスも依頼している。
「チカチカってば、予約キャンセルでトラブル起こしたのにね~」
「今じゃ公式パートナーだし、金に物を言わせすぎじゃね?」
「攻撃力を磨くため、資本力マウントを取ろうと思ったのだ。豪遊をするぞ!」
高級フレンチもそっちのけでノートパソコンを取りだす千佳伊。
「今日は見えないあらすじを書く作家の罪状について述べよう」
「ん? それって、色々と情報を伏せすぎて何だか分からないあらすじのこと?」
「あー、割といるな。匂わせだけ並べてるのがカッコイイって勘違い作家」
千佳伊も頷く。
「人物紹介、設定資料、押しつけがましい謳い文句!」
「謳い文句ってどんなん~?」
「〝物語が始まる〟知っとるわ! 〝運命はいかに!?〟知らんがな!」
「書かなくて良い一文ってあるよな。まだ〝物語が始まらない!〟の方がマシ」
書いた記憶のある弧見が本気でへこみだす。
気を良くした千佳伊は、晴れやかな笑みを浮かべていた。
「さて、記念撮影をして、底辺の貧乏人どもを煽っておくか」
「チカチカ、性格わるいよ~?」
雲海を背景にし、全員で撮った画像をSNSにアップ。
予想通り炎上した。
だが、千佳伊の予想した成金趣味に対するバッシングではない。
「元気だしなよチカチカ~」
「今回の炎上、俺もガチでへこむんだが......」
SNSには誹謗中傷よりも、真っ当な意見が並ぶ。
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『まだゼロ歳児を、なんて高所に連れ込むんだ!』
『高山病になったらどうするの!? 母親失格!』
『低体温症も心配......』
『小説が間違っているというより、人として間違っている』
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雲海テラスの片隅で体育座りをした千佳伊。
その瞳からはハイライトが失われていた。