第六十四話 陳列
都内某所。
眼下に広がる摩天楼の夜景に向け、千佳伊が吠える。
「キーワードについて分かってない作者が多い!」
懲りずに貸切った中華料理の高級店。
出された一流の創作料理を、千佳伊が鼻で笑う。
「独自性ばかりを追い求めて、読者のことを分かっていないのだ」
「あー、意味わかんねーキーワードあるよな」
「おいしいのに。そんなに気にしなくてよくない?」
弧見がレンゲですくいながら、糸目の表情になる。
テーブルへ向き直り、千佳伊が箸を豚の頭に突き立てた。
「いや、創作キーワード......特に疑問形や否定形は明確に不利となるぞ」
「あー、〝ざまぁなし?〟とか〝無双しない主人公〟とかか」
仙の挙げた例えに千佳伊も頷く。
「すぐに検索できないものとかな。客はどの要素で楽しめるかを求めているのだ」
疑問形はどちらとも言えない内容のものが多く、読者が求めていない。
否定形はそれが嫌いな読者はフックかも知れないが、読みたいには至らない。
キーワード検索で引っ掛からないようなワードも悪手と言葉は続く。
千佳伊がナプキンで口を拭う。
「ゆえに、キーワードとは店先のメニュー表なのだ」
「言わんとすることは分かるな」
「どゆこと? ダーリン教えて~」
仙が飲食店の例えを話す。
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Aの飲食店:
全メニュー千円以内/餃子/炒飯/エビチリ/麻婆豆腐
Bの飲食店:
千円にはなりきれない価格帯/拉麺?/炒飯ありません/シェフの気まぐれ中華
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「マイハニーならどっちに入りたい?」
「Bは胡散臭くって、日常生活では立ち寄りたくないかも~」
「先日見かけた〝ハッピーにはなりきれないエンド〟もツッコミしかなかったな」
仙も食事を終え、食後酒を口にする。
「結局、何が言いたかったんだよ千佳伊?」
「結論を言えば〝オリジナリティの出しどころを間違うな〟だな」
「嘘......チカチカが自省ワードを出すなんて......」
弧見が『私の年収低すぎ』の表情になり、仙は呆れ顔に。
「大丈夫だマイハニー。千佳伊のは間違ってるから」
「む? 私は定番メニューもあるし、コロッケも出せるのだぞ?」
「揚げセミinコロッケとかだろ?」
「ギャー! そのオリジナリティはいらない~」
ドン引きしたところへ、スマホの着信音が鳴る。
鳴っていたのは仙のスマホだった。
「はい、もしもし黄泉です」
『やぁ、仙くん。古室だ。先日は......』
「あ、間に合ってますんで」
秒で通話を切った。