第四十四話 廃業
「荒れてるね~。チカチカとの結婚はそんなに嫌だった?」
「うるせ~!」
千佳伊と仙は結婚した。
名字も変わり、黄泉 千佳伊となる。
「俺にだって結婚の自由はあるべきだろ!?」
「表現の自由、出版の自由、放送の自由。色々あるよね~」
弧見のセリフは、いつも千佳伊が主張していることでもある。
規制警察が湧くたびに「表現の自由は守られるべきだ!」と、騒いでいた。
「チカチカの作品は出版するとなったら直しが必要だよね」
「風呂に一緒に入ろうとしてくるんだけど、どうすりゃいいんだよ!」
「夫婦なんだし、入ればよくない?」
弧見の顔には「またノロケか」といった色がありありと浮かぶ。
だが、訴える仙の表情も切実だ。
「よくねーよ! 千佳伊はⓇ⑱も書き始めてんだぞ!」
「だからまだ夫婦の営みがないの? 毎晩聞き耳立ててるウチの身にもなって!」
仙は官能小説のネタにされるのを恐れ、一切手を出していない。
弧見は作品のネタにしようと、隣室から壁にスマホを当てて録音。
しかし、空振り続きでガッカリもしていた。
「夫婦のことは二人で話してよね~。チカチカも忙しいから難しいのかな?」
千佳伊はさらに経済界への影響力を強めている。
フランスで出来たコネも駆使し、欧州のビジネスにも手をだしていた。
一番迷惑しているのが仙である。
「千佳伊のせいで俺への風評被害がひどいんだが!?」
「あ~、チカチカってば主語が大きいからね」
個人的な主張にも関わらず、千佳伊はさも自分が正義のように振るまう。
日本は、小説家は、創作は、こうあるべきとの主張を各所で繰り返す。
「文句は『愛する夫が対応します』とか言うからこっちに非難殺到すんだよ!」
「お熱いことで。でも、炎上もホットすぎて、そこは同情するよ」
千佳伊が「夫は弁護士だから」と触れ回っている。
それこそすべての発言が、まるで法的に正しいように。
仙のところには毎日のように殺害予告が届く。
「ヘアサロンもずっと休業せざるを得ないし......」
「お~よしよし、ウチが慰めてあげるよ~」
弧見が頭を抱きしめようとした瞬間、廊下に戦闘力を感知した。
「ハッ! チカチカ!? これは違うの!」
「お前たち、新妻の目の前で堂々と浮気か?」
ブレーキの壊れたダンプカーのごとき速さで迫る千佳伊。
二人の目前でピタリと止まる。
「さぁ、続けろ。至近距離で動画を撮るから」
「え? これウチが訴えられる流れなの!?」
「やばいぞ弧見! 次の濡れ場に登場させられるっぽい!」
翌日。
仙のヘアサロンの窓や鏡、内装もすべて破壊される事件が発生。
そして仙は、美容師の廃業へと追い込まれた。