第四十五話 通院
犯人は捕まったが、犯行予告をしていたネットユーザーとは別人だった。
「今、闇バイトって多いみたいだよ。仙たちはお金持ちだから気をつけてね」
「ふむ。同じ家に住んでるのに暢気だな」
「ウチは大丈夫。お金ないから」
千佳伊と弧見が防犯について語り合う。
一言も発しない仙の瞳からは、虹彩が失われていた。
「重症だな」
「重症だね」
初めて持った自分のヘアサロンが荒れに荒らされ、落ち込む仙。
見かねた二人が、無理やりメンタルクリニックへと連れ出した。
少しの遠出。
看板には〝ド健全クリニック〟とある。
「ここだ。有名な名医のいるクリニックだそうだ」
「ほら、仙。しゃんと歩きなよ~」
待合室で待たされること数分。
仙の名前が呼ばれた。
「山田だ。下らねえ悩みを持ってくるんじゃねえ」
「黄泉 千佳伊だ。今日は夫の付き添いで来た」
「え? これってどういう状況? ウチも自己紹介した方がいいの?」
カウンセリングが始まる。
「だいたい聖女なんてそこら中にいる訳ないだろ? 転生前の現実をもっと見ろ」
「しかり!」
「そこら中でスタンピードが起こる訳ないだろ? 村どころか街も滅んどるわ」
「まさに!」
山田 太郎院長と千佳伊は完全に意気投合。
少しイラついた様子の仙が静かに問う。
「ここは字下げクリニックか何かか? ダメだしばかりしやがって......」
「そういうのウザいんだよ。間に合ってんだ」
強い口調で仙をぶった切る山田。
「病気を印籠のように使ってくる作家。見飽きてるんだよ」
焦点が合わない仙の目前に顔を近づけてさらに続ける。
「読者はお前の主治医ではない。かまってちゃんやってんなら作家なんか辞めろ」
「それは正論だな」
仙の表情は、憑き物が落ちたかのように晴れやかなものとなった。
「山田先生! このたびはありがとうございました!」
「俺はなんもしてねえ。いつも通りダメなことをダメだと言っただけだ」
仙が踵を返そうとした瞬間、山田が小さく零す。
「ヤンデレには気を付けろ。あと二股はやめておけ。刺されても知らんぞ」
「ご、ご忠告ありがとうございます」
帰り道。
ごきげんな仙が陽気な声をあげる。
「たまには奮発していい店いかねーか? カルボナーラの名店があるんだ」
「......」
「......」
意気消沈する千佳伊と弧見。
仙への処方箋としての山田の数々の言葉で、二人の心がぶった切られていた。