第四十六話 既視
ヘアサロン再建に向けて、仙は意欲的に活動を始めた。
「俺はやるぜ! ん? どうしたんだ弧見。あれ以来、元気がないよな?」
「......ウチの作品。オリジナルのつもりなのに......」
先日のクリニックで「どっかで見たことのある寄せ集め」とバッサリ斬られた。
それからというもの、弧見は落ち込みっぱなしだ。
背後には、怨霊のような千佳伊が貼り付いている。
「......あのヤブ医者の話を真に受ける必要などない」
「近い近いチカチカ! なんか怖いから!」
「なんだよ? あんだけ意気投合してたじゃんか」
なぜか包丁を持っている千佳伊。
「意見に取り合わなくてよい根拠を示そう」
「待て、その危ないものをひとまず置け」
「そうだよチカチカ。ほらパワポ!」
千佳伊の右手装備はマウスへと切り替わる。
「これを見ろ。既視感を訴える読者と、その読者の精通度や熟練度のグラフだ」
「へー、高くなると既視感を言いだすのか」
「そうだ! そして市場における読み専の分布はこっちだ!」
「言いださない人たちが大半を占めるってこと? チカチカ?」
千佳伊が満足げに頷く。
「スコッパーや作者は、相当に目が肥えている。だが、大半はそれとは違う」
「小説に精通していない層にはそこまで既視感がないってことか?」
「言われてみれば、最初は「面白い」って単純に読んでいたかも~?」
新たにスライドしたページには〝ノイジーマイノリティー〟の大見出し。
「わざわざ作者に『既視感がある』と言ってくるやつは主流の層にはいない」
「でもこのデータ、チカチカの好みでバイアスが掛かってたりしない?」
「その指摘も! データやグラフを見過ぎたひねくれ者の意見だ!」
千佳伊が弧見をビシッと指差す。
顎に手を当てて考える仙。
「ダメ出しするにも知識量が必要だし、全部が間違っているわけでもねーな」
「だろう?」
「だからといって軽視すんのはどうなんだ?」
千佳伊が仙に近寄って問う。
「何が言いたい?」
「千佳伊の嫌いな王道やテンプレ」
「私の作品は違う」
不満げな千佳伊は仙をハグする。
「続けろ」
「あっちには難癖つけて、自作の既視感は別ってダブスタが過ぎんだろ?」
そう言った瞬間、千佳伊が仙をダブルアームスープレックスで投げ飛ばした。
落下位置にあったお菓子たちを救出する弧見。
「あぶな! いきなりプロレスしないで! やるならベッドの上でどうぞ!」
首を鳴らした千佳伊がゆらりと立ち上がる。
「人とは矛盾を抱えるもの。ダブスタとレッテル貼りをするのはどうかと思う」
「うっわ、いつもレッテル貼るチカチカがそれ言う?」
本日二度目のダブルアームスープレックスが宙を舞った。