第四十三話 出版
リビング兼相談室。
ソファーに座り、契約書を苦々しく見つめる千佳伊。
「なぁ、仙。少々軽率だったのではないか?」
「何言ってるんだよ? 五億円なんてどうとでもなるだろ?」
音楽プロデューサーの古室が言うには、各所へ働きかける必要経費とのこと。
しかも、アニメ化が果たされれば、彼の書き下ろしの新曲を提供する約束付き。
「古室プロデュースだぜ! 大ヒット間違いなしさ!」
「どう思う弧見?」
テレビを見ていた弧見が頭だけを二人へ向ける。
「浮かれすぎ。チカチカの作品だよ? 大コケするに決まってるじゃん」
「おい、弧見。ケンカを売っているのなら買うぞ」
「バカだなぁ弧見は。とんでもない魔法がかけられるに決まってんだろ!」
一ヵ月後。
正座をさせられている仙。
仙の背後のテレビでは、連日お騒がせしているニュースが流れる。
「詐欺だったな」
「詐欺だよね~」
「すみませんでした~!」
テレビのニュースキャスターも語る。
音楽プロデューサーの古室が各所で詐欺騒動を起こしていたことを。
「まんまと射幸心を煽られおって。そういえば、ラノベの射幸心の話もあったな」
「チカチカ、はいこれ。モニターに映すでしょ」
「うむ」
ノートパソコンからHDMIでつなぎ、TVへとパワポを表示した。
「昨今は射幸心を過度に煽ることが多い」
「だね~」
「痺れてきたから足を崩して良いか? いえ、良いでしょうか?」
仙の言葉を無視して続ける二人。
「なのに大して引っぱらず、小カタルシスで放出してしまう」
「あのー、聞いてます?」
邪悪な笑みとオーラをまとい、千佳伊が仙の太ももを踏んだ。
「このように! 堪え性のない読者が増えたからだな! なぁ、弧見?」
弧見も高速の貧乏ゆすりで仙の足を狙う。
「報酬、報酬って目先のことに釣られ過ぎ。もうちょっと我慢できないの?」
「ぐわぁぁぁあ、やめて! ほんとに!」
二人から足蹴にされる仙。
電撃が全身を貫き、ビクンビクンと悶える。
「ゆ、許して......なんでもするから」
「弧見」
「チカチカ、バッチリ撮ったよ~」
弧見がしっかりと録音していた。
一瞬で仙の顔が青ざめる。
「待って今のなし!」
『ゆ、許して......なんでもするから』
先ほどの声がスマホからも流れ、ガックリと肩を落とす仙。
「では、なんでもするという仙にご褒美をやろう」
千佳伊が一枚の紙切れを見せびらかす。
突如、仙の頭に、酔って謎の紙にサインした記憶が蘇る。
「な、ななな! 婚姻届!?」
「今からこれを提出してくる。喜べ!」
足が痺れる仙は、立ち上がることすらできず背中を見送った。