第七十二話 投影
打ち合わせの帰り道。
「なんだあの失礼なヤツは!」
「ハハハ......まぁまぁ、落ち着けよ千佳伊」
「お前もお前だ仙! なんでヤツに任せた!?」
担当編集と一触即発の空気になったのを仙が止めた。
しかも、全て相手にお任せで契約まで取り付けてしまう。
「相手は専門家だぜ? 内容は死守したんだからさ、売り方は任せて楽しようぜ」
「......仙がそういうなら」
しぶしぶ千佳伊が折れたところでスマホが鳴る。
弧見の出産の報に二人は浮き立った。
翌週。
弧見も無事に退院。
「ウチ、出産があんなに大変だと思わなかったし」
「会陰切開までしたんだったな。だが、元気に生まれてきて良かったじゃないか」
新たな家族に、女の子の愛が加わった。
色々とバタバタしつつも日々は続いていく。
季節も変わり、書籍の売り上げも好調だ。
そうして再び千佳伊が吠える。
「転売ヤーも、無断転載ヤーも、すべて死ねば良いと思う!」
「海外サイトまでは手が回んねーな」
書籍の転売。
他の有料投稿サイトへの無断転載。
それらが横行し、仙と出版社は対応に追われていく。
「でもチカチカのが人気作の証明でもあるよね~」
「だな。編集さんの売り方は正解だったんじゃね?」
売り出す作品の著者をディスるという異例の売り方。
話題作りとしては成功し、大ヒット御礼といったところだ。
「ふん。話題に煽られただけの連中の低評価が気に入らなくはあるな」
「読まなくてもブクマと星だけは欲しい~」
「マイハニー、そんなこと言ってたら風紀警察がくるぞ?」
風紀警察は、ポイントだけを要求する言葉で湧く。
規約違反をことこまかに指摘し、粘着してくるのだ。
「えー、でも〝とりあえずブクマ〟って、後で読むって意味じゃないの?」
「まぁ、大抵は『いずれは読んでね』って意味だよな」
二人の話題に千佳伊の表情が沈む。
「警察でも読者がいるだけマシだ」
「まさかのチカチカが警察擁護!?」
「ゴースト読者だらけのサイトは悲惨だ! PVは凄いがな!」
千佳伊がノートパソコンに表示したサイトはノベルDies。
編集で開いたり、検索をしただけでもPVが増える。
読者実態と違い過ぎると炎上し、閉鎖に追い込まれたサイトだ。
「けどさ、千佳伊はプロになった訳だし気にしなくていいだろ?」
「そうだよ~。来年にはアニメなんだし! 羨ましいよ~」
仙と弧見が話題を変え、不愉快そうな千佳伊が鼻を鳴らす。
「私がこの主人公のように頭オカシイ女と思われているのが気に食わないぞ」
言葉がピタリと止まる二人。
首を傾げた千佳伊に狂気の色が宿る。
「まさかお前たちまで〝主人公に自己投影する作者〟だと思ってないよな?」
二人の首は一瞬で扇風機と化した。