第六十九話 信頼
「千佳伊さん! 古室プロデューサーの行方を何かご存じですか!?」
「千佳伊さん! 50億を持ち逃げされた心境をお聞かせください!!」
「お引越し! ハイハイお引越し!」
家の外には毎日のように報道記者が押し掛けている。
仙は指でブラインドを薄く開け、外の様子を眺めていた。
「毎日毎日キッツイな。で、どうすんだよ千佳伊?」
「何がだ?」
「50億の返却で訴訟を起こすだろ? 勝ち筋は見えているか?」
千佳伊も同じブラインドの隙間を覗き込む。
「訴訟? 何のことだ? 貸し付けただけだから、いずれ返してもらう」
「おいおい、パチンカスみたいなこといってねーで、ちゃんと考えろよ」
二人は階段を降り、リビングへ移動した。
ソファーで多伊奈をあやす弧見が明るい声をあげた。
「あ、チカチカ。今度の訴訟スケジュールはどうなるの?」
「弧見まで訴える前提とは......お前たちは私のことをなんだと思っている?」
千佳伊が呆れると、二人は真顔になる。
「暴君、魔王、露出狂」
「どこぞの大手の法務部」
千佳伊の中の戦闘力が高まると、二人は押し黙った。
「まぁよい。古室のことは全面的に信じる。それが私の方針だ」
その宣言に再び二人が賑やかになっていく。
「はぁーーー!? あの人は詐欺師だぞ?」
「だが輝かしい経歴は本物だ。それに仙が薦めた人ではないか」
「チカチカ! 一体どうしちゃったの!?」
「私は正常だ。人を信じるのは当たり前のことだろう?」
二人がこれ以上ないくらいに目を見開く。
それは〝真っ当なことを言うドナルド大統領〟でも見たかのよう。
──パン!
千佳伊の柏手が、放心状態にあった二人を現実へ引き戻す。
「聞け! 創作論のおさらいだ。キャラのバックボーン理論は覚えているか?」
「過去に何を言ったかより、誰に出会って何を言われてきたかが重要って話?」
「そうだ弧見! よく覚えていたな! 花丸をやろう!」
納得いかない様子の仙は正論パンチ。
「創作論より、古室さんの楽曲ありきの宣伝はどうなるんだよ?」
弧見も追撃する。
「コンテストはまだ一次選考落ちだよね? 文章力を磨いた方がよくない?」
「だな。アニメ化に向けた戦略を最初からやり直そうぜ」
流れが変わりかけた瞬間、千佳伊の覇気が放たれた。
「創作でもっとも大事なことがある!」
その圧は増していく。
「文章力よりも、構成力よりも、宣伝力よりも、出会いの方が大事なのだ!」
「「いったい何があった!?」」
二人の声がハモるも、千佳伊の耳には届かない。
「小説は一人で書ける。だが、多くの出会いに支えられ、生まれるものだ!」
その青天の霹靂は、終日続いていた。