第七十話 造形
ネット上でも古室は叩かれ、悪く言う人たちが湧いていた。
曲は良くても、金に杜撰なのは欠点だという意見が多くを占める。
「キャラとは、いかに魅力的に欠点を描くかにかかっている!」
リビングでは、今日も千佳伊が荒ぶる。
「欠点のない人間なぞ気持ち悪くて仕方ないわ! たわけどもが!」
「チカチカ、言葉が汚い! 多伊奈ちゃんが覚えたら大変でしょ!」
弧見が目を三角にして千佳伊を叱りだす。
そこへ、キッチンから仙が料理を運んできた。
「一度覚えた口癖は中々治んないらしいからな」
千佳伊は「ふむ」と考えるそぶりをした。
「キャラの口癖は、作者が思っているほどキャラ付けにはなっていない」
戸惑いぎみの弧見。
「え~、なんでなんで? 皆やってるよね?」
「一人称、語尾、語彙チョイス。伝わっているつもりでも伝わってないよな」
仙が千佳伊に同調し、言葉を続ける。
「地の文での補足を添えず、口調だけで伝わっている前提の作品あるよな」
「そう。作者だけが分かっていて、読者は話者が誰か分からないまま話が進む」
スマホを操作し、何かを投稿していく千佳伊。
「要は匿名の有象無象の言葉なぞ、雑音にもならんということだ!」
ツイッターへ大量のツイートが投下された。
キャラのバックボーン理論。
古室とのこれまでのやり取り。
そして、千佳伊が最後まで古室を信じるという意志が示される。
「清々しい炎上だな」
「ウケる。『50億じゃなくて50万だったんじゃね』って言われてるよ?」
負け惜しみ。一理ある。追及しろ。
様々な声があがる。
一貫して「簡単に許すな」という意見が大勢を占めた。
「不寛容な連中だな。まぁ予想の範疇だ」
そしらぬ顔の千佳伊。
仙が心配そうに眉を寄せる。
「なんでんな信じられるんだよ? 一度騙されてんのに」
千佳伊が真っすぐに仙の目を見つめた。
「信じるのはやつの輝きだ」
「輝き? 経歴ってことか?」
千佳伊は首をふる。
「才能に対してだ。埋もれ、消えて終わるヤツではない。だから帰ってくる」
そのまま続ける千佳伊。
「あれほどの輝きを持つのだ。古室の出会いはさぞ素晴らしいものだろう?」
「......そっか。そうかもな」
誰よりも古室の才能を認めていたのは千佳伊かもしれない。
悔しさの滲む千佳伊の声を聞いて、仙は自然とそう思った。
数日後。
古室が見つかった。
だが、それは些事にすぎない。
事務所は、別の異常事態に見舞われている。
「電話が鳴りやまないよ~!」
「メールも凄いぞ。千佳伊も手伝えよ!」
古室の手土産が、大きな波紋を連れてきた。
書籍化、コミカライズ、アニメ化の怒涛の総力戦だ。