第五十話 迷信
翌日。
幸せオーラ全開の弧見が笑顔で洗濯物を干していく。
「うふふ、うふふふふ! ウチ、勝ち組だった~!」
千佳伊はバルコニーを直視することを避けた。
「眩しいな。ちょっとは申し訳なさそうにしたらどうだ?」
「え~? なんでなんで~?」
浮かれきっている弧見は全く気づかない。
仕方なさそうな顔をした千佳伊が、ノートパソコンを取りだす。
「ちょうど良い。洗脳......もとい、常識を教えてやろう」
「うふふ、ま~た創作論?」
作品件数と盗作被害のグラフが表示される。
「このように素晴らしい作品が生まれたとき、盗作報告が急増する」
「え~、嫉妬からの言いがかりじゃないの?」
「それもあるが、本人が自覚なしに盗作しているケースも散見されるのだ」
創作論の話にのめり込んでいく弧見。
千佳伊が不敵に笑う。
「では、これが知らずに盗作をしていた作家の末路だ」
「うわぁ、訴えられると悲惨だねぇ」
「と、いうわけで私から男を寝取った女も、訴えられると危ないとは思わんか?」
「ふぇ?」
言葉巧みに誘導する。
一緒に住んでいたのだし、知らずに誘惑していた疑惑があること。
本人たちに自覚はなくとも「浮気行為を頻繁にしていた」と言葉が続く。
「そ、そんな、ウチ......チカチカになんて申し訳ないことを」
一時間を待たず、弧見は土下座をしていた。
夜。
ヘアサロンの営業を終え、仙が表の看板の電気を消す。
暗くなった店内に弧見が駆けこんできた。
「仙~! ウチが訴えられたら弁護して~!」
「なんの話!?」
当惑する仙に抱きつく弧見。
「ウチら、超マニアックなプレイまで経験済みだって~!」
「待て待ておちつけ!」
「ウチ、妊娠してるかも~!」
すっかり騙されている弧見が、謎の妄想を垂れ流す。
千佳伊の仕業だと気づき、仙が丁寧に誤解を解いていく。
「弧見。それは被害妄想、ぜんぶ想像だから」
「でも、チカチカが『チャッピーも言ってた』って~」
「疑われたら、ちゃんと盗んでいないと証明しなきゃダメだろ?」
どうにか弧見を宥めた仙。
すぐに千佳伊の部屋へ突撃した。
「ふむ。そろそろ来る頃だと思っていた」
「おい、ふざけんな! 弧見は影響されやすいんだよ。嘘を吹き込むな!」
「読者に何か言われただけで、すぐ影響されてブレるやつの気持ちは理解できん」
千佳伊に悪びれた様子はない。
「読点が多いと言えば削り、少ないと言えば足す。こだわりはないのか」
「お前が嫌いな警察をやってんじゃねーよ」
「私のは読点警察ではない」
腕を組んだ千佳伊が言い放つ。
「ただのハラスメントだ!」