第四十九話 誤字
財産分与で家と貯金の九割を仙が持っていくことに。
今後も同居し、育児には両方が関わることとなった。
弧見がリビングでそれらの書類を見ながら零す。
「契約書で用意しているのが弁護士っぽいよね~」
「法律事務所の取り分を逆手に取られるとは思わなかったな」
まったく悔しく無さそうな千佳伊。
弧見が肘でつつき、千佳伊をからかう。
「またまた~。チカチカは仙のこと本気だったんだし、悔しいでしょ?」
「そんなことはない。私は勝ったからな」
千佳伊はお腹をさする。
「創作でも同じことだ。弧見よ。私たちはすでに勝っている」
「ウチは負け組だよ......底辺だし......」
「それは違うぞ。この世に作品を送り出した時点で勝者だ!」
気の早いマタニティウェアに身を包む千佳伊が叫ぶ。
「作品を生み出すことすらできないやつが他と比較し、やれPVが低いだの、星が少ないだの言ってくるのに耳を貸す必要なんかない!」
「チカチカ、あんまり興奮しちゃダメだよ」
「む? そうだな」
千佳伊は急にトーンを落とす。
「ともあれ、勝ち組だ。私は愛する人の子を成したことで満足している」
「まぁ、同居が続くのならいずれヨリを戻せるかも知れないしね~」
何か言いたげな目で弧見を見る千佳伊。
「何? チカチカ」
「......なんでもない」
千佳伊が立ち去っていく。
それに合わせて仙がリビングへとやってきた。
「なに話してたんだ?」
「いつもの創作論だよ~」
「悪かったな。弧見を巻き込んで」
子供が生まれるまで弧見も同居を続けることになっている。
弧見はにへらと笑った。
「いいよ。家賃、光熱費ゼロ円は魅力的だし、行くとこもないしね~」
しばらく千佳伊の話題を避け、近況の話題で盛り上がっていく。
するとアンティークの柱時計の鐘が五回鳴った。
「五時か......そういや弧見の最新話、誤字が多かったぞ」
「え? どこどこ?」
仙のスマホを見ようと体を密着させてくる弧見。
「あ~、ここかぁ、でもこれね、意図があって......」
「どこで間違ったんだろうな俺たち」
弧見の言葉に割り込み、仙が熱っぽい視線を向けた。
「どしたん仙? 創作論が間違ってるってこと?」
弧見もまばたきをして見つめ返す。
「一番近くで見続けていると、間違いに気づかないってことあるよな」
「だね~。なんでこんな誤字を見落としたし! って思うことばっかりだよ~」
重い雰囲気の仙と、ふわっふわな弧見の口調。
「時間が経って、改めて見つめ直さないと分からないこともある」
「そうそう~! 時間をおいてから語順とか変なことに気づいたりするし!」
仙の様子に、弧見はキョトンとした。
「どしたん?」
「俺、弧見のことが好きだ。結婚してほしい」
「ふぇ? ......えーーーーー!?」