第五十一話 過疎
仙と弧見が浮かれる日々。
目の前でいちゃつく二人と、それを眺める千佳伊。
「そういや......」
二人が、口を開いた千佳伊を見る。
「過疎ジャンルで〝一位になりました〟と喜びの報告をするのはどうかと思う」
「ウチが何をツイートしても自由です~」
弧見の茶々入れに、千佳伊が語気を強める。
「人気ジャンルで戦う者にマウントとって何か楽しいのか!? 底辺め!」
「嫉妬マシマシだな、おい」
お揃いのマグカップ、歯ブラシ。
今も二人が着ているパジャマ。
日に日に増えていくペアグッズを、千佳伊が忌々しげに睨む。
「人生、そんな逃げ腰ではいかんと思う。異世界ファンタジーで勝負すべきだ」
「異世界ファンタジーそのものが、異世界に逃げているけどな」
仙の皮肉も意に介さず、千佳伊はドヤる。
「私は──創作に生涯を注ぐと誓う!」
「なら株をやってないではよ続き書け」
「ウチのダーリンの言う通りだよ~」
隙あらばひっつきあう二人。
千佳伊の背後には、轟々と燃える炎が見えるほどだ。
「命をかけているのだ。中途半端な物なぞ世に出せる訳がなかろう!」
作家は「創作に命をかけるべきだ」という謎の創作論を始めだす。
「それはもはや論ではなくただの馬鹿だろ?」
片眉を上げた仙。
勢いよく挙手をする弧見。
「はい! チカチカ先生!」
「なんだね? 弧見くん」
すかさず千佳伊も教師風に返す。
幻視で教壇とインテリメガネが浮かんですら見える。
「ウチの筆が止まったとき、アドバイスしてくれたことと真逆!」
「筆が止まったときは、インプットをしろと教えた件か?」
「俺も思い出した。アウトプットというインプットをしろって言ってたな」
よく巷で言われるアウトプット&インプットの話。
以前から「アウトプットでしか得られないインプット」を主張していた千佳伊。
「主張は今も変わっていない」
千佳伊の放つ紫のオーラが、龍の姿を形どる。
「全て出し切れ! 自分に何が足りないのか。カラッカラに出し尽くした先でしか本当に足りないものはわからないし、気づけない!」
生みの苦しみ。その極限状態。
その中でしか気づけないものがあると千佳伊は断言する。
「途中で辞めてしまうのは良くない。最後まで書き切れ!」
一片の悔いなしの文字が浮かぶ、千佳伊の表情。
蛍光灯からの後光が、降り注ぐ雲間の光芒にすら思えた。
「えーっと、チカチカ。長編を完結させたことあったっけ?」
「無論、私は一つもない」
千佳伊はキリッとした表情で言い切った。