ホーム›間違った創作論を語る作家の話›第五十八話 誕生
← 次の話目次前の話 →

第五十八話 誕生

『二人ともネットの創作論に振り回されすぎだ』

 ビデオ通話の画面越しに千佳伊ちかいが鼻で笑う。

『キャラの解像度を高めるために重要なのは、周囲にいた人たち、環境の方だ』

 千佳伊の例え話が続く。

『仮に高校デビューをしようとしたキャラがいたとして、同じ言動をさせたとしても成功失敗は変わる。そのキャラが成功と感じたかどうかが重要だ』
「話なげぇよ。何が成功失敗を分けるのか手短にな」

 仙の指摘を受け、千佳伊がやや早口になる。

『一目惚れした人がいる上位グループ数人から失笑されたのか、気になる相手からは好意的に受け入れられたのか。それだけで天秤の針は真逆に傾くこともある』
「そのキャラだけを深掘りしても、キャラの解像度は上がらないってこと~?」

 千佳伊が頷く。

『だから、バックボーンとはそのキャラが何を言ってきたかよりも、誰とどういう出会いをして、どんな言葉を投げかけられてきたかが重要なのだ』
「だからなげーって!」
「チカチカのキャラプロット。あと何キャラだっけ?」

 弧見が疑問を口にし、千佳伊が胸を張る。

『あと、17人だな。単純試算で340万文字が設定だけで必要だ』
「なぁ、どう思う?」
「〝硝子の仮免〟の完結は楽しみだよね~」

 長話をしすぎたせいか、バッテリー表示が赤くなった。

「あ、チカチカごめ~ん。そろそろバッテリー切れそう」
『ふむ。こちらも残量が......う、うぐ......』

 急に千佳伊が苦しみだす。

「おい、どうした千佳伊!?」
「チカチカ!? チカチカ!?」

 画面の向こうで千佳伊が倒れた。
 そこでバッテリー残量がなくなってしまう。
 慌てた仙が電話をかける。

「ダメだ繋がらない!」
「急いで帰らなきゃ!」

 どれだけ急いでも1時間以上はかかる。
 仙は改めて電話をかけ直した。

『ハイハイハイ! お引越し! ハイお引越し!』
「頼む! 緊急事態なんだ! 助けてくれ!」

 背に腹は代えられないと判断し、お隣さんに頼み込む。
 タクシーを捕まえ、電話をつないだまま乗り込んだ。
 移動中もやり取りを続ける。

『ピーーポーー! ピーーポーー!』

 電話の向こうで救急車の音が聞こえた。

 ───────────────────

 総合病院。

「おぎゃあ! おぎゃあ!」
「黄泉さん。2450グラムの女の子です」
「おめでとうございます。千佳伊さんの容態も安定していますよ」

 駆けつけた二人は涙を流してその場にへたり込んだ。

「......早すぎだよチカチカ」
「小説の続きは遅いのにな」
シェア
前の話 →
第五十七話 爆音
← 次の話
第五十九話 方言
間違った創作論を語る作家の話作者:元毛玉(もとけだま)
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

第五十八話 誕生

『二人ともネットの創作論に振り回されすぎだ』

 ビデオ通話の画面越しに千佳伊ちかいが鼻で笑う。

『キャラの解像度を高めるために重要なのは、周囲にいた人たち、環境の方だ』

 千佳伊の例え話が続く。

『仮に高校デビューをしようとしたキャラがいたとして、同じ言動をさせたとしても成功失敗は変わる。そのキャラが成功と感じたかどうかが重要だ』
「話なげぇよ。何が成功失敗を分けるのか手短にな」

 仙の指摘を受け、千佳伊がやや早口になる。

『一目惚れした人がいる上位グループ数人から失笑されたのか、気になる相手からは好意的に受け入れられたのか。それだけで天秤の針は真逆に傾くこともある』
「そのキャラだけを深掘りしても、キャラの解像度は上がらないってこと~?」

 千佳伊が頷く。

『だから、バックボーンとはそのキャラが何を言ってきたかよりも、誰とどういう出会いをして、どんな言葉を投げかけられてきたかが重要なのだ』
「だからなげーって!」
「チカチカのキャラプロット。あと何キャラだっけ?」

 弧見が疑問を口にし、千佳伊が胸を張る。

『あと、17人だな。単純試算で340万文字が設定だけで必要だ』
「なぁ、どう思う?」
「〝硝子の仮免〟の完結は楽しみだよね~」

 長話をしすぎたせいか、バッテリー表示が赤くなった。

「あ、チカチカごめ~ん。そろそろバッテリー切れそう」
『ふむ。こちらも残量が......う、うぐ......』

 急に千佳伊が苦しみだす。

「おい、どうした千佳伊!?」
「チカチカ!? チカチカ!?」

 画面の向こうで千佳伊が倒れた。
 そこでバッテリー残量がなくなってしまう。
 慌てた仙が電話をかける。

「ダメだ繋がらない!」
「急いで帰らなきゃ!」

 どれだけ急いでも1時間以上はかかる。
 仙は改めて電話をかけ直した。

『ハイハイハイ! お引越し! ハイお引越し!』
「頼む! 緊急事態なんだ! 助けてくれ!」

 背に腹は代えられないと判断し、お隣さんに頼み込む。
 タクシーを捕まえ、電話をつないだまま乗り込んだ。
 移動中もやり取りを続ける。

『ピーーポーー! ピーーポーー!』

 電話の向こうで救急車の音が聞こえた。

 ───────────────────

 総合病院。

「おぎゃあ! おぎゃあ!」
「黄泉さん。2450グラムの女の子です」
「おめでとうございます。千佳伊さんの容態も安定していますよ」

 駆けつけた二人は涙を流してその場にへたり込んだ。

「......早すぎだよチカチカ」
「小説の続きは遅いのにな」
シェア
次の話第五十九話 方言
間違った創作論を語る作家の話作者:元毛玉(もとけだま)
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません